従来のマーケティング手法・指標の変革を。今、広告代理店が果たすべき役割
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに自己紹介をお願いできますか。
小野寺:電通デジタルの小野寺です。グローバルの大手ブランド広告主様を中心に、デジタル領域におけるマーケティングを支援しております。個人のキャリアとしては、2012年からFreakOutの創業期に携わり、国内外のブランド広告主を中心にDSP/DMPのプロダクトセールスを担当していました。FreakOutの新規上場を経て、Criteo、Teadsといったグローバルアドネットワーク/SSPに参画し、エージェンシーセールスをはじめ、サプライサイドの既存事業拡大やアライアンスなどの経験を積みました。2017年のTeads在籍時に、国内でのThe Trade DeskとTeadsの間のプログラマテック接続をした際に、The Trade Deskの坂本さんと出会いました。その後、2019年電通デジタルに入社、現在に至ります。
坂本:The Trade Deskの坂本です。私は2016年にThe Trade Deskに参画し、現在はセールス担当として、代理店様や広告主様のサポートをしております。前職を含めて17年間、デジタル広告の企画と営業に従事してきました。
MZ:今回は「デジタル広告激動期のメディアプランニング」をテーマにお話を伺っていきたいと思います。近年著しいデジタル広告の環境の変化に対し、エージェンシーはどのように動いていますか?
小野寺:昨今のデジタル広告においては、2018年のEUでのGDPR施行を機に、プライバシー保護規制の強化、ブラウザでの情報利用の規制強化が進み、大きな潮流にあります。また、スマートフォンの普及やテクノロジーの進化、コロナ禍による働き方や生活者様式の急速な変化など、企業と生活者との接点が多様化し、いかに生活者とのコミュニケーションを最適化していくかに注力していく必要があります。電通デジタルは、企業と生活者の「より良い顧客接点」を作るべく、従来のメディアコミュニケーションに留まらず、包括的にフロー型・ストック型のマーケティングコミュニケーションを支援することに日々挑戦しています。
今回のテーマ「メディアプランニング」に関する具体的なところでは、Cookie規制をはじめとするデータ環境の変化、広告媒体の多様化を踏まえ、CPCやCPAといった従来のデジタル広告における主要な指標から変革していく必要があると考えています。ブランディング与件や恒常施策など、施策の目的によって広告を届けるターゲットやメディアタッチポイント、クリエイティブは変わってきます。その変化に沿って、我々代理店が描くマーケティング手法も、選定するプラットフォーム、データやメディア、広告フォーマットなどのプランニング(施策)、指標(KPI)や評価の仕方も、従来のスタンダードなものから適切なものに変えるべきだと考えています。
また、さらにその先の一手を見据え、高いROIにつながる施策やソリューションなど、新しい取り組み・手法を提示し、リードしていくことも我々の重要な役割です。肌感ではありますが、特にグローバルのクライアント様は新しいことに挑戦するという点で感度も高い。その期待に応えられるよう、新たな施策へのトライ、そこで得た洞察や学びを既存の施策に常時反映していくことも重要です。
CTV広告の拡大で近づく、テレビとデジタルの距離
MZ:坂本さんは、最近のデジタル広告の環境の変化をどう見られていますか?
坂本:私は「テレビとデジタルの距離がこれまでになく近づいている」という変化に着目しており、これに際して、小野寺さんのお話にもあった通り「従来指標からの変革」は必須だと考えています。
前提として、日本でもTVerやABEMAをコネクテッドテレビ(以下、CTV)で視聴する人が増えており、グローバル規模でCTV広告の勢いが増しています。これまでは潜在層にリーチするのがテレビCM、顕在層にリーチするのがデジタル広告というふうに役割が分かれていましたが、CTVの台頭によってテレビとデジタルの両方の役割が果たせるようになってきました。このような環境変化は、テレビCMに加え、CTVやDOOH、デジタル音声広告なども含めてどのようにプリファレンスを獲得していくのか? という問いを投げかけています。デジタル広告の指標の一つであるCPCというKPIはすでに顕在化が終わった層へのリーチを測るものであり、この場合のKPIには適していません。今まさに「従来指標からの変革」が求められています。
複雑化するメディアプランニング、エージェンシーの現状は?
