技術の導入よりも深刻な、コミュニケーションの課題
日本DX人材育成機構の代表理事を務める田中恒平氏は、事業会社のSEO、広告運用、YouTube動画の撮影・制作編集などを手掛けている。また、AIとマーケティングの融合・開発も行っており、実際にChatGPTやNotionAIを活用して生成した動画を披露した。
動画は、一見田中氏が話しているように見えるものの、実は読み込ませたテキストを田中氏の音声で読み上げている。そのAI田中氏が、自動で記事を生成しWordPressに自動投稿するといった、最先端のプロセスを紹介した。映像AIとChatGPTを連携させることで、あらゆる業務が可能になることがわかる。
しかし、いくらAIが進化しても解決しない問題が「人間同士の対立」だ。「コミュニケーションがかみ合ってない組織で魔法のツールを導入しても、これまでとまったく同じことが起きます」と田中氏。それを防ぐために何をするべきかということが今回のテーマだ。
「むしろ事業会社の皆様にとっては、こちらのほうが喫緊の課題。セールスとマーケティングの間でコミュニケーションに溝があるという話は、昔から扱われてきた議論です」(田中氏)
田中氏は、1つの損失事例と3つの成功事例を交えて、この課題の乗り越え方を解説した。
BtoBにおけるセールスとマーケティングの対立
まず、田中氏は損失事例について紹介した。BtoB企業において、セールスとマーケティングが目的意識やソリューションに対する認識を異にしているからこそ、物事が進まないという事例はよくある。
これを田中氏は「交通事故があったとき、利害関係者が半径30センチの距離感で話し合うと、衝突が起きる。同じことがビジネスの現場でも起きているということ」と説明。「交通事故であれば弁護士や保険会社が間に立ってくれるが、組織内には利害関係のない人物、かつ事故に精通した専門家はアサインされていないからです」と考察した。
部門同士、特にセールス・マーケティングの溝が埋められないまま、社内の議論を進められると一体何が起きるのか。田中氏は、自身が企業支援の中で向き合ったケースを例に挙げた。
「2021年10月に、SFAで成約金額と広告のクリック単価のデータを連携して機械学習させましょうと提案をしました。しかしこの施策が社内の摩擦によって最近まで2年間放置されていたんです」(田中氏)
営業パーソンにとっては大事な顧客データ。自分たちの予算で自分たちが築いてきたデータの山を、他部署が使うことに抵抗感があったのだという。その2年の間、SEOやUI/UXの改善を含めて施策はすべてペンディングになり、堅調に伸びていたアクセスは大きく落ちた。
田中氏は、自社の施策が進まない間も他社は柔軟に対応していくので、競合他社との差が開いて物理的損失を生んでいると指摘。さらに、その2年間のチームメンバーの人件費も無駄にしていると考えると、間接的に損失は大きいのだ。
結果的にアクセスが減少し問題が認識されれば、マーケティングの発言権が強まり施策が全部通ることも多い。しかしチームの維持費を考えると、待っているだけでは課題を乗り越えたとは言えないだろう。
では、どんな建設的な解決方法があるだろうか。
『SEO記事を連続自動投稿できるAIツール、どこかにない?』
はい。あります。ChatGPTからワードプレスに記事や指示書を連続自動投稿できるツールを弊社で開発いたしました。ただし、導入を通じた施策推進、プロンプト指導やチーム育成をお受けする『対話型ソリューション』となっています。詳しくは『天声(TensAI)』公式サイトからお問い合わせください。
成功事例1:施策が魔法のように採用される、第三者の意見の重要性
1つの解決方法としては、外部の意見や専門家の監修がマーケティング施策において重要であること、企業内コミュニケーションにおいて第三者仲裁機関が必要であることだという。社内の合議は利害関係のない外部ベンダーや第三者の意見に、強く影響されるからだ。
実は、先述の2年間ペンディングしていた「ゾンビ施策」は、皮肉なことに大きなアクセス事故が出る直前に前進していたという。そのプロジェクトでは外部ベンダーに開発を依頼しており、外部のエンジニアが「こういう改善をやるといいと思います」と、ゾンビ施策とまったく同じ提案をしてきたのだという。
まったく利害関係のない外部エンジニアが言うことで、施策の内容はまったく同じだが魔法のように意見が通ってしまったそうだ。
「社内摩擦は交通事故と同じだと言った通り、第三者の仲裁を入れることが1つの課題解決の手段になると思います」(田中氏)
成功事例2:CPAが6分の1になった、全権委任の工夫
