コロナ禍前を超える「フィジカル体験」への熱量
朝本:本セッションでは「デジタルとリアルが融合する時代に大切なこと」をテーマに、メディア環境研究所の森永さん、野田さんとともにお話ししていきます。
本日のウェビナーの第1部では、生活者が個々の好みに最適化した「心地よい情報圏」にこもりがちな傾向があること、第2部では、α世代は自分に最適化した情報圏を形成しながらも、ショート動画やリアルの出会いを通じて上手く情報圏を広げていることが明かされました。特にα世代は、デジタル空間で興味を深めつつ、手触り感や予期せぬ出会いといったフィジカルなリアル体験を楽しむ傾向が見られます。
実はこのフィジカルな体験を拡充しようとする動きは、数字としても顕著に表れているんです。たとえばスポーツイベント。2025年のプロ野球公式戦の年間入場者数は2,704万人と、プロ野球史上で過去最高を記録しました。Jリーグも2024年、2025年と2年連続で過去最高を更新、Bリーグの2025-26シーズンも525万人と過去最高です。
また音楽ライブイベントの年間入場者数も、コロナ前の2018〜2019年水準を大きく超え、2025年に過去最高値を更新して右肩上がりに伸びています。
森永:生活者インタビューからも、フィジカルな体験への欲求の高まりはとても感じます。たとえばサッカーの国際大会では、パブリックビューイングができるお店へ深夜に出かける姿がネットでもメディアでも多く見かけられました。しかも「自分たちが聞きたい解説者の映像を流している店はどこか」まで自ら調べて集まっている様子もうかがえました。そしてその現場から、現場にいない友人達ともチャットグループで興奮を共有し合う。デジタルとフィジカルが相互に拡張し合う体験を楽しんでいる印象です。
野田:映画や美術館・博物館でも同じ現象が起きていますよね。動画配信サービスですぐ見られる作品であっても、わざわざ体験するために映画館へ足を運んでいます。
森永:美術館や博物館では、SNSで「この展示が良かった」という口コミが広がると、アートファンではない人にも「自分も確認しに行かなきゃ」という心理が働き、会期末まで満員状態が続くケースが増えました。デジタルの刺激が、フィジカル体験への一歩を後押ししているようです。
(中央)株式会社博報堂 メディア環境研究所 上席研究員 森永 真弓氏
(右)株式会社博報堂 メディア環境研究所 上席研究員 野田 絵美氏
デジタルで「自分らしい楽しみ方」を発見し、フィジカルで実践
朝本:デジタルでの盛り上がりがフィジカル体験への熱量を加速させているわけですね。第1部の調査でも、おもしろいデータが得られています。国際博覧会に参加した方に「なぜ実際に行ってみたいと思ったのか」を尋ねたのですが、その回答は単に「有名な展示があるから」という理由だけではありませんでした。ある女性は、SNSで各国の紅茶情報を見たことで「たくさんの楽しみ方がある中で、私が好きな紅茶の情報を知り、これなら私も楽しめそうだと自分事化できた」と回答しています。ほかにも「TikTokで話題のユニークなスタッフさんに会いに行った」「YouTubeで好きな企業の展示を知って足を運んだ」という声もありました。
森永:メディア接触においては好きなときに好きなものを見るのが定着しましたが、フィジカルなイベントや場所においても、自分なりの楽しみ方をデジタル上で見つけ、それを現地で実践するスタイルが定着しています。
野田:情報を発信・受信する層が多様化しているのもポイントですね。かつてのように、若い先端層がSNS映えを狙うだけでなく、あらゆる年代の人が「この紅茶がおいしい」「この展示が興味深い」とデジタル空間で発信しています。多様な視点がデジタル上に集まることで、フィジカルな場の楽しみ方の選択肢が増えているのです。
