「体験」として持ち帰らせる
表現の自由度が高いOOHは、「見せる」だけでなく五感で「体験させる」演出が得意。アイスがその場でもらえる、週をまたぐと広告が切り替わる。そんな演出で、通りすがりの一接触を特別な時間へと変えていく事例が目立ちました。
たとえば、「最終楽章 響け!ユーフォニアム」の上映記念企画として展開された楽譜広告。実際の楽譜をそのままビジュアルにした広告で、最初は譜面だけだった(画像左)ものが、奏者の手書きの書き込みやマーキングが加わり、作中の世界観を追体験できる“使い込まれた楽譜”へと変化した演出で展開されていました(画像中・右)。
3月に遭遇した、mineoの広告では、恵比寿駅〜恵比寿ガーデンプレイスを結ぶ歩く歩道で展開。「歩くよりはラクだけど、乗り物ほど速くはない」という絶妙なスピードの歩く歩道で、「いまあなたが乗っているこれ、3Mbpsの快適さとまったく同じ」と語りかけられるため、理屈ではなく感覚で納得させられてしまう仕掛けでした。
4月に新宿で展開されたミニストップの北海道ミルクソフトの広告もユニークでした。ポスターにある指定のマークに「スマホをピッとタッチする」と、その場でソフトクリームの無料クーポンが必ずもらえるという太っ腹な企画……ではあるのですが、使えるお店が「運任せ」のガチャ仕様に。通常のクーポン配布ではなく、運試しの要素を加えたことで、新宿駅を通る人たちが楽しめる企画として盛り上がりを見せていました。
体験型広告の肝は、やはり“持ち帰れる何か”を残すこと。モノ(アイス、クーポン)でも、行為(変化に気づく、体感する)でもいい。「見た」こと以外を五感のどこかで「感じ」させることで、ただすれ違った広告より深く刻まれ、強く印象に残せます。
ワールドカップ関連広告
2026年上半期を語るなら、これを外せません。街のあちこちでサッカー関連の広告が見られました。いくつか印象的だった事例を紹介します。
渋谷パルコ前で展開されていた、PCメーカー「レノボ」の広告です。パルコ前では、巨大サッカーボール展示、近くの大型面では、キャプテン翼に登場する技「スカイラブハリケーン」を、高さ・シュート角度・滞空時間でガチ解析。テックの小難しい話を、サッカーと漫画のロマンに翻訳した展開で、現地では写真を撮る方が多く見られました。
続いて、新宿駅で展開されていたこちらの広告。選手の子ども時代から日本代表となった今の姿を重ね合わせて、一枚で見せた演出。「街の誇りを、世界へ」というコピーだけで他の文字情報はありません。かといって選手それぞれの個人プロフィールなども書かれておらず、歩行者が各ビジュアルに対して、自由に解釈できる余白が残っていました。こちらも関連UGCが数多く見られた事例です。
続いて、山手線車両をジャックしたDAZNの「熱狂トレイン」施策。中吊り複数枚に穴が空いていて、最後の一枚にボールがゴールに入ったビジュアルが。車両を丸ごと使った仕掛けになっていました。中吊りを一枚の面として捉えるか、「複数枚の同じポスターが並んだ空間」と捉えるかで、企画のアイデアが広がります。
新宿駅のボックス型サイネージを活用したみずほフィナンシャルグループの広告です。都内各所で見られた同社の広告ですが、この事例ではボックス型のサイネージ下にスタジアムの芝を感じさせるグリーンのフロアシートが。動画を見ているとピッチ内を走るシーンが出てくるのですが、そこと地続きになっており、強い没入感のある展開でした。
最後は、中吊り広告で展開されていたREGZAの広告です。日本代表のオランダ戦があった週に遭遇したのですが、クリエイティブ内に「オランダ戦」の記載がある点が印象的でした。
即時に近い時事性(審査・印刷・設置のリードタイムがあり、本来はOOHが苦手な領域)を、予測不能な変数には触れず、うまくクリエイティブに盛り込んでいました。「ワールドカップに関連した」以上に「ワールドカップのオランダ戦に関連した」広告で、当事者意識を強く感じた事例です。
スポーツの大舞台は、街と広告を一気に束ねる稀有な機会。テレビやスマホが一人ひとりに向けた体験だとすれば、OOHは、その場に居合わせた人で共有する体験になります。広告が「邪魔なもの」ではなく、その場の一部として受け止められる、これはOOHならではの強みではないでしょうか。
OOHは今や「推し活」の一部に
最後に、私が感じた「変化」についてシェアさせてください。
以前から傾向として感じていましたが、ここ半年は特に、男性タレント・男性アイドルを起用したOOHをよく見かけるようになりました。
強いファンダムを持つグループやタレントが起用されると、その広告を撮るためにファンが現地へ足を運ぶ……都内ではすっかりお馴染みの光景です。影響力の大きさから、広告の前に警備員が常駐するケースもありますし、私自身、SNSのダイレクトメールで「あの広告、どこに出ていましたか?」と尋ねられることも少なくありません。
かつてOOHは、企業が「商品を知ってもらう」ために人通りの多い場所へ出すものでした。それが今は、推し活の一環として撮られた写真が、デジタル上で何倍にも増幅されていくケースも少なくありません。派生する露出まで含めれば、現地での接触数をはるかに超える広がりが見込める手段になった、とも言えるでしょう。
とはいえ、タレントやIPの人気だけで数字が伸びるケースも多く、それがコラボ商品への関心に結びついているかどうかは別の話です。数字マジックや「量」だけにとらわれず、「内訳(=質)」まで見て、初めて広告物として評価できると考えています。
2026年下半期は、どんなOOHに出会えるのか。ワールドカップの熱気に包まれた街を歩きながら、今から楽しみにしています。