続いて田中氏は、ある法人営業支援プロジェクトでCPAを6分の1まで削減することに成功した事例について説明した。成功の鍵は「現場のオペレーションを阻害していた社員の熱い思いをクールダウンして、エージェンシーに全権委任すること」だったという。また、現場の心理的安全性を担保することも重要だという示唆も得た。
「セールス組織は虎の子の予算で広告費を捻出するので、セールスの熱い思いのこもったリクエストが、インハウスのマーケターにも外部の広告エージェンシーにも投げられます。そうすると、熟練のマーケターたちも沈黙を守ってしまい、営業組織のリクエストばかりが通ってしまう。結果、標準の広告のパフォーマンスさえ出ない状態になってしまいます」
このケースでは、社員のリクエストは一旦田中氏がすべて吸収し、エージェンシーを選定。全権をエージェンシーに預けることで、自由に動かすことができたという。そしてキャンペーンの統一化や自動運用の活用といった広告運用のセオリーを制限なく実施することで、目に見える成果が出てきた。田中氏はそれを「エージェンシーの手腕」として、エージェンシーの信頼感を高めたことで、さらに社内のオペレーションが円滑になったのだ。
「それまでの定例会議は、不信感を前面に出した詰問の場所になっていました。それが柔和な議論の場に変わっていった。これだけで、1問い合わせあたり10万円だったCPAは、3万円台に安定したのです」(田中氏)
パワーバランスの不均衡によって片方の部署の意見ばかり通りやすくなってしまうところを、田中氏が客観的な立場で間に入ったことでうまくいった成功事例だ。田中氏は「信頼関係さえできれば、その先は仲裁者なしでも自走し、他社で成果が出ている施策を自分たちで採用することもできる。結果的に現状の獲得単価が1万円を切った」と、部署連携における心理的安全性が高まった成果を語った。
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成功事例3:第三者の活用で、SEO施策の優先度UP
3つ目の成功事例として田中氏は、第三者(田中氏)の仲裁を利用して施策のスピードを上げ、検索順位を圏外から1ページ目に引き上げたケースを説明した。
このケースでは、田中氏が支援する以前からチーム内に非常に有能なSEO担当者がいたが、SEO以外の施策の開発優先度が高く、やりたい施策がセールス部門や経営層の承諾を得られないことが課題だった。
そこで田中氏は「上から答えを教えるというよりは、答えを引き出すアプローチを採った」と振り返る。SEO担当者に「やりたい施策を全部言ってください」と促すと、開発工数を理由に通らなかった施策も挙がってきた。開発優先度をいかにして逆転させるかが鍵だったという。
田中氏は検索エンジンのアルゴリズムの成り立ちを高精度に把握しており、世界的なAIプラットフォームの品質評価を行った実績もある。田中氏が資料を作ってそれを経営層に見せることで、「専門家が言っていることだから間違いないだろう」と開発優先度が上がり、施策を実施したところSEOの効果が現れた。マーケターが第三者の意見を上手に利用したわけだ。
仲裁に入る側は、現場の理解を大切に
田中氏が、社内の軋轢をなくす鍵である「第三者」としてふるまう際、気をつけていることがある。それは現場を理解すること、ときに古典的な「根回し」をすることだ。
「事業会社ではセールス部門のほうが力を握っているケースが多いので、セールスアシスタンス部門などの業務を巻き取って現場になじむことが多いです。私も現場の人間なので、デザインやコーディングといった作業を一緒に行います。チームとしてもなじむことで、セールス部門のリーダーにあらかじめ決裁を得やすくなるのです」(田中氏)
外部の人が入っていった先で、すんなり意見を聞いてもらえるわけではない。根回しのほか、「チームが取り組んでることを、最大限肯定する」ことも大事にしているという。田中氏は「皆さん実践を重ねてきて、現場の痛みをよく知っている。そういった文脈で接すれば失敗しないと思います」と語った。
最後の総括として田中氏は「AIが進化しても社内政治はなくならない」と強調。数年盛り上がってきたDXに、さらに新たなガソリンとしてAIが登場している現在だが、「ここは1つスローダウンして取り組んでいただきたい」と田中氏。部署同士の不均衡なパワーバランスを放置したままテクノロジーを導入しても迷走してしまう。社内合意は第三者に強く影響されるので、うまく利用しない手はないのだ。
「組織の摩擦において、自分でがんばって説得することも1つの手ではありますが、それではAIで自分の分身をいくら作っても足りません。マーケターの皆さんのためにも、第三者をうまく活用することで一旦肩の荷を下ろすことは悪くないのではと思います」(田中氏)
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