「社内調整」がマーケターの武器になる
実は私自身、若い頃は「社内調整」が大嫌いでした。コンサルタントとは、誰も気づかない「正解」を見つけ出し、美しいプレゼンでクライアントをひれ伏させるヒーローだと信じていたからです。
転機は30代中盤の「飲み会」でした。営業でクライアントと飲む機会が増えるうちに、彼らが最も熱量を注いで話すのが「社内の愚痴」「キーマンの噂」「仕事の悩み」、つまり社内調整の苦労話だと気づいたのです。それ以来、日中も相手の領域に踏み込むようにしたところ、「正解を教えてくれる人」から「一緒に会社を動かしてくれる人」に信頼のレベルが変わっていく実感を得ました。
この「一緒に会社を動かしてくれる」役割こそ、AI時代に求められると私は考えています。分析はAIが代替し、コピーもAIが書き、施策アイデアもAIが出す。しかし「困っている役職者を見つけて、絶妙なタイミングで種を届けて、資料化して、予算化まで持っていく」、この一連の泥臭い動きだけは、AIには絶対にできません。
「定石」を研究し続けてきた私がたどり着いた結論は、「定石だけでは組織は動かない」という一見矛盾した命題でした。書籍では、正解を実行に移すためのもう一段深い技術を、あらゆる角度から具体的にまとめています。読者の皆さんが、社内調整という仕事に誇りを持って踏み出す、その最初の一歩を後押しできる本になれば、著者として嬉しく思います。
なお、続く後編では、個人技だけでは超えられない「組織の力学」を、KPI・権限・文化の3要素で紐解いていきます。あわせてお読みいただけると幸いです。

