組織と個人の目的をシンクさせる最強のフレームワーク
セッションを聞いていると、中東氏が課題を分解し、構造化してわかりやすく表現することを心がけていることが伝わってくる。次のステップでも、チームのミッションを分解し、チームメンバーが「ジブンゴト化」するための明快な方法が紹介された。
まず中東氏は「リーダーがするべきことは、仕事の優先順位を決め、3つほどに絞ること」と指摘。その方法として示されたのが、中東氏がこれまでのキャリアを通じて磨き上げた「目標の因数分解」を行うフレームワークである「KBOツリー」だ。
KBOツリーでは、大きな目標をKGI・KBO・KPIの3階層に分解する。KBOとはKey Business Objectiveの略で、非数値の定性的な表現で表すのがルールになっている。
たとえば、実際の法人マーケティング部門で活用するには、KGIに「売上・利益の目標金額」を置き、KBOに「Thought Leadership獲得」「デマンドジェネレーション」「データドリブンマーケティングの実現」など、抽象的な表現を設定する。ここでKBOには具体的な目標数字をつける必要がない点が重要だ。
続いてKPIレイヤーにはそうしたKBOが達成されているというのはどういう状況なのかを検討し、具体的なKPIを決めていく。たとえば「Brand Perception Indexの目標値」、「オンラインストアにおける目標売上額」等がこうしたKPIにあたる。
上図からもわかるように、数値化されたKGIとKPIの間に挟まれた非数値のKBOは、上下にあるKGIとKPIを整合させる楔となり、自分が何をすべきかを明確に表してくれるものとなる。
「リーダーが上位目標となるKGIを定めたら、チームメンバーはその目標を達成するための指標となるKBOとKPIを自分で決めて宣言することで、ジブンゴト化されます」と中東氏。上司から個人の目標が降りてくるのではなく、「上司の目標を達成するための自身の目標を自分で考え、発表する」という場を作ることが重要なのだと言う。これによって初めて、上位目標と数値化された個人目標がシンクし、ミッションが自分ごと化するのだ。
KBOツリーで、各人がやるべきことの優先順位も明快になる。その際、どうしても抜け漏れてしまうタスクは発生する。そうしたタスクをやらないことで生じるマイナスの責任を引き受けることも、リーダーの仕事である。もちろん、状況によって優先順位は変わる。「日々刻々と変わる状況を見ながら、当初の目標に向かっていくことが重要です」と中東氏は主張した。
1on1でコミュニケーションの頻度を上げ、信頼関係を作る
次には、定義したミッションへの理解と共感が課題になってくる。ここで中東氏がキーワードとして挙げたのが、「コミュニケーションの量」と「チェンジマネジメント」だ。
まず、組織内のコミュニケーションについて中東氏は説明する。コミュニケーションのためには、まず信頼関係の形成が大前提だ。
中東氏は、話題や話術という属人的な手法に頼るのではなく、コミュニケーションの頻度と量を増やすことによって、人間関係の壁を超えて信頼関係を形成しようとしてきた。
コミュニケーションの頻度と量を増やすための具体的な方法として、多くの外資系で一般的に行われている1on1ミーティングを紹介した。1on1とは週に一度は直属の上司・部下の間で1対1での会話をする機会を作り、仕事からプライベートまで話をできる関係を構築することが目的だ。これは心理学での「ザイアンス効果」を活用しているもので、何度も顔を合わせているとその相手に対する信頼が醸成される効果があるという。「リーダーはまずは頻繁に1対1で話をする場を作る方がいい。話題や話術に過剰にこだわらず、回数を重ねることが重要」と述べた。
次に中東氏が採り上げたのが、チェンジマネジメントだ。メンバーと1on1を行う中で、これまでの行動様式や考え方の変革について必要性を語ると、「おっしゃっていることはわかりますが…」をはじめとした、変化に対するネガティブな反応を受けることがしばしばある。「不平不満は聞き入れるだけではだめ。野放しにしてはいけない」と中東氏は語り、その解決方法が「チェンジマネジメント」であるとした。
「変化にともなう亀裂や抵抗をチェンジリーダーが率先して対応し、変革の狙い・必要性を組織の一人一人へ浸透させていく」(中東氏)