企業組織で必須となりつつあるマーケティングオートメーション
マーケティングオートメーション(以下、MA)は、メルマガ配信や顧客分析などの機能を兼ね備えたデジタルツールで、昨今の企業組織におけるマーケティング活動ではもはや必須ともいえます。
本記事では、そんなMAをマーケティング戦略に適切に組み込むための基礎知識について解説しますので、企業のマーケティング担当者はぜひ参考にしてください。
マーケティングオートメーション(MA)とは?
マーケティングオートメーション(以下、MA)とは、見込み顧客情報の獲得〜商談化までのフェーズを効率化し、 商談獲得数を最大化するためのシステムです。見込み顧客の興味や関心に合わせて、効率的にマーケティング施策を展開することができるため、近年導入が進んでいます。
そもそも、企業が受注数を増やすためには、1件でも多くの商談機会を持つ必要があります。しかし、イベントで名刺交換したり、直接問い合わせてくれたりした見込み顧客全員が、自社に高いレベルで関心を抱いているとは限りません。
顧客は購買に至るまでに情報収集を重ね、競合商品と比較を行った結果、予算や購入時期などの条件が整ってやっと商談にたどり着くものです。特に、商材の単価が高いBtoBにおいては、初回のセイハローから商談まで数年かかるケースも珍しくありません。
とはいえ、営業担当者が数多の見込み顧客に対して、逐一状況を伺い続ける方法は非効率的です。そこで、MAツールを活用すれば、煩雑な業務を効率化できます。
MAツールの主要機能
MAツールがマーケティングで期待される主要機能としては、以下のようなものがあります。
- リードマネジメント
- メール配信
- LP(ランディングページの作成)-Web行動の可視化
- ナーチャリング
- アナリティクス
- 顧客管理
「MA = メルマガ配信」というイメージが一般的ですが、MAを活用したメール配信においては、クリックなど顧客接点で起きた顧客の行動履歴をすべてデータベースに蓄積することで、興味関心に関するデータを収集できます。
またMAツールでは、広告キャンペーンに必要なLP(ランディングページ)の作成も可能です。多くの場合、フォームを設けることで、見込み顧客は自身の入力情報と引き換えに、無料でホワイトペーパーやeBookといった役に立つ資料を取得する形で、等価交換が成立します。
このようにアプローチすることで、見込み顧客のメールアドレスや会社名などの静的な情報だけでなく「どういった情報に関心があるのか」といった情報も獲得できるのです。
そのほかの重要な要素としては、MAが本質的にマーケティングの「データベース」の役割を果たすことも挙げられるでしょう。
社内に散らばった名刺情報や顧客データを集約し、各顧客のオンラインにおける行動分析から顧客の興味関心を取得することで、仮に短期で商談化しない見込み顧客であったとしても、マーケティング戦略を策定するうえでは重要なインサイトになります。
「必要な場面で必要に応じて情報を取り出せる」状態を築けば 、自社のあらゆるマーケティング施策を加速することが可能です。
MAツールが必要になっている背景
MA市場は2014年に米Oracle社が「Oracle Cross-Channel Marketing(旧:Eloqua)」の日本でのサービス提供を開始して以来、拡大の一途をたどっており、最近のMAツール利用企業の増加はさらに顕著です。
株式会社矢野経済研究所の「DMP/MA市場に関する調査を実施(2021年)」によると、MAツールを導入する企業が増加傾向にある最大の理由の一つとして、「対面営業の機会減少」が挙げられています。
また、Sansan株式会社が2021年に実施した「今年の出会いとビジネスに関する調査」によると、「仕事で初対面の社外の人と出会う機会に変化があったか」との設問に対して、約7割(『とても減った(37.8%)』『少し減った(29.6%)』の合計値67.4%)のビジネスパーソンが減少を実感していることが明らかになりました。
特にBtoBにおいては、営業といえば「フィールドセールス(対面営業)」がメインでしたが、昨今の企業担当者は、必要な情報を事前にオンラインで収集したうえで、製品サービス提供企業にコンタクトする手法が一般的になりつつあります。
つまり、営業担当者が比較・検討段階にある顧客に会うこと自体、以前に比べて難易度が上がっているのです。
