後発ながら業界2番手まで成長!「おとなの自動車保険」
MarkeZine編集部:今回は「おとなの自動車保険」の施策紹介を通じて、金融業界におけるMeta広告活用のポイントを探っていきます。まずは「おとなの自動車保険」について簡単にご紹介いただけますか。
今井:「おとなの自動車保険」は、見積りから申し込みまでのすべてのプロセスをインターネット上で完結できる商品です。大きな特徴としては、年齢別の事故率に基づいた保険料設定が挙げられます。35歳以上になると保険料設定が一律となる商品が多い中、「おとなの自動車保険」では1歳刻みの詳細な料率設定を導入することで、あらゆる条件のお客様に納得の保険料を提供することが可能となっています。
国内のネット型自動車保険としては後発にあたりますが、おかげさまで現在では業界2番手の地位を獲得するまでに成長しています。
鈴木:自動車保険の業界全体を見ると、ネット型損保のシェアは約10%に留まっており、ディーラーなどを通じて契約される代理店型損保が残りの90%を占めています。そのため、ネット型損保においては、代理店型損保のお客様の乗り換えをいかに促せるかが鍵となります。
また、自動車保険には、各社の商品が似通っていて差別化しにくいという課題があります。保険料も人によっては他社とあまり変わらないことがあり、どのように競争優位性を出すかにも向き合う必要があります。
MarkeZine編集部:なるほど。そのような中「おとなの自動車保険」はどのようなマーケティング戦略を展開しているのか、大枠を教えていただけますか。
今井:マーケティングコミュニケーションについては、以前はテレビCMなどマスを含め幅広く展開していましたが、最近では戦略の見直しを進めています。具体的にはよりターゲットを絞ったデジタルマーケティングへと軸足を移しており、年々デジタル広告の比率が高まってきています。
金融業界×広告出稿のトレンド
MarkeZine編集部:自動車保険を含む金融業界では、広告活動に関して、近年どのような傾向が見られますか?
信山:広告市場全体におけるデジタル広告の伸長については言うまでもありませんが、その一方で無視できないのが、Cookie規制の影響です。業界を問わず、リターゲティング広告の比率は年々低下しており、結果的に検索連動型のプロモーションに偏りがちな傾向が見られます。これは、結果としてオークションプレッシャーを高め、CPC上昇を招くでしょう。
特に金融業界では、この傾向が顕著に表れています。たとえば、自動車保険は契約の満期時や事故発生時など、ニーズが限定的かつ瞬間的な商材であり、さらに検討期間も比較的短いという特性があります。そのため、ターゲティングが難しく、プッシュ型のアプローチが困難なのです。
このような状況下では、ディスプレイ広告も効果的に活用し、リーチを広げつつ比較検討へつなげていく施策が肝になるでしょう。
松村:ディスプレイ広告も様々ある中で、私は金融業界において注力すべき媒体はMetaであると考えています。ユーザー数や可処分時間の伸長、ターゲティングの多様性、最適化の精度が優れているほか、リーチコストが比較的低い傾向にあることや、顧客保有データおよびセカンドパーティデータが活用できる仕組みを持っていることも強みです。
何より、複雑で理解が難しく、自分ごと化されづらい金融商材においては、ソーシャルメディアかつ動画プラットフォームとしてもユーザーが日常的に触れているMetaでのコミュニケーションを効果的に活用することが、マーケティングを成功に導くための重要なポイントだと考えています。
Meta広告で成果をあげるポイント
MarkeZine編集部:では、金融商材でMeta広告を効果的に活用する際のポイントを教えてください。
松村:Meta広告で成果をあげるポイントは「運用」と「クリエイティブ」、それぞれにあると考えています。クリエイティブに関するポイントには金融ならではの要素もありますが、運用面については業種業界問わず重要なポイントです。それぞれ分けてご説明します。
まず、Meta広告の運用に関するポイントですが、我々は広告のクリック数や資料請求数といった初期段階の指標(手前指標)を重視して評価を行い、顧客獲得の最大化を目指すことが大切だと考えています。Cookie規制やMetaプロダクトの仕様から、奥指標を定常的に評価することは難しい中、奥指標より手前のポイントを中心に運用の最適化を行っていくことで最終的な顧客獲得に繋がる可能性を高めることができます。
信山:もう一つ、運用面で外せないのは、Meta広告の自動化プロダクトである「Meta Advantage」シリーズの活用です。「おとなの自動車保険」でも、20代へのリーチを高めたいという目的のもと、当社独自のツールと「Meta Advantage+」の「Advantage+ショッピングキャンペーン(以下、ASC)」をあわせて活用し配信しました。ASCを取り入れることで、広告運用に必要な個別設定を含むプロセスの多くをAIで自動化しながら、成果を高めることができています。
具体的には、ASC活用の前後で比較するとCVRが1.6倍になり、CPAはおよそ半分にまで下がっています。ちなみにこちらは20代へのリーチを強めたいという目的のもと、当社独自のツールとASCをあわせて活用し配信した結果です。ASCの特長を最大限に活かすために、我々が培ってきたケイパビリティもこの結果に表れていると思います。
MarkeZine編集部:ASCについては、広告代理店各社、活用ノウハウを蓄積されている印象です。セプテーニも、ASCの研究に力を入れていますか?
