※本記事は、2023年6月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)90号に掲載したものです。
【特集】明快な方程式がなくなった、メディアプランニングの今
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統合マーケティングは「PR First , Advertising Second」
──はじめに「PR」の定義を教えてください。そもそも、PRと広告の区別がついていない方も少なくないかもしれません。
PRとは、パブリック・リレーションズ(Public Relations)の略で、「企業や組織が社会と良い関係を築き、それを維持すること」という“概念と実践”を表す言葉です。昔に比べると日本でも理解が進んできましたが、「自己PR」という言葉に代表されるように、PRと言うと「売り込み」に近い意味合いで取られてしまっていることがよくあります。マーケティングにおいても、PR=販促・プロモーションと捉えている人が多いようです。もう一つ、パブリシティ(Publicity)という言葉もありますが、これもPRの一部に過ぎません。記事や番組露出を獲得するパブリシティ活動は重要ですが、PRにおけるパブリシティはあくまで部分的で狭義のものです。
SNSで個人が情報発信をするようになるまでは、メディアを使う他に企業には情報を発信する術がありませんでした。だから、媒体(広告枠)を買うのが広告で、媒体(広告枠)は買わずメディアの意志で発信してもらうのがPR、という最もわかりやすい区分ができていたわけです。基本的に、この区分は今も変わりません。ところが、SNSの登場とともにインフルエンサーの影響力が強くなる中で、PRと広告にグレーゾーンが出てきました。「#PR」もすっかり定着してしまったので、なおさらPR=プロモーションというイメージを持つ人が多くなってしまったように思います。
──統合マーケティングにおいてPRと広告が果たす役割の違いを、どう理解すればよいですか?
シンプルに言うと、PRは「空気をつくる」ものです。商品やサービスを売り込むのがPRの役割ではなく、その商品・サービスが今世の中で必要とされている空気、大げさに言うと世論をつくるのがPRなんですね。買う理由をつくる、外堀を埋めるようなイメージに近いでしょうか。
PR先進国であるアメリカでは「PR First , Advertising Second」という言葉が昔からあります。現代の統合マーケティングにおいても、PRが先で、その次に広告というケースが多い。世の中の空気づくり=環境整備をしてから、広告でダメ押しをするのです。