ほかにも、従来は顧客の検討段階の早い段階でリードを獲得することが望ましいとされていましたが、情報収集のオンライン化が進んだことによって、自社が認知しづらいプロセスで顧客側の製品やサービス選定が進むようになりました。
ようやく顧客コンタクトできたとしても、その時点でほぼ選定が終わってしまっている、といった状況になりつつあるのです。
企業側からするとインサイトやニーズを打ち明けてくれないリードに「非対面のコミュニケーションで、いかにコンバージョンにつなげるか」は、マーケティングを実行するうえでの課題といえます。
だからこそ、「オンラインで効率的に顧客開拓・接点構築を図る」ためのMAツールが注目され、導入が進んでいるのでしょう。
MAツールのマーケティングにおける活用範囲
MAのマーケティングにおけるおもな活用領域は、以下のとおりです。
- リードジェネレーション(創出)
- リード管理
- リードナーチャリング(育成)
- リードクオリフィケーション(絞り込み)
次項より、それぞれの詳細を解説します。
リードジェネレーション(創出)
マーケティングにおいて、見込み顧客の創出は「リードジェネレーション」と呼ばれ、各施策を成功させるための最初のステップです。リードジェネレーションは、厳密には0から顧客を生み出す活動を指し、オフライン/オンラインによって活動内容は異なる取り組みが求められます。
オフラインで行われるリードジェネレーションのおもな内容としては、以下のようなものが挙げられます。
<オフラインのリードジェネレーション>
- インサイドセールス…架電によるアポイントを取り、訪問する営業活動
- DM/FAXの送付…リスト化された顧客へのDMやFAXの送付
- チラシパンフレットの配布… ポスティングや手渡しなどでの配布
- マス広告…テレビや雑誌、OOH(駅や看板などの屋外)への広告出稿
- セミナーやイベントなど…自社に関するセミナーや展示会で名刺交換など
一方、オンラインで行われるリードジェネレーションの内容は、下記のとおりです。
<オンラインのリードジェネレーション>
- オウンドメディア運用…コンテンツマーケティングを通じて自社サイトやコンテンツに送客する方法
- SNS運用…TwitterやFacebook、LINEなどを活用してリードを獲得する方法
- 資料ダウンロード…ホワイトペーパーなどの資料をダウンロードする際に個人情報の入力を促す手法
- デジタル広告…リスティング広告やディスプレイ広告などでLPなどへ送客する手法
- ウェビナーや展示会など…自社に関するセミナーや展示会イベントをオンライン上で行い、参加者情報を取得する手法
MAツールを使えば、上記のようなオンラインでのリードジェネレーションを効率化できます。
前述のとおり、オンラインにおける顧客接点は重要なポイントです。オンラインのリードジェネレーションを成功させるためには、顧客データに基づいた制度の高い施策が不可欠であるため、企業組織としてもMAを導入して注力する意義があるといえます。
リード管理
リード管理とは、オフラインやオンラインで獲得したリードを一元管理することです。「KPI(重要業績評価指標)」の設定や測定も可能で、MAを使った行動履歴にもとづくデータ分析や仮説設計により、コンスタントなビジネスチャンスの創出が可能になります。
ただしリード管理においては、データを集めたうえで、MAツールの運用における「名寄せ」や「シナリオ設計」を行うことが重要です。
名寄せとはリードが持つ会社名や住所、連絡先や名前といった、多くのデータを適切に統合する取り組みを指します。名寄せによって情報整理をしない場合、データ重複しによって顧客への連絡が重複し、信頼を損なう可能性があるため注意が必要です。
名寄せで集められるデータには、次のようなものがあります。
- 会社名
- 会社住所
- 氏名
- メールアドレス
- 電話番号
- 申し込み履歴
- アクセス履歴
こうしたデータを一つひとつ確認し、分類するのは大変な作業ですが、MAツールを活用すれば自動化が可能です。
また、シナリオ設計をしておけば「リードがどういったフェーズにいるのか」も明確になるため、次のアクションをスムーズに決められるでしょう。
リードナーチャリング(育成)
見込み顧客の育成は「リードナーチャリング」と呼ばれます。リードナーチャリングは、商材の単価が高く、顧客側の検討サイクルが長くなりやすい企業において特に重要な取り組みです。
自社プロダクトの単価が高ければ、顧客が商材購入を決定し、成約するまでには多くの時間がかかることが想定され、失注にならないようにその期間もアプローチして接点を保ち続けなければならないためです。
