【特集】「知らなかった」では済まされない、法規制とマーケティング
─ 生成AI活用時の「法的なトラブル」を避けるために知っておくべき観点
─ 「ステマ規制」導入で 何が変わる? 企業が押さえるべき ポイントと考え方
─ マーケターが改正電気通信事業法に対応するために必要な3つのステップ
─ ステマ規制のポイント:法令順守と倫理観をセットで考え、判断できるか?
─ ステマ規制のポイント:インフルエンサーを尊重しつつ法抵触のリスクを最低限に!トリコの取り組み
─ 個人データ取得・活用の作法:法令順守の一歩先へ ブランドアセットに紐づく対応を
─ 個人データ取得・活用の作法:「データを提供しても良い」と思ってもらえる体験設計が鍵
─ プラットフォーマーに聞く①多角的に安全で健全な環境を整備し続けるMetaの取り組み
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─ 「今まで同様にやっていきたい」という考えを捨てる時。ステマ規制への向き合い方と注意点(本記事)
WOMJガイドラインと景表法のステマ規制の違い
――10月からステルスマーケティング(以下、ステマ)規制が始まりました。クチコミマーケティング協会(以下、WOMJ)ではステマをどのように定義していますか?
WOMJではステマの定義をしていません。何がステマに当たるか、人によって定義は様々です。WOMJガイドラインを定め、「これさえ守っておけばステマとは言われない」という方法論を凝縮することで、トラブルを防げるようにしています。
WOMJガイドラインと景表法の違いで言うと、景表法では「広告かどうかわからないもの」をステマと定義していますが、私たちは「広告主がわからないこと」も問題視しています。明らかに広告に見えるけど、どこが広告主なのかわからないものってありますよね。加えてインターネット空間の中でのクチコミを対象にしているので、マス媒体やアナログ広告への言及はしていません。
また、景表法は商品やサービスの取り引きから外れたものには適用されません。たとえば、企業イメージの向上を図るために有識者にお金を払い、さも有識者が自発的に企業をフォーカスしたような記事を書いたとしたとしても、ステマ規制の範囲外になります。しかし、WOMJのガイドラインでは規制を設けています。
単純にPR表記をすればいい、では済まない
――法律的に守るべき部分と、業界の自主規制で守ったほうが良いとされる部分があることがわかりました。その上で、具体的に企業はどのような点に注意が必要だとお考えですか?
ステマ規制は消費者庁から「指定告示」というかたちで発せられ、運用基準になるガイドラインが用意されましたが、理解するのが難しい部分です。というのも、指定告示は次の1文だけです。
指定告示:景品表示法5条3号
事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの。
消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」
平たくすると、事業者の表示(≒広告、インフルエンサーに依頼した投稿、など)なのに、(事業者の表示であると)判別が困難なものと言い換えられます。これを整理すると次の図のようになります。四象限のうち右側の判別が困難かどうかは、そこまで難しい話ではありません。問題は左側の「事業者の表示か否か」の境目がわかりにくく、頭を悩ませるケースが多いです。
たとえば、化粧品メーカーがインフルエンサーや美容ライターに新商品をサンプリングやギフティングという名目で配ることがあります。受け取った側が実際に使って、この化粧品いいなとSNSに投稿するのは事業者の表示に当たるのか? 当たらないのか? 線引きが非常に曖昧です。
サンプリング行為はNGなのかという話になりますが、別に実施しても構わないと書かれている部分もあります。しかし、それを信じて実行したところ、事業者の表示だと判断される可能性もあるわけです。では、すべてにPRや広告の表記を付ければいいかというと、そう簡単でもありません。事業会社が投稿をすべてチェックするのは非常に困難を伴うからです。