「番組を運用する」思考が、再現性のあるヒットを生む
――「完成された作品をどう届けるか?」ではなく、企画を作る段階でマーケティングが介在する体制になっているんですね。
若村:アイデアありきで偶発的なヒットを狙うのではなく、最初から届けることを意識し、そのための要素を入れていくことが、とても大事だと考えています。恋愛番組の制作体制は、マケティングのプローデューサーと、番組の制作プロデューサー、そして制作と事業の架け橋になるプロダクトマネージャーの3者が一緒に動きます。マーケティングのプロデューサーは、マーケティングの観点を持って、キャスティング、番組の尺、編成などの設計を行い、それに基づいて制作プロデューサーが企画、撮影、編集などの制作を行います。そして、宣伝チームと一緒に、どんなプラットフォームで何のメッセージを発信するかを練り、番組を仕上げていきます。料理にたとえるなら、「どう調理しようか?」ではなく、「こういう調理が前提だから、この素材から作ろう」というようなイメージです。
野村:ABEMAはネットサービスですし、いつでもどんなデバイスからでも視聴できます。だからこそ、「リアルタイムにその番組が見たい」と思っていただけるような番組作り、認知ファネルにどうアプローチするか? まで考えなければ、大切な可処分時間をなかなか割いていただけません。SNSの活用も、同様の考え方で行っています。認知獲得や理解を深めるファネルへ向けた、外部プラットフォーム完結型の施策もあれば、外部プラットフォームと番組やオンデマンド編成の中のコンテンツを掛け合わせ、視聴ファネルを狙う施策もあります。
これらの仕掛けは、制作とマーケティングが一緒になって番組を作る体制があるからできることだと思います。さらにこの体制では、番組作りのPDCAが回しやすいというメリットもあります。番組がスタートしてから、「反応が少ないね」という表面的な会話ではなく「ではどうしていくか?」とすぐに軌道修正の話ができるんです。企画の段階で、いくつか仮説や施策を持っておき、戦略的にどれを推進するかを決める。そして、思うような反応が得られなかったら、違う仮説をあてにいく。その精度を高めることで、ヒットの再現性に繋げています。一発勝負で、伸るか反るかの企画や施策、マーケティングにならないよう心がけています。
マーケティング手法に左右されない
――最後に、Z世代を知るためのアドバイスをお願いします。
若村:繰り返しとなってしまいますが、自分の感覚を頼るのではなく、リアルな今のティーンの姿を捉えることが大事だと思います。それは、SNSを眺めていてもつかみにくいです。高校生が、今どんな言葉づかいをしているか、どんなアプリを使っているかなど、実際に接することからヒントが広がっていきます。流行の変遷が早いティーンなので鮮度も大事ですが、集まる場所は固定化しやすい傾向にあると思います。「TikTokが流行った!」となると、みんなそこへ向かうし、違うアプリが流行ったら、またそこへ向かうように、集まる場所が限られているので、その見極めが求められますね。
野村:著しく変化する世代ですから、感情の細かな機微やトレンド、空気感を常に気にかけることが重要だと思います。そして、この世代に対しては、「これをやれば大丈夫」ということはおそらくありません。アップデートや変化がある前提で、捉えにいく。つまり、運用だと思います。ただ、マーケティングのハックがあるわけではなく、リアルに会ったり声を聞いたりと、汗をかいて知る姿勢が求められます。マーケティングには、しばしば流行ワードやトレンドが生まれますが、私たちは、そこに左右されすぎないように心がけています。手法やメディア論ではなく、顧客視点を持ち、変化を続けることが重要だと考えています。