「映え」から「参加感」へ。生活者を巻き込む切り口
朝本:デジタルとフィジカルが地続きとなった時代において、企業やマーケターはどのようにこの環境を活用し、施策を考えていくべきでしょうか。
森永:基本的な姿勢として、フィジカルな施策を実施する際はそれを補強するデジタル環境を、デジタルの施策を行う際はフィジカルな体験の広がりを、あらかじめ意識しておくことが重要です。
そして「インスタ映えスポット」のように、企業側が決め打ちした単一の撮影場所を用意するだけでは、現在の生活者には響きにくくなっています。生活者が自発的にアングルを変えたり、独自の楽しみ方を見つけたりできるような「クリエイティブの余白」をいくつも用意しておくこと。それが結果として参加感を生み、口コミの内容の多様化を生み、拡散につながります。
野田:α世代の取材でも印象的だったのが、「自分の顔」をSNSに載せるのではなく、「自分が体験した時間や空間」を切り取って投稿する人が増えている点です。
単に「映える場所」を提供するのではなく、「その場所でどんな特別な時間や手触り感を過ごせるか」というストーリーの切り口を提示してあげることが、投稿の動機になります。
森永:ネーミングも効果的ですね。先ほどの「伊能忠敬界隈」のように、自分たちの楽しんでいる行動にハッシュタグ的な名前がつくと、報告や投稿がしやすくなります。
企業がイベントや施策を行う際、参加者が「自分は今、このカルチャーに参加している」と感じられるようなネーミングや文脈を用意することもポイントですね。

デジタルとフィジカルが循環するエコシステム設計へ
朝本:イベントを実施しないメーカーやモノづくり企業にとっても、応用できる視点はありますか。
森永:もちろんあります。海外で話題になった事例ですが、あるユニークな形状のお菓子で「雲に見える」「ドラゴンに見える」といった形を見立てて報告してもらうキャンペーンがありました。自社の商品やコンテンツを生活者が手で触れ、遊んだり試したりする際のフィジカルな体感性がどこにあるのか。既存ブランドであっても、一度棚卸ししてみることが大切です。
野田:推しが掲載されている新聞のエリア別全面広告を集め合ったり、駅の屋外広告をファンがマップ化して楽しんだりといった動きも、デジタルとフィジカルが交差する体験です。デジタル上で最適化された情報に触れている今だからこそ、人間はフィジカルな手触り感や予期せぬ出会いをプレミアムな体験だと感じるようです。
森永:ただし注意したいのは、情報体験の途切れを作らないこと。フィジカルな広告や商品で興味を持ち、デジタルで検索した際、うまく探せないと一気に熱量が冷めてしまいます。そしてその検索の場は、検索エンジンにとどまりません。SNSや動画プラットフォームも含まれます。生活者の熱量をそのままにデジタルへ誘導できる公式情報やSNSを用意していくことが必要です。
デジタルで生まれた興味をアルゴリズムで増幅させ、フィジカルな体験へ導き、そこで得た感情や空気感を再びデジタルへ持ち帰ってもらう──。この循環を途切れさせない設計が、これからのマーケティングにおける鍵となります。
朝本:デジタルとフィジカルを対立構造として捉えるのではなく、双方が循環し合うエコシステムとして捉えること。これが、生活者の「情報圏」を自然な形で開いていく、確実なアプローチと言えそうですね。