リードナーチャリングの手段は、オフラインとオンラインによって異なりますが、オンラインでは、次のような手法を組み合わせ実施します。
- オウンドメディアやSNS
- ホワイトペーパー
- メールマガジン
- ウェビナーの開催
前述したとおり、MAツールを使えば上記の施策を「自動化」できるため、ナーチャリングも効率的に進められます。
ただし「育成する」という考え方は、極めて自社寄りの視点である点にも留意しなければなりません。顧客側に存在しないニーズを思い込ませようとするのではなく、あくまで顧客ニーズを起点にして自社商材の訴求を行う意識が大切です。
そのためにも、普段からMAツールにデータを集約分析し、アプローチする顧客単位のニーズを明確化しておく必要があるでしょう。
リードクオリフィケーション(絞り込み)
見込み顧客のなかから顧客となりそうな候補を絞り込み、営業へと引き渡すプロセスを「リードクオリフィケーション」と呼びます。
また、「リードジェネレーション→ナーチャリング→クオリフィケーション」の3ステップは、「デマンドジェネレーション」とも呼称されます。
リードクオリフィケーションに効果的なMAツールの主要機能の一つとして「スコアリング」が挙げられます。スコアリングとは、MAで管理するリード属性や行動などの情報について、あらかじめ定義したルールに基づいて、点数化し「評価」する機能です。
たとえば米Oracle(オラクル)社公式サイトでは、スコアリングについて以下のように紹介しています。
Lead scoring helps your marketing and sales teams identify where a prospect is in the buying process and the right follow-up
「リードスコアリングはマーケティング営業が、『顧客が購買サイクルのどこに位置しているのか』『適切なフォローの方法は何か』を見極めるのに役立つ(筆者訳)」
つまり、データに応じて点数化することで、確度の高いターゲット顧客をベストなタイミングでフォローできるようになるのです。
なお、スコアリングにはおもに以下の情報が用いられます。
- Webサイトの閲覧履歴
- 資料ダウンロードなどの行動履歴
- セミナー/ウェビナーへの参加履歴
- 職種や役職といった属性情報
正しいスコアリングのためには、「データクレンジング」も求められます。データクレンジングとは、「問題があるデータのパターンの抽出」や「修正ルールの決定」により、正確な集計や分析ができるよう、データをきれいにして使いやすい状態にすることです。
これにより、分析に役立たないデータが大量に蓄積される、いわゆる「データが汚い」状態を避けられます。
MAツールとCRM・SFAの違い
MAと同時にマーケティング戦略に組み込まれやすいデジタルツールとして、「CRM」や「SFA」が挙げられます。各ツールの機能やMAとの違いについても、しっかりと把握しておきましょう。
CRMとの違い
CRMは、顧客情報を管理し、自社の従業員やサービスとの接点を記録するアプリケーションで、おもに下記のような情報が記録されます。
CRMが記録するおもな情報
- 顧客の属性情報(名前、住所、電話番号、メールアドレスなど)
- 接触情報(購入した製品やサービスの情報、会員情報)
- 自社側の対応情報(営業の訪問履歴、コールセンターの対応履歴など)
こうした顧客に関する情報を担当者ごとにバラバラに管理している場合、活用の幅が限られてしまいます。
そこで、CRMで顧客情報を一元管理し、必要な部署や従業員に共有することで、顧客満足度やLTV(Life Time Value:ライフ タイム バリュー)の向上、効率的なオペレーションの実現などに役立てることが可能です。
MAツールも顧客情報を管理するため、CRMと重複する部分がありますが、それぞれ異なる特性を持っています。
CRMは顧客の属性データを蓄積し、管理することに特化している点が特徴で、MAツールは顧客情報を活かしてマーケティングを行う点が特徴です。顧客の行動情報を収集し、自動化された施策の実施や社内アラートの配信などを行うなど、MAツールはマーケティングプロセスの各フェーズで幅広く活用できます。
SFAとの違い
SFAは営業活動の支援を目的としたシステムであり、CRMの一部として扱われるケースもあります。主要機能は、以下のとおりです。
SFAツールのおもな機能
