「使いやすさ」にとどまらない「ハートを揺さぶる」体験を
5段階モデルの戦略から骨格までの部分を「UXデザイン」と呼ぶことがあります。UXとは「User Experience(ユーザー体験)」の略であり、UXデザインとは、ユーザーが製品やサービスを利用する際に得られるあらゆる体験を設計することです。
多くの場合、「使いやすさ」や「快適さ」といった側面が強調されますが、それはUXデザインの本質ではありません。UXデザインは、ユーザーが製品やサービスを通じて得られる感情、記憶、そして最終的な満足度までをも包含します。

たとえば、あるECサイトで買い物をしたとします。商品が見つけやすく、決済がスムーズで、配送も迅速だった。これは「使いやすい」体験です。しかし、届いた商品が想像以上に素晴らしく、開梱の瞬間から高揚感があり、手書きのメッセージまで添えられていたとしたらどうでしょう? それは単なる「使いやすさ」を超え、「感動」や「喜び」といったポジティブな感情を伴う、記憶に残る体験となります。
UXデザインは、このようにユーザーの感情に働きかけ、彼らが「また使いたい」「人にも勧めたい」と感じるような、ポジティブな体験を意図的に作り出すプロセスなのです。これは、ブランドロイヤルティを構築し、顧客生涯価値(LTV)を高める上で、極めて重要な要素となります。
マーケティングとUXデザインには、多くの共通項がある
多くのマーケターがデザインについて誤解している点は、他にもあります。まず、UXはサービスの詳細が固まり、具体のUIデザインを制作する際にユーザビリティを考慮して考えればよいといったような、「UXは開発の最終工程」という思い込みです。
企画段階からUXデザイナーが関わり、ユーザーリサーチやプロトタイピングを早期に行うと、結果的に企画から実装までの速度を最大限高めることができます。UXリサーチを入れることで、初期段階から確度の高いビジネスの種を発見したり、開発工程で問題点になり得る要素を考慮したりしながら進められ、手戻りを減らすことができるというメリットもあります。
そして、最も根深い誤解が、「マーケティングとUXデザインは別物」という固定観念です。実際には、この2つの領域は驚くほど多くの共通項を持ち、密接に連携することで、より大きな成果を生み出せるのです。