「ユーザーの声」をそのまま使って共感創出
ここ最近、事前に一般ユーザーから募集したメッセージや感想、SNS投稿を載せたOOHとよく遭遇するようになった印象があります。
たとえば、2月に実施されたパナソニックの広告では、家事を家電に頼ることへのプレッシャーやユーザーの声をあえて表面化。「忙しい母が手洗いしてたんだから、自分も頑張るべき?」といった“モヤモヤ”を代弁しつつ、Q&A形式で共感を生むことで食洗機へ関心を引く設計になっていました。

4月に渋谷駅で展開された、ヤマハのアプリ「Extrack」の広告では、Xで発信されたバンド活動への憧れや悩みを拾い上げつつ、Extrackで解決できることを伝える内容で展開。悩みを可視化した上で、Extrackならどのような解決策があるのか?を自然な口調で語り掛けたようなビジュアルが印象的でした。

また、iRobot社「ルンバ」の広告も「一人暮らし」「子育て」など具体的なシーン別で、「自社製品購入者アンケート」の回答を参考に、ユーザーのリアルな声を用いて共感を生み出すような広告となっていました。

これらの事例に共通するのは、「共感」の入り口を広告側が作るのではなく、「ユーザーの言葉」をそのまま入り口に据えるという発想です。企業目線のメッセージではなく、「既に誰かが感じたこと」をそのまま載せることで、「私もそう思ってた」「それ、わかる」と共感してもらい、興味関心につなげる狙いがあるのではないかと思います。
特にOOHは、サイズや面のバリエーションが多く、こうした多数の意見・感想を「並べる」演出と相性が良いと言えます。OOHという場でまとめて見せることで、広告自体が「共感のアーカイブ」のような存在になっていたのが特徴的でした。
意外性のある掛け合わせで話題化
企業間でのコラボ広告自体は決して珍しいものではないですが、少し意外性を感じたコラボ事例があったので紹介します。
不動産サービス「SUUMO」は、1月に『こちら亀有公園前派出所(こち亀)』、2月に『ヒプノシスマイク』とコラボ広告を展開。
前者は、緑色のスーモカラーで統一された壁面に、作中のキャラクターである両津勘吉が住まい探しに右往左往する様子をコマ形式で表現。駅を通りながら一連のストーリーを楽しめる構成になっていました。

一方後者のコラボ広告は、渋谷・池袋など広告が掲出された場所にちなんで、キャラクターごとの“こだわり検索条件”を描き、SUUMOの機能を間接的に描いたビジュアルとなっていました。

6月に実施された、サントリー「伊右衛門 特茶」と「歩きスマホ防止」啓発広告の組み合わせでは、啓発ポスターに寄せる形でデザインが作られていました。ほぼ同じデザインの2枚が連なっていることに違和感を覚え、よく見ると内容が異なる……と気づいて、ハッとするような仕掛けとなっていました。

異なるジャンルのコンテンツを組み合わせるコラボ企画は、新たな顧客層にリーチできるだけでなく、ファン同士の拡散や話題化も期待できます。また、クリエイティブでも表現の幅が広がり、ユニークな切り口で商品を紹介できるのが大きなメリットと言えます。
SUUMOとヒプノシスマイクの事例では、登場キャラクターの理想の住まいという設定を通じて、「不動産検索機能」を自然に説明しています。実際、SNS上では各キャラクターの部屋探し条件に対するツッコミ発信も数多く見られましたが、受け手にとって広告がコンテンツの一部のように受け取ってもらえる点はポイントと言えそうです。