- 顧客情報の管理(企業名、部門名、役職など)
- 営業活動の管理(活動記録、営業スケジュール、使用ファイルの共有)
- データ管理(レポート機能、ダッシュボード機能)
SFAを使えば、各営業担当者の顧客に対する営業活動や進捗状況、商談内容、売上情報などを記録できるため、顧客とのミスコミュニケーションの低減にもつながります。
また、部署内で情報を共有することで、業務分担や支援も効率的に行えるようになるでしょう。
ほかにも、SFAにトップ成績の営業マンの活動内容を学習させることで、ほかの営業担当者にも最適なプロセスやアクションを提示できるようになるなど、部門内でのサポートにも活かせます。
MAツールとSFAの関係性については、「MAを使ったマーケティング活動を通じて、見込み顧客の購入意欲を高める→その見込み顧客に対し、営業担当が商談を行う段階で、SFAに営業活動を記録する」といった形で、役割分担することが可能です。
MAツールをスムーズに運用するための事前準備
MAは、ただ導入するだけでは期待される効果を発揮しません。MA導入の際は、以下のような点に留意する必要があります。
- ビジネス戦略の言語化
- データガバナンスの策定
- プラットフォーム戦略に基づいたツール選び
ビジネス戦略の言語化
MAツールを導入したマーケティング戦略を成功させるためには、自社のビジネス戦略を明確に言語化したシナリオ設計が不可欠です。そのためにも、顧客ニーズについて深掘りし、そ「自社はどんな価値を提供できるのか」を明確化する必要があります。
そういった提供価値を定義化してはじめて、「自社が進めるべき施策は何か」「自社は顧客や「どのようなコミュニケーションを図るべきなのか」といった、施策レベルの検討が意味をなすといえるでしょう。
つまり、単にMAツールを導入して自動化すればいいというわけではなく、自社のビジネス戦略、およびそれにひもづいた運用プロセスを整えつつ、シナリオメールや、それに反応したユーザーへの社内対応を考える必要があるのです。
MAツールの導入においては、施策レベルで求められる要件をシステムに落とせるように、戦略レベルでの要素を事前に言語化しておきましょう。
データガバナンスの策定
前述のとおり、MAツールの運用で成果につなげるためには、整った情報を集約・分析する必要があります。そのためには、運用前段階での自社データガバナンスの定義化が必須です。
MAではすべてがデータで判断されます。そのためデータを入力する際に、あらかじめ要件が定義されていなければ、正確なデータ分析ができません。
たとえば、データの入力ルールが決まっていない場合、「部長」という1つの単語に対して「部長/マネージャー/Mnager/Maneijer(タイプミス)」などの不必要なデータの収集が発生し、分類が不可能になるといった事態になることもあるでしょう。
そのためMAツール導入時は、「顧客のフォームへの入力」「自社が収集したデータのアップロード」「営業部門が抱える顧客情報の入力」といった、データが流入するポイントを洗い出し、自社内の入力ルールを策定する必要があります。
プラットフォーム戦略に基づいたツール選び
MAツールを導入する際には、自社にあったツール選びも重要です。これは単に「BtoCかBtoBか」という大枠の話ではなく、各部門の思想を反映させ、多くの場合は要件を出しながら決めていくことと捉えましょう。
また「MAツールを扱うのはマーケティング部門のみ」「SFAやCRMには営業部門しか関わらない」といったように、結果的に部門間の連携が図られないままに導入が進んでしまわないよう意識することも大切です。
MAツールの導入でマーケティング戦略の効果を最大化させるためには、MA単体の運用構想を描くのでは不十分といえます。「自社のビジネス戦略の全体像からプラットフォームの全体像を捉えること」を前提に、全社的に求められるツールを選定しましょう。
まとめ
マーケティングの主戦場がデジタルにシフトしつつある昨今において、MAツールの重要性は日に日に高まっています。MAツールを活用すれば、膨大かつ煩雑なタスクを効率的に実行できるだけでなく、より深いリード分析も可能です。
MAツールは他ツールと組み合わせることでより効果を発揮しますが、期待される主要機能を活用するうえでは、自社における運用体制が整っている必要があります。
ツールの扱い方についてのナレッジが不足している場合は、外部専門家の力も借りつつ、MAを組み込んだマーケティングを成功させましょう。