オルビス“が”いいと選んでもらえるように
——なるほど。ただ、それまでの業績が目に見えて不調だったわけではないのなら、社内の方々の意識を統一するのは難しかったのでは?
そうですね、戸惑いと混乱はとても大きかったです。おっしゃるように業績は伸び悩んでいたものの一見は安定していて、これまでのやり方で実績を作ってきた自負もあり、それがいろいろな意味で成功体験となってルーティンを変えにくくなっていました。
ですが、いろいろな構造上の数字を確認すると脆さが目立ちました。キャンペーンなどによる見かけの売上は立っていても、このままではいずれお客様が減り、衰退期に入っていくと意識したことが、リブランディングの入り口になりました。
——それから、具体的にどのようなプロセスで進んでいったのでしょうか?
プロセスでいうと、大まかに3ステップありました。創業時から成し遂げたかったことに立ち戻り「スマートエイジング」という提供価値を打ち立てたこと、それを社内に何度も伝えて浸透させたこと、そして最後は組織風土、働き方も見直してマインドセットから染め上げました。
まったく別のブランドに変わるのではなく「原点に立ち返る」のだと、とにかく話し続けました。未来に向けてオルビスが価値を提供し続けるには、価格訴求などを介した「オルビス“で”いいや」ではなく、「オルビス“が”いい」と改めて思っていただくことが大事だと。そして、オルビスの良さを理解して選んでくださる方と丁寧にコミュニケーションを図ることは、創業時から実は私たちが続けてきたことで、本質は変わらないということを伝え続けたんです。
マインドから染める社内の意識統一
——何かをがらっと変えるのではなく、原点を思い起こしてもらったと。
そうですね。リブランディングというと、新しいメッセージや商品を打ち出さなければと考える方も多いですが、そうではないと思うんです。核になる要素は、必ず社内にあります。当社では、私たちの商品を紹介する過去のカタログから、代表の小林が「スマートエイジング」という言葉を見つけて、これが私たちのブランドの提供価値だと再提示しました。「スマートエイジング」とは、年齢に抗うのではなく、変化を前向きに捉えながら、その人その人の持つ美しさを引き出していくことに価値を見出すということ。
オルビスの特徴だったオイルカットは、あくまで肌をきれいにする手段であって、他にも方法はたくさんあります。大きな目的は、その人それぞれの「肌が本来持つ力を信じて、引き出す」こと。何をするにも、「スマートエイジング」という提供価値に合致しているか、肌本来の力を引き出すことにつながるか、を自問自答しながら進めていけるように促しました。
——社内への浸透では、どういった苦労がありましたか?
やはり、気づくと以前のやり方に戻ろうとする力が働いてしまうことです。一気にマインドを変えていくのは難しかったりもするので、「マインドセットから染め上げる」ことを意識して、対話を重ねていきました。
過去にどのような商品をリリースしてきたか、カタログや取材された雑誌から細かく拾い、世の中にどう提示していたかも含めて社内の廊下に掲示して、メンバーに見てもらったりもしましたね。そのときどきで切り口や技術は違っても、私たちは創業時から一人ひとりのお客様の肌のことを考えて商品を作り続けてきた、と振り返る機会にもなりました。
最終的には、メンバーが自分の言葉でオルビスが目指すことを語れるか、本当に自信を持って、人に伝えたくなるほどのものづくりができているかを大事に、社内の意識と行動の統一に注力しました。
——マインドセットから染め上げる、というのは印象的な言葉です。組織風土にも関わる改革だったのですね。
はい。ものづくりという業務の考え方を変えるだけでなく、一人ひとりの働く姿勢や生き方も、オルビスというブランドが反映されたものであってほしいと考えました。お客様一人ひとりに寄り添い、その肌の美しさを考えて引き出すブランドなら、そこで働くメンバーも個々の能力を最大化しているようにしたいと思ったんです。そのため、人事制度や昇給制度も見直しました。採用の軸も、検討し直しました。
また、組織自体も刷新しました。通販から始まった事業なので、以前は通販事業部、店舗事業部などチャネル別になっていたのですが、マーケティング部門、執行を担う営業全般を含めたCRM部門、管理部門の大きく3つに再編しました。商品企画は当社ではマーケティング部門に置きました。
これは、この時代のお客様の変化に沿った判断でもありました。今では一人のお客様がいろいろな買い方をされますよね。店舗でテスターを試してネットで購入される方、電話で問い合わせした上で店舗に行く方など……。店舗と通販のポイントシステムも同じほうがいいですし。すべて、企業の都合ではなくお客様を起点に設計しないといけないと思います。大きな組織再編は創業以来でしたが、このタイミングで必要な刷新でした。