「子どもとのお風呂は皿洗い⁉」調査で浮き彫りになった本音
MZ:ブランドの立ち上げには、どんな背景があったのでしょうか。
綿引:当初、会社として「いち髪」「ディアボーテ」に続く第3のブランドを立ち上げるべく検討した際、未対応だった家族市場向けのヘアケアブランドを開発する方向性に決まりました。
2016年の当社調査によると、子どもが3歳前後の頃にベビー・キッズシャンプーを卒業し、親と共用のヘアケアにブランドスイッチするタイミングがあるとわかりました。そしてその際のブランド選びには、ママ自身の髪に合わせて選ぶ「I」目線と、子どもの髪に合わせて選ぶ「YOU」目線の2つのパターンがありました。
しかし、ママ側の「I」目線の場合は「子どもに使っても大丈夫か」という不安があり、逆に「YOU」目線で選ぶ子ども向け製品は、成分も優しいがゆえに親側が満足できない。どちらを選択しても悩みを抱えていることがインタビューを通して見えてきました。そこで、どちらか一方に合わせるのではなく、親子両方に満足いただくことを軸に「We(親子)」目線で価値提案をできるよう開発をスタートしたのです。

綿引:当社の調査では「バスタイムをゆとりある時間にしたい」と考える方は77%にのぼる一方、24時間365日無休かつ多忙な「ママ業」の中、入浴はさっと済ませなければなりません。商品の開発関係者にも「子どもとのお風呂って、皿洗いみたい」と表現した者がいたほどです。お風呂という場でのコミュニケーションやケアが作業になってしまっている問題を解決したいと考えました。
顧客の本音を引き出すリサーチのポイントとは
MZ:これらのインサイトをブランドに落とし込むため、どのようなリサーチに取り組みましたか。
綿引:開発当初は、子を持つ母親である私自身が感じる悩みや要望を出発点に、ブランドの方向性を検討できました。ただ「私一人というN1のニーズは、N2以上に拡大できるのか」と考えた時、いかにターゲット顧客の共感点を探していけるかが次のステップでした。
そこで社内外を含めて何度も調査を行い、グループインタビューなども重ねました。本社や研究所のワーママたちにお風呂事情を尋ねるなど、自分たちで直接話を聞く機会を作ったのもポイントだと思います。現在は、先ほど紹介したファンコミュニティで、アンケート調査やデプスインタビューなども行っています。
商品棚や市場環境の観察や分析も大切ですが、モノの向こう側にある使う人の気持ちまで想定することが欠かせないと考えています。意外と、ネガティブな気持ちや本音に新たな切り口が隠れているかもしれません。
MZ:実際にそのような本音を引き出す質問作りのヒントがあれば、教えていただきたいです。
綿引:シャンプー開発となると、つい「髪の悩みはなんですか」「どんなダメージをケアしたいですか」といったストレートな質問をぶつけがちです。でも、その手前にある「このお客様はどういうお風呂時間を過ごしたいのか」を掘り下げることこそに、ヒントがあると感じました。
インサイトとは、具体的な何かが欲しいというより「本当は○○をしたい、○○でありたい」という気持ちかもしれません。インタビューでは商品のその先にある一人ひとりの暮らしに寄り添い、「どうありたいのか」を話していただける問いかけが大切だと思います。
MZ:確かに具体的な機能や悩みにフォーカスすると、企業サイドの欲しい答えを誘導しかねませんね。
綿引:また、インサイトを見つけるだけでなく、仮説に落とし込みコンセプトを作ることも非常に重要です。私たちはインタビューなどN1への調査で見出されたヒントを定性調査にかけて確認し、「共感されそう」とわかったらさらに定量調査に進むステップを踏んでいます。
「マー&ミー ラッテ」では、そうやってできたブランドコンセプトを起点に、機能性・香り・デザインなどの商品開発からプロモーションまでを検討することで、すべて「We」視点に紐付けています。コンセプトという核が明確になることで、ブランドとしてすべきことや目指す方向性もぶれずに定まり、お客様にも共感いただけるのです。