アルバム単位→曲単位の聴取へシフト
──はじめに、高畑さんの簡単なご経歴と、現在担当している業務の内容を教えてください。
2005年にエイベックスへ入社してから約10年間、情報システム部門に所属していました。メールサーバーの保守運用や、従業員が使っているPCの管理など、クライアント環境を整備するような仕事を担当していました。

現在はITシステムグループという組織で「データを用いた意思決定を行いやすい環境を提供する」というミッションを負っています。マーケティング部をはじめ、事業部の意思決定を支援するようなデータを提供したり、分析を支援したり、データを自由に使える環境を提供したりしています。
──チームは何名構成ですか?
データエンジニアと呼ばれる職種のメンバー5名が所属しています。PythonやSQLが得意なメンバーや、ツールに精通しデータを可視化するスキルを持ったメンバーなどです。最近は生成AIを用いたプロジェクトが増えているため、プロンプトエンジニアリングのスキルも求められるようになりました。
──技術の発展にともない、音楽の聴かれ方やヒットソングが生まれる背景も変わっているように見受けます。音楽業界を長きに亘ってリードしてきた御社の視点から、市場および産業の変遷をお話しいただけますか?
インターネットの台頭が大きな転換点であることは間違いありません。SpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスが登場し、音楽の聞かれ方はガラッと変わりました。膨大な数の楽曲に常時アクセスできるようになり、アルバム単位から曲単位の聴取へとシフトしたのです。気分に合わせてプレイリストで聞くスタイルも一般的になりました。
新しく出会う曲=新譜とは限らない
昔はテレビやラジオが新しい楽曲との主なタッチポイントでしたが、今はストリーミングサービスのレコメンデーションによって自身の好みに合う新しい楽曲と出会う機会が増えました。加えてSNSもあります。「新しく出会う曲=新しくリリースされた曲」とも限らなくなっているのは確かです。
ヒットの生まれ方も変わりました。昔はテレビドラマの主題歌に決まるなど、ヒットに至る“王道”が存在しましたが、最近はYouTubeのほか、TikTokなどの縦型ショート動画からヒットが生まれるケースもあります。私が学生の頃は、クラスの皆が同じ曲を聴いていましたし、カラオケに行っても皆が同じ曲を歌っていたものです。今は流行りの曲こそあるものの、皆の好きな曲が多様化しています。
──市場の変化を踏まえて、御社のマーケティングも変わってきたのでしょうか?
昔は、新しくリリースする曲がプロモーションの主な対象でした。それがストリーミングサービスの登場以降、旧譜のプロモーションにも力を入れるようになったのです。これまではあまり目を向けることのなかった旧譜のマーケティングに、リソースを割く動きが出てきました。
この動きは当社に限った話ではなく、業界全体で見られるものだと思います。たとえば昨年、Queenの旧譜のカタログが約2,000億円で買収されたと報じられました。スケールは大きいですが、古い曲の価値が注目されていることの証左と言えます。