MZ:メディアプランニングに与える影響としては、プラットフォームの分散と拡大も大きいのではないでしょうか。
坂本:メディアプラットフォームの多様化は2つの課題をもたらしています。1つ目は、デジタルエージェンシーの作業量の増加です。「多様化=プラットフォームの増加」は、エージェンシーの作業量の増加とイコールであるとも言えるでしょう。本来ならば、なぜこのクライアントの商品が世に存在しているのか? どのように潜在層へアプローチし顕在層へと変容させるか? などクリエイティブなことに頭と時間を使うべきです。しかし、プラットフォーム別の素材入稿、タグ発行と設置、データ分析、レポーティングと作業量は増えていく一方です。
小野寺:おっしゃる通りですね。特に、タギング(タグの発行)を始めとする配信のセットアップ・運用・レポーティングなどの作業は扱うメディアの数だけ発生します。さらに、各プラットフォームの技術アップデートや仕様の変更はもちろん、新興系プラットフォームなどの情報収集からクライアント様へのアナウンス(提案)など、日々の稼働においてリソース不足の課題は顕在化していると感じます。定常業務に加え、突発的に発生するイレギュラーな対応もあるため、生産性を改善しようにも限界があると思います。
坂本:そうですよね。もう1つの課題は「広告過多」。多くの企業がソーシャル、アドネットワーク、リスティング、純広告などを展開し、一人の生活者に対するフリークエンシーを無視した状態で多数のメディアプランを並行して走らせてしまっています。
ということは、広告を受け取る側は、スマートフォンでもPCでも様々なメディアで同じ広告に何回も当たっている可能性があります。これではプリファレンスの獲得どころかお金を使いながらブランド毀損を引き起こしてしまっている可能性すらあり、お金を無駄に使っている懸念があります。本来は一人の生活者に対して適切な回数、適切なタイミングで、適切なコミュニケーションを行うように設計し管理すべきです。
オープンインターネットの可能性にも着目
MZ:そのような課題がある中、メディアプランニングをどのように考えるべきでしょうか?
小野寺:クライアント様によって、テレビCMを集中的に行う、デジタルシフトを加速させるなどニーズは様々です。そのため、メディアプランニングにおける1つの正解はないと考えています。
その上で、デジタルにおいては、私は「Google(YouTube含む)、Yahoo!、LINE、Meta(Instagram含む)、Twitterなどの主要なメガプラットフォーム」と「The Trade Desk」を同列で考えています。The Trade Deskでは、オープンインターネットの広告在庫を中心に、マルチチャネルで広告表示が最適化されるため、先ほど坂本さんのお話にもあった広告表示の問題も改善されますし、何よりThe Trade Deskは8,000万以上(※)の生活者にリーチできるオープンインターネットにおける広告基盤があります。
私はオープンインターネットの可能性は非常に大きいと思っています。つい従来のマーケティング手法における主要なプラットフォームに目が向きがちですが、情報量の爆発的な増加にともない、広告メディア(在庫)も大量に増えている。The Trade Deskは、それらの膨大なデジタルメディアに対して、データに基づき、「適切なターゲット、適切なタイミング、適切なクリエイティブ」で広告アプローチを精密にコントロールすることができる、海外ではもちろん、国内でも有数なプログラマティック広告のプラットフォーマーであると考えています。ですが、その一方で、プログラマティック広告は、いわゆる運用型広告の一部とみなされる傾向にあり、検索広告やアドネットワーク、SNS広告などと同じ成果・指標で評価されてしまう悩ましさもあります。
MZ:なるほど。では、ここで改めて「The Trade Desk」のソリューションについて教えていただけますか?