信山:はい。当社はASCに早期から着目し、“自動化プロダクト”というブラックボックスになりがちなASCをしっかり活用するため、専門チームを設置して科学的に分析しながら、日々理解を深めてきました。そうした研究が実を結び、2023年の「Meta Agency First Awards」で「Best solution ASC部門」最高位のGOLDを受賞しました。またMeta社が主催するイベントのASCパートに登壇するなど、実績を残すことができています。
規約が厳しい金融業界では、「量産」より「精度の高いヒット」が必要
MarkeZine編集部:続いて、クリエイティブに関するポイントを教えてください。
松村:クリエイティブに関しては、前述のとおり金融業界だからこその要素があります。まず、自動車保険をはじめとする金融商品は、内容が似通っていてどうしても訴求が同質化しやすい傾向があります。そのため、広告のデザインでいかに訴求したいことを助長できるか、ユーザー体験を損なわずいかに自分ごと化を促し興味を持ってもらえるかが、非常に重要になってきます。
基本的には、ユーザーがメディア内でどういうモチベーションでスクロールをしているのか、どういう情報を求めているのかを捉え、Meta独自のコミュニケーションを作っていくことが前提です。それに加えて、Instagramであれば次のようなポイントもあります。
1.デザイン面はビジュアルとしての質が重要。「非現実感や理想」を想起させるような見え方のほうが反応率が高まる。
2.ユーザーは「役に立つ情報かどうか」という軸で、その投稿の情報を読み込むかを瞬時に判断する。そのため、How To的なコンテンツのほうが注視率が上がる傾向にある。
3.日々のスキマ時間にながら見をするシーンが多いため、一瞬手を止めてもらうようなアテンションがCTR向上に大きく寄与する傾向にある。
とはいえ、金融業界にはレギュレーションが厳しいという特徴もあります。広告クリエイティブに関しても、すべて事前に審査をかけなければなりません。そうした制約もあるため、金融商材でMeta広告を活用する時は、クリエイティブを“量産”するのではなく、ヒット率の高いものを“精度高く”生み出していく必要があります。当社では、最近のトレンドであるAI予測も活用しつつ、最終的には人が監修をするようにしています。このアプローチにより、規制を遵守しながらも効果的なクリエイティブを生み出すことを目指しています。
今井:厳しいレギュレーションにより、PDCAサイクルを回すことが難しい金融業界ですが、それでもセプテーニさんには多くのクリエイティブアイデアを生み出していただいています。私たち以上に商品に精通していると感じることもありますし、社内では気づきにくい視点を提供してくださることもあります。
前提として高いパフォーマンスを出してくださることはもちろんですが、このようにクリエイティブのバリエーションや戦い方の引き出しが豊富であること、さらに運用面においても、ASC専門チームがあるとのことで、AI×自動最適化についてもしっかりハックし細やかな調整を行っている印象がありますね。
Instagramで反応がよいクリエイティブの最新トレンド
MarkeZine編集部:実際に「おとなの自動車保険」は、Meta広告でどのようなクリエイティブを展開しているのですか?
信山:市場のトレンドとして、Metaが提供するInstagramのストーリーズやリールをはじめ、TikTokやYouTubeショートといった縦長動画面のユーザー数や可処分時間、売上が伸び続けています。この流れを受け、Meta広告のクリエイティブでは縦型動画×UGCへの取り組みが必須となっており、「おとなの自動車保険」でもUGC風のクリエイティブに注力しています。
松村:具体的には、「見積りして浮いたお金で、焼き肉いけちゃいました!」など、自動車保険の見積り~乗り換えによってもたらされる未来を想像させるような内容で、UGC風のクリエイティブを制作し配信しました。結果、予想以上に良い効果が得られています。ユーザーの日常的な設定に落とし込まれた、ある意味広告っぽくないクリエイティブがウケたのではないかと思います。
自動車保険を含む金融商材は、考えることを億劫に感じてしまうユーザーが多い商品です。保険などの乗り換えへの興味や動機付けを高めるには、よりユーザーに近い世界観でアプローチすることが重要だと考えています。UGCクリエイティブは今後より本格的に取り組みを進めていく予定です。
鈴木:「おとなの自動車保険」のメインターゲットである40代・50代の認知は広がっている状態ですが、20代・30代の若年層に対してはまだ十分にリーチできていません。この課題に対応する目的もあり、我々もUGC風クリエイティブの施策には手応えを感じています。Instagramというプラットフォームの特性とUGC風のクリエイティブ、加えてMetaの広告配信技術を組み合わせることで得られる相乗効果があるはずです。
顧客行動に繋がるマーケティングを目指して
MarkeZine編集部:最後に現在掲げている目標や、運用・クリエイティブを含め今後挑戦したいと考えている施策についてお聞かせください。
今井:引き続きUGCの施策には力を入れていきたいです。通常のコミュニケーションでは反応しない方々に対して、新しいアプローチで働きかけることを目指しています。
さらに、現在の広告業界が抱える課題を考慮すると、ファーストパーティデータを活用した取り組みにも関心があります。プライバシーポリシーに関する問題に対応しながら、慎重に検討していきたいですね。
信山:ファーストパーティデータ活用に関して、Metaはカスタムオーディエンスで外部データの突合が可能な媒体であり、当社内でもそれを活かした取り組みや実績が増えています。インタレストが推測に基づくのに対し、外部データは実データを活用しているため、確実にターゲットとするユーザーに届けることができます。「おとなの自動車保険」をはじめ、より多くの広告主様に活用していただきたいです。
松村:金融業界は、比較的広告の出稿量が多く、多数の企業が認知度向上に向けた施策を行っているものの、それが実際の顧客獲得に結びつきにくいという課題が指摘されています。
そこで、当社では顧客が商品やサービスを認知してから実際に検索するまでの中間段階である「ミドルファネル」に注目し、研究を進めています。認知度を向上させるだけでなく、実際の顧客行動につながるマーケティング戦略の実現を目指していきたいです。