テレビとデジタルの比較や重複効果分析に課題
──エーザイでは「チョコラBB」ブランドの広告施策において、デジタルとマスを組み合わせた統合キャンペーンを推進しているとうかがいました。
佐藤(エーザイ):以前はテレビCMによるマスコミュニケーションを行っていましたが、動画配信サービスを中心としたデジタル動画の利用率の高まりから、コロナ禍が訪れる数年前からメディアミックスでコミュニケーションを実施するようになりました。
佐藤(エーザイ):認知スコアの改善を目的に30~54歳の女性を中心に広くリーチを狙いつつ、製品理解を促進するため、デジタル施策では静止画広告ではなくテレビCM素材を中心とした動画広告を展開しています。
佐藤(エーザイ):直近ではSNS向けクリエイティブなど、媒体の特性を踏まえた素材を別途制作し、若年層のリーチ拡大や認知スコアの改善に挑戦しています。F1層にアプローチして最終的に購買意向スコアを上げるべく、特に注力している媒体がInstagramです。Instagramは生活者との接点が多いという意味でも重要視しています。
──統合キャンペーンを進めるにあたり、課題に感じていたことを教えてください。
佐藤(エーザイ):テレビCM単体で実施していた頃は、世帯GRPのアクチュアル計測やフリークエンシー分析、それによる認知スコアへの影響分析など、比較的シンプルな検証を行っていました。しかしながらメディアミックス以降は、テレビCMの存在感がまだ大きい背景から、テレビCMと比較した際の効果や役割など、デジタル広告の存在意義を見出す必要が出てきました。当初はそのあたりが見えづらかったため、テレデジ比率やメディアプランの意思決定がしづらい状況でした。
ユーザーのプライバシーを侵害しない分析環境とは
──エーザイと同様の課題を抱えている広告主は多いのでしょうか?
飯田(博報堂DYMP):多いと思います。これまでマスコミュニケーションを中心に展開してきた広告主様も、ターゲティング可能なデジタル広告の活用を進めていますが、マーケティング効果のさらなる可視化のために、マスとデジタルのパフォーマンスを統合的に見るニーズは高まっている印象です。
──先にうかがった課題を解決するため、エーザイではデータクリーンルーム「Metaアドバンスド・アナリティクス」を導入したとうかがいました。Metaアドバンスド・アナリティクスとはどのようなソリューションなのでしょうか?
田中(Meta):Metaアドバンスド・アナリティクスは、広告主ごとに独自の分析環境を用意することで、ユーザーのプライバシーに配慮しながら広告効果の計測・分析を安全に実行できる分析ソリューションです。
田中(Meta): 当社が広告管理画面から提供する通常の計測結果では、性別・年代別など決まった切り口でしか結果を見ることができませんが、Metaアドバンスド・アナリティクスでは広告主が様々な角度から独自の切り口でデータの集計を行うことが可能です。
当社が提供するユーザーの広告接触データに加え、各企業が保有している独自データ、いわゆるファーストパーティーデータと、その広告接触データを掛け合わせて分析することもできるため、Cookieレスなどデータ利用に関するビジネス環境が変化する昨今、高い注目を集めています。
最大のメリットは真の“横”比較ができること
──エーザイでは博報堂DYMPと協力の上、Metaアドバンスド・アナリティクスを活用したキャンペーン分析を行ったそうですね。分析の概要を教えていただけますか?
飯田(博報堂DYMP):「テレビCMとInstagramのリーチ重複率分析」と「テレビCMとデジタル広告のブランドスコア横比較」の二つを実施しました。
テレビCMとInstagramのリーチ重複率を分析すると、その結果次第でメディア戦略の方向性を定めることができます。たとえば「両メディアの重なり減らして、より広く多くの人にリーチする」という戦略も立てられますし、「あえて重複させてユーザーに商品理解を深めてもらい、購買に近づける」という戦略も立てられます。
テレビCMとデジタル広告のブランドスコア横比較には、博報堂DYグループのテレビ・デジタル横断分析ソリューションである「Tele-Digi AaaS」を用い、「テレビCMのみ当たったユーザー」「Metaのプロダクトのみ当たったユーザー」そして「両方に当たったユーザー」のそれぞれで、ブランドの認知率が高まったか、購買する気持ちが高まったかを態度変容ベースで分析しました。
飯田(博報堂DYMP):ブランドスコアの横比較でMetaアドバンスド・アナリティクスを活用する最大のメリットは、同じパネルデータを参照できる点にあります。これまではメディアごとに態度変容データを集めていたため、メディアを同一の指標で評価できていたかと言われると、疑問の余地がありました。その点、Metaアドバンスド・アナリティクスなら同じ条件で各メディアの情報接触効果を評価することができます。
Instagramのみ接触したユーザーは購買意向スコアが高い
──分析の結果、どのような示唆が得られましたか?