坂本:まず、勘違いされやすいのですが、The Trade Deskはメディアではありません。CTV/OTT広告を含むインストリーム広告/アウトストリーム広告、ディスプレイ広告、オーディオ広告、ネイティブ広告などのオープンインターネット上におけるメディアバイイングをワンプラットフォームで配信し管理ができるセルフ型のデマンドサイドプラットフォームです。最近では、ここにpDOOH(Programmatic Digital Out of Home)も入っています。これらのチャネルを組み合わせ、適切な人に適切なタイミングで適切な広告コミュニケーションを実行し、改善していくことができるのがThe Trade Deskです。
また、バイサイドに特化しているという点が特徴です。DSPはデマンドサイドなので、本来はバイサイドのみに特化すべきであると考えています。これがバイサイドとセルサイドの両方に関わっていると、構造上どうしても利益相反の疑義が生じるため、「買い付けているメディアや価格が本当にフェアなのか? もしかしたらクオリティを無視して利益率が高いメディアを優先的に買わされているのではないか?」「同じユーザーに何回も同じ広告を当てることで、予算消化を促進しているのではないか?」などの疑念が拭えません。
不動産仲介でも“両手”という言葉がありますが、保険や投資などの金融業界でも同様の構造があり、同じような疑義が生じていると思われます。その点、The Trade Deskでは、利益相反が発生しないポジションなので構造上、疑義は生じません。バイヤーが購入したいインプレッションを必要な時に必要な分だけバイイングすることができます。
小野寺:坂本さんがおっしゃる通り、エージェンシーにとって、適正な価格での買い付け、ブランドセーフな環境・在庫であること、ビューアブルなインプレッション(Imp)か否か、そしてIVT(無効なトラフィック)の低減を加味した広告配信における品質担保といった観点から、透明性は重要です。
The Trade Deskは、アドベリフィケーションの点でも安心感があります。The Trade Desk側でIASやMOATなどのアドベリフィケーションツールとも連携ができているため、第三者計測機関による広告品質の評価と、広告配信を実現できます。また、それらの技術仕様のおかげで、代理店側のセットアップ工数の削減(生産性向上)にも繋がっています。
(※)Nielsen Mobile NetView Custom Data Feed 2022年8月度、iOS+Android Smartphoneパネル、ブラウザ+アプリ。The Trade Deskの数値はSubdomainレベル/アプリレベル/指定のアプリを含むBrand Channelレベルで集計された利用者数に基づく。
電通デジタルが実践している、The Trade Deskの3つの使い方
MZ:実際に、小野寺さんはメディアプランニングを考える際、どのようにThe Trade Deskを取り入れているのですか?
小野寺:坂本さんがおっしゃったように、1プラットフォームで一意的に買い付けできる・できないメディア(在庫)はありますが、配信するメディアを増やせば増やすほど、メディア横断でリーチ&フリークエンシーをコントロールするのは難しくなります。受け手にしてみれば、「この広告はしつこい」などとブランド毀損につながりかねません。
よって、CTVチャネルを含むオープンインターネット上での広告配信はThe Trade Deskに一元管理(統合)することで、ユーザーに対して最適なフリークエンシーコントロールを心がけています。その上で、直近のThe Trade Deskの活用においては、次の3つの機能特徴を特に重視して活用しています。
1つ目は、CTV/OTT広告への広告展開です。The Trade Deskでは、ABEMA、TVer、GYAO!やSpotifyなど、国内の主要なCTV/OTTのインストリーム動画面へデリバリーが可能です。各CTV/OTTベンダーのプログラマティック在庫量も他DSPと比較すると多いイメージです。さらに、それらの中でもパフォーマンスやコスト効率の良いところに配信を寄せていくなど、CTV/OTTメディア横断での運用を柔軟に行うことができるので、そこも活用しています。
2つ目は、PMP(プライベートマーケットプレイス)をベースに、質の高いプレミアムな媒体をプログラマティックで買い付けることで、ターゲティングとブランディングを両立しています。さらに、広告フォーマットはYahoo!ブランドパネルのようにメディアをジャックするようなハイインパクトな広告フォーマットを採用することで、数値以外の部分で、広告そのものの出てる感を醸成し、認知効果の高いプログラマティック配信を実現することも可能です。さらには、アウトストリーム、CTV/OTT配信に加え、pDOOHへの配信にも注力しています。The Trade Deskは、国内のLIVE BOARD社が保有するDOOHへのプログラマティック配信も可能です。
3つ目は、ブランドセーフティツールを機能させた広告配信の品質管理です。先に述べたように、ブランドセーフな広告配信環境を実現し、クオリティの高いImp創出を実現しています。また、機能とは異なりますが、The Trade Deskのサポート体制は特に手厚く、坂本さんをはじめ、AM(アカウントマネージャー)がしっかりと運用サポートに従事してくれるため、トラブルシュートにも適宜迅速に丁寧に対応してもらっています。毎週定例も欠かさず行っているため、そのようなサポート体制も他のプラットフォーマーとは明らかに異なる部分かと思います。
坂本: 小野寺さんは、The Trade Deskを「プラットフォーム」として捉えて、ファネルを意識したコミュニケーションプランを実施しているところがポイントだと思います。繰り返しになりますが、The Trade Deskは広告媒体ではなくプラットフォームなので、目的や狙いによって様々な活用の仕方があります。DSP/SSPやメディアのことを熟知されていて、海外マーケットにもアンテナも張っている小野寺さんは、常に新たなアイデアを思考、実行し振り返りまできっちりされているので、クライアントにも信用されるのだと思います。
小野寺:私だけが活用できても意味がなく、「チームや組織で再現性ある形にしていくこと」は目下チャレンジしているところです。新たな取り組みから得た成果・知見をシンプル化して、再現性のあるものにすることは、自身が担当しているクライアントはもちろん、他の広告主様へのバリュー提供にさらに直結すると思うので、引き続き注力してまいります。
メディアの垣根、既存の指標・プランニングを越えていく
MZ:常に新しい試みをされているとのことですが、The Trade Deskでトライしたい施策はありますか?
