「紙をWebに置き換える」という考え方はしていなかった
第1弾「カート落ちDM」とは
ECサイトで商品をカートに入れたものの買わずに離脱してしまった顧客に対し、デジタルソリューションを活用して「カート落ちから最短24時間以内」にDMを印刷・発送。購入意欲が高いタイミングを逃さないことで、DMを送らなかった顧客群と比べてコンバージョン率を20%アップさせた。
第2弾「小冊子DM」とは
ECサイトでファッションアイテムを購入したユーザーに対し、購入商品を着用する時期に合わせて、Instagramから抽出した購入商品の類似アイテムによる旬のコーディネート情報、その着こなしを実現する自社商品の提案を、顧客別の内容に構成して小冊子として届ける。カタログに対するロイヤリティが上がりづらいWebの顧客層のレスポンスを約10%アップさせた。(出典:第33回全日本DM大賞Webサイト)
MarkeZine編集部(以下、MZ):御社は歴史あるカタログ通販企業であり、「紙」と「デジタル」を融合した取り組みを行う先進企業としても知られています。中でも第33回全日本DM大賞でグランプリを受賞した「カート落ちDM」と「小冊子DM」は、業界へのインパクトも大きいものでした。そこで本インタビューでは、石川さんがどのような考えのもと、デジタルマーケティングコミュニケーションを設計していらっしゃるのか、これから紙のDMを取り入れていきたいマーケターはどのような点に留意すればいいのかを、教えていただければ幸いです。
はじめにこの2つの施策を着想したきっかけから、お話しいただけますか?
石川:私がディノス・セシール(現DINOS CORPORATION)に入社したのは2016年2月なのですが、3月には既に施策の構想を練っていました。それまでEC専業でキャリアを積んできた中で、リアルがデジタルに完全に置き換わることはないだろうと感じていたからです。
EC市場は伸びているものの、国内BtoCのEC化率は現在に至っても10%に届かない程度(出典:経済産業省 電子商取引に関する市場調査)。いずれはWebでの取引がリアルをしのぐ世界がくると読んでいた時期もありましたが、過半数を超えることはないと確信したのが、2013年頃でした。入社した2016年頃、カタログ業界のトレンドは、固定費としてかかる紙代を圧縮してWebに持っていくというものだったのですが、その結果「カタログを削減したら、売上も利益も削られてしまった」と各社が苦しんでいる状況でした。
私にも「紙を削った分を補填できるよう、Webを強化してほしい」というオファーがありましたが、リアルとデジタルをつないでこそ、当社の価値が発揮されると考えており、紙をなくすという想定はしていませんでした。
テクノロジーを使い、紙の短所を克服することを目指す
MZ:トレンドとは一線を画し、「紙をどのように使うか」を考え続けていたのですね。
石川:はい。入社してまず、当社のDMに関する過去の施策やカタログのレスポンスの数字などを確認することから始めましたが、ふたを開けてみると、セグメンテーション技術の高さに衝撃を受けました。セグメンテーションはWebの専売特許だと思っていたのですが、紙のほうが数段レベルが上だったのです。今思えば、1通あたりの配信コストがメールと比べて高いため、その分セグメンテーション能力が発達しているのは当たり前なのですが、外から見ていた時はそれがわかりませんでした。
ただそのことを差し引いても説明できないぐらい、紙は高いレスポンスや購入率を出しており、Webですべてを置き換えるのは難しいと判断しました。とは言え、お客様の生活にデジタルが浸透しつつある状況を踏まえると、紙のカタログやDMがこの先右肩上がりで伸びていく絵を描くのは、あまりに楽観的です。結論として、テクノロジーを使って紙のネガティブな部分を改善し、価値を向上していく考えに至りました。
MZ:どんな点を改善しようとしたのでしょうか?
石川:(1)リードタイムが長すぎる、(2)コンテンツをパーソナライズできないという点です。DMが時間を投下する対象として見られにくくなっているのは、お客様にとって必要のないタイミングに届き、かつ関心がないコンテンツが印刷されていることが大きいと分析していたので、逆にリアルタイムにパーソナライズされた内容を届けることができたら、想像以上のレスポンスが得られるだろうと思いました。
それですぐに印刷会社さんに構想を話してみたのですが、技術とオペレーションの壁に阻まれ、すぐに実施できる環境は整っていませんでした。私もCECOとしてすべきことをたくさん抱えている状態だったので、まずはEC本部という組織を新設し、社内の調整と業界側の調整を並行して行うことにして、2018年に入った頃から、本格的にDM活用の準備を開始しました。これが「カート落ちDM」「小冊子DM」が生まれた背景です。