飯田(博報堂DYMP):リーチ重複率分析の結果、テレビCMとInstagramの重複率は想定よりも低かったです。テレビCMとデジタル広告のブランドスコア横比較では、態度変容の項目によって結果が異なりました。認知の指標においては、テレビCM単体よりもInstagramと重複させたほうが高いスコアを示した一方、購買意向スコアはInstagram単体でアプローチしたほうが高かったのです。
佐藤(エーザイ):認知スコアに関してはテレビ×デジタルの重複効果を狙って施策を打っていたため、狙い通りの効果が得られました。一方の購買意向スコアは期待通りの結果とはなりませんでしたが、重複していた場合の結果が極端に悪かったわけではありませんので、目的に応じて重複させる/させないを決める配信設計が今後は必要だと思っています。
佐藤(エーザイ):加えて、SNSを中心とする生活者接点の多いメディアでは、数多くのクリエイティブを作ってコミュニケーションの幅を広げたほうが、購買意向スコアをさらに高められるという示唆も得られました。ここに関してはまだやりきれていないと感じているため、試行錯誤しながら今後進めていきたいと考えています。
小売店の購買データも掛け合わせた分析へ
田中(Meta):Metaアドバンスド・アナリティクスは自由度の高い分析が可能ですが、自由度が高いからこそ「何をするか」という分析の目的がはっきり定まっていなければ、そのメリットを享受することはできません。他の計測ツールとは異なり「どのような分析を行うか」を分析を始める前にデザインすることが重要です。
田中(Meta):今回のケースでは博報堂DYMP様の協力により、外部の調査データやテレビの接触データなど、当社だけでは持ち得ないデータを活用し、目的としていたテレビとデジタルの比較や重複効果分析を実現できました。分析の目的とMetaアドバンスド・アナリティクスの提供できる価値がうまくかみ合い、大きなメリットを享受できたと感じています。
──最後に各社の展望をお聞かせください。
佐藤(エーザイ):認知スコアや購買意向スコアを引き続き定点で追っていくことに加え、実購買ベースのデータを持てるようにしたいです。「キャンペーンによってどのくらいの生活者が店頭で購入したのか」といった効果をしっかり可視化していきたいと思います。
また、クリエイティブにもさらに注力したいと思っています。今回ストーリーズ広告だけでなくリールの反応も良かったため、今後は掲載面を意識しながらクリエイティブを制作していきたいと考えています。
ビジネスKGIへの貢献度を明らかにする
飯田(博報堂DYMP):私は広告主様のビジネスKGIに近い指標と、そこに対する各メディアの貢献度を明らかにしていきたいです。テレビ×デジタルの統合的なキャンペーンはもちろん、Instagram単体でもビジネスKGIに貢献できると思っています。
飯田(博報堂DYMP):ただ、現在の媒体の管理画面だけでは明らかにすることが難しいため、もう一歩踏み込んだ支援を提供するためにもMetaアドバンスド・アナリティクスを活用していきたいです。あわせて、佐藤さんがおっしゃっている配信面別・クリエイティブ別の効果を可視化するためにもMetaアドバンスド・アナリティクスは有効な手段だと考えています。
田中(Meta):博報堂DYMP様との取り組みにおいて、ブランドリフト分析も含めたMetaアドバンスド・アナリティクスの活用は今回が初めてのケースでした。今後もエーザイ様と博報堂DYMP様、当社の3社でこの取り組みを続けていきたいと考えています。
多くの広告主様はデジタル以外の施策も含めてマーケティング活動をされています。Metaアドバンスド・アナリティクスでは、購買データなどデジタル以外のデータも用いながら柔軟に分析することが可能です。一方で、プライバシー保護の観点などから、データの活用に難しさを感じている広告主様も多いと思います。だからこそ当社は安心して適切に計測できる環境を今後も整えていきたいです。