小野寺:The Trade Deskという透明性が高く、スタッフレベルのサポートも手厚いプラットフォームを最大限利用し、デジタルはもちろん、DOOHやテレビ(CTV含む)の組み合わせ、さらには来たるアンチトラッキング時代に向けて、Unified ID 2.0の活用など、色々なことにチャレンジしたいですね。CTVにおいては、ビデオリサーチの発表では、テレビとインターネットの結線率はすでに50%を超えています。これからハード(TVそのもの)を買い替える人やこれから買う人も、これからはネット結線されていることがスタンダードになります。
また、NHKの国民生活時間調査の発表では、30代以下の生活者のテレビ視聴が大きく減り、インターネットを利用する人が8割に上っています。次なるターゲット顧客世代・潜在的な顧客を捉えていくためにも、テレビとデジタルをいかに組み合わせていくべきか、その指標をどのように定義し、評価PDCAとしていくのかなど、従来のマーケティング手法を変革し、挑戦し続けたいと思います。
MZ:最後にThe Trade Deskの展望をお聞かせください。
坂本: NetflixとDisney+のセルサイドとしての広告参入が話題になっていますが、日本でもThe Trade Desk経由でバイイングできる日が近くやってくると想定しています。また、交通広告や店舗、施設、エレベーターなどの様々な室内広告はデジタル化が進み、RTB(Real Time Bidding)が導入され、The Trade Desk経由でバイイングがされるようになると思っています。なぜなら、オープンな環境でのRTBはバイサイド、セルサイド双方にとって大きなメリットがあり、合理的だからです。
もうひとつ、テレビとデジタルの距離が近くなっているという話を冒頭にしました。現状は広告主企業においてもエージェンシーにおいても、テレビとデジタルで担当部署は分かれていますが、今後は共通の指標が確立されることで組織も統合されていくはずです。そうなると、何が起きるか?
「テレビ×デジタル間において広告をロジカルに最適化していく時代」がいよいよやってきます。たとえば、TVCMの投下期間に「狙っている層にリーチできているか? 指名検索数は増えているのか?」などをリアルタイムでThe Trade Deskプラットフォームにフィードバックし、チャネルやクリエイティブ単位などの入札が自動最適化されていくでしょう。また、DOOHもそこに加わり、これらがシームレスに配信、分析、リプランニングと回り続ける世界になってきます。
このようにチャネルが増え、バイイングが複雑になるほど、The Trade Deskは機能的な強みを発揮します。たとえば、チャネル別×メディア別×クリエティブ別×気温、曜日、時間帯別などの無数の入札ロジックをThe Trade Deskは持つことができます。さらに、独自のアイデンティティグラフを用いて、CTV/OTTを出し分けていくことも可能です。バイイングの複雑化や自動化は不透明さをもたらすことが多い一方、バイサイドに特化しているThe Trade Deskは透明性を担保し、どんなに複雑なバイイングでも粒度細かなレポートですべてを示します。これは短時間で細かな分析を可能にし、的確なリプランニングへと導くほか、エージェンシーやクライアントなどバイサイドへ安心感をもたらします。
広告は本来「コミュニケーション」であり、受け取る側と企業との間において良い関係を築く必要があります。The Trade Deskは、そのような関係を構築することを支援し、信頼できるパートナーとしてお役に立てると思っておりますし、そうなれるよう精進してまいります。