顧客ロイヤルティーを阻む2つの壁
デジタルマーケティング+AIの事例として、木村氏は2つの事例を紹介した。1つ目が国内ホテルチェーンの「ホテルモントレ」だ。ホテルモントレでは「顧客ロイヤルティー向上にはパーソナライズしたエンゲージメントが必要」と考えていたが、それを阻む2つの課題があったという。
課題の1つは顧客データの断片化だ。これまでとあるCRMシステムを利用していたが、パーソナライズを実現させるには、適宜手作業で別のプラットフォームへと会員データを移動させる必要があった。結果、顧客データがバラバラになってしまい、顧客ごとに最適なコミュニケーションチャネルを把握できなかったり、ホテルにとってのVIP顧客を特定できなかったりなど顧客に対する理解が深まらなかった。
もう1つの課題は、セグメントに関するものだ。同社の場合は、全顧客対象に一律のメールしか送信できていなかった。一人ひとりにパーソナライズされたきめ細かいコミュニケーションではなく、マス送信だったため、顧客のエンゲージメント向上につながらなかったそうだ。
AIで顧客ロイヤルティーを向上させたホテルモントレ
そんなホテルモントレが、個別最適化したコミュニケーションの実現に向け導入したのが、前述のAppierが提供するAI搭載CDPの「AIRIS」とクロスチャネルMAツールの「AIQUA」、そして、AIチャットマーケティングのBotBonnie(ボットボニー)だ。
まず同ホテルはCDPで自社サイトのデータとCRM内の顧客データを統合。搭載されているAIを活用してユーザー行動を基に嗜好傾向や行動を予測、パーソナライズの基礎を整備した。また、会員になる前の匿名ユーザーの時点から一貫した識別IDを用いることで、データ統合を容易にした。
これにより、ユーザーがホテルモントレのWebサイトを訪問すると、CDPに搭載されているAIエンジンが「サインアップ率」と「価格感度スコア(宿泊費への許容度)」を予測。たとえば、観光客であれば多少価格が高くてもサービスが良ければ予約するが、出張客であれば宿泊費にシビアになるだろうといった予測だ。こうしたユーザーの傾向をAIで分析してエンゲージメントを柔軟にすることで、新規会員の獲得と予約・売上の向上を実現しているという。
またクロスチャネルMAツールを活用して様々なチャネルでのコミュニケーションを行っているという。MAでは蓄積された行動データを基にAIによるスコアリングを行い、最適なオファーや顧客への再アプローチ、プロモーションを行うことでエンゲージメント強化を実現している。