今こそ「テレビ1強」のコミュニケーション設計から脱却を
「某局のテレビCMを止めたが、売上に変化は見られなかった」──ある報道をきっかけにキー局のテレビCMを取り下げた企業で、この現実に直面しているマーケターもいるのではないだろうか。たった1局と言えども、主要な局からCMを取り下げたにも関わらず、売上に影響が出ないことが意味するところは大きい。
もちろん、テレビCMの効果は短期的に見られるものではなく、これだけで「テレビCMは意味がない」と判断するのは早計だ。ただ、「この状況をきっかけに“脱テレビ1強”にいよいよ本腰を入れて向き合う企業は増えていくだろうし、今こそ従来の広告コミュニケーションを見直すべき時だろう」と横山氏は強調する。
加えて、横山氏は「テレビの極端な高齢化」も指摘する。以下は、年代別にテレビCMとデジタル広告のインプレッションを比較した図である。注目すべきはテレビCMとデジタル広告の比率ではなく、「テレビを見ている世代の年代比率」だ。2018年には43.4%だった「60代以上」が2023年には58.3%へと拡大していることがわかる。


「若年層を中心とした主要な年代には、テレビCMがほとんど見てもらえない時代に突入しています。この実態に即して、『テレビ1強時代の仕組み』から『脱テレビ1強の新たな広告コミュニケーションの仕組み化』に移行する必要があるのではないでしょうか」と横山氏述べる。
テレビが「主」から「従」になる時代、積み重ねるべきはSNSの評判
続いて、横山氏は「まず伝えたいこと」として5つのトピックを提示した。
1、テレビ1強時代の広告コミュニケーション開発を見直す
「テレビ1強」時代の終焉は誰もが認識しているはず。それにもかかわらず、代理店にまず「テレビCM案」を提案させ、その他の広告については「テレビCMの副産物」として素材を再利用している企業は多い。まずはこの構造に疑問を持つべき。
2、SNS起点のコミュニケーション開発を思考する
これまではブランド起点で伝えたいメッセージを作り、広げようとしてきた。だが、今や消費者に響くメッセージは、SNSの投稿から見えてくる時代だ。今後は一般消費者起点の「バズるフレーズ」をもとに、ブランド発信の「シズるメッセージ」を考えていく必要がある。
3、従来の広告フォーマットだけで考えない
かつて、テレビCMは数ヵ月間かけて制作し、年単位で使うようなものだった。しかし、「バズるフレーズ」には「賞味期限」がある。またそれを出すべき適切なタイミング・出稿面もダイナミックに変化していくため、これまでの広告制作の考え方からはアップデートしなくてはならない。
4、テレビは「主」から「従」になる
従来「主」の存在であったテレビCM(リニアテレビCM)は、「補完」の役割になっていく。主軸はSNSやリテールメディア、ストリーミングTVなどだ。昨今のテレビCMは、1本単位で購入できるようになったり、インプレッション単位で取引できたりと、新しい選択肢が増加している。これを活かし、「補完」としてどう使うかを考えるフェーズに入った。
5、「ワンボイス・ワンメッセージ」から「最適なメッセージ」の動的配信へ
かつて、「ワンボイス・ワンメッセージ」が通用したのは、「皆がテレビCMを1度は見ていたから」である。前提が崩れた今必要なのは、ブランドの統一感は保ちつつも、場面ごとにメッセージを最適化させていくことだ。
加えて横山氏は、「テレビCMでの『コミュニケーションストック』による売上が期待できなくなった時代において、意識すべきはSNSによる『レピュテーションストック(評判の積み重ね)』である」と語る。
「テレビは良くも悪くもマーケティングの時間軸が長いメディア。CMの効果はすぐに見えるものではありませんが、徐々に認知度やブランド力が積み重なっていき、継続的に売上の底上げに寄与します。テレビが見られなくなった現代において、これに代わる『ストック』の概念は、『SNSでの評判』に移り変わったと言えるでしょう」(横山氏)