デプスインタビューとフィードバックで共創を体験
後半のセッションでは、共創の体験事例として、ゲスト聴講者を招いたデプスインタビューのロールプレイを行った。インタビューは、「何をどのような手法で聞くか?」の設計がポイント。今回は、CRAFT Xの既存顧客を対象とし、顧客理解と、CRAFT Xの評価を顧客セグメント別に知ることを目的に設定した。松田氏は、Muscle DeliのCXO山岡氏とZoom上で模擬インタビューをスタート。職業や居住エリアなどの細かな質問から、ビールへの印象、そしてCRAFT Xの味や香り、デザインなどの評価と、他者への推奨度などを聞いていった。
模擬インタビューを終え、松田氏はデプスインタビューで気をつけるポイントを次のように挙げる。
デプスインタビューのポイント
1、「最高の聞き役」を演じる
インタビュイーの発言をそのまま反復するなど、共感の意思表示をしながら有効的な相槌で距離を詰めつつも誘導的な発言は一切行わない
2、「聞く」の前に「知る」
N数が少ない以上、その人がどういう人であるかが回答の背景理解とひいては分析において非常に重要
3、生活者は嘘をつく
思ってもいないことを答えてしまうのを前提とし、その回答の直前直後の表情や行動から確からしさを見定める
まずは、「最高の聞き役」を演じることだ。本音を話してもらうためにも、インタビュイー(インタビュー対象者)の発言を借りた相槌などのコミュニケーションで距離を縮め、心理的な障壁を下げていく。
すると、2つ目のポイントである「聞く」の前に「知る」が活きてくる。デプスインタビューでは、インタビュイーのペルソナが、回答と密接に関与する。たとえば、「このビールは美味しくない」という回答でも、対象者がクラフトビール愛好家か、普段からビールを飲まない人かで、意味合いが大きく変わるのだ。「回答の重みと質を正しく捉えるためにも、インタビュイーを知ることに注力している」と松田氏。
さらに、「生活者は嘘をつく」を念頭に置きましょうと指摘。インタビューの発言が詰まったり、目線やテンションに変化が生まれる瞬間は、インタビュアー(今回の場合は松田氏)に気を遣ったり、よく見られようとして真意とは異なる発言をしている可能性が高い。場合によっては録画の許可を取り、あらためて振り返りをしながら、分析を行うことも必要だ。そして、デプスインタビューの価値は、回答の幅の広さ、インサイトの深さと幅、さらに定量データも加え、すべての結果を活用し、顧客理解に活かしたい。
松田氏によるデプスインタビュー振り返りの後は、さらにゲスト聴講者を招き、フィードバックセッションが行われた。ゲストの一人、マーケターの原氏は、自身がビール愛好家であることを告げた上で、「その人のビール観を聞く質問があれば良かったのでは?」とフィードバック。松田氏は、独自に定めた「クラフトビール習熟度」を参考に、インタビューの回答に即して対象者の理解度を測っていると明かした。

(上段・左から)MOON-X 長谷川氏、MOON-X 松田氏、MarkeZine編集部 福島
(中段・左から)MarkeZine編集長 安成、原氏、翔泳社 長谷川
(下段)Muscle Deli 山岡氏
あわせて長谷川氏は、インタビュイーにとって答えづらい質問があったときのアドバイスを添える。それは、「ファクトベースで過去からの経緯や変遷を聞く方法」だ。仮にビール観を聞くとき、インタビュイーがすぐに答えられない場合は、「ビールを初めて飲んだときのこと」「誰と飲んだか」のように、過去に遡った質問をすると良い。すると、インタビュイーの中で過去から現在に至る考え方や感じ方の変遷が整理されるとともに、インタビュイーにとっての調査対象物(ブランドやサービス・商品)の立ち位置がわかり、インタビュアーにとってもペルソナを理解しやすくなるという。
また、違うゲストからは、「デプスインタビューやアンケート対象者のセグメント抽出方法」について質問があがった。「CRAFT X本リリース前のテスト商品であるクリスタルIPA#000の発売時は、多くの人たちから意見が欲しいと考え、セグメントを絞らず、声を集める手法を増やした」と長谷川氏。ポップアップイベントでの紙面アンケートの他、購入者へ長谷川氏自ら電話インタビューを行い、回答者のペルソナを後から紐付けたという。そして、改善を重ねてきた現在は、マーケティングの目的に応じて、セグメントを分類。「ビジネスフェーズに合わせた、フィードバックの回収やインタビューを行っている」と答えた。