「CX=データ活用」の誤解と本質
――はじめに、『いちばんやさしいCX経営の教科書 顧客体験を見直し”選ばれる会社”になる』を執筆された背景や、どのような課題を持つ方に向けた書籍なのか教えてください。
白根:CXに関する情報は「データ基盤を作って、データを活用して意思決定しましょう」という話が中心になりがちです。それ自体はとても重要なのですが、私がCXに携わる中で感じるのは、CXが「掛け声」で終わってしまう現実です。その背景には、CXを個別施策として捉え、部門ごとに分断された組織で実行しようとする課題があると感じます。
CXの本来の目的は、「顧客との関係性を育てること」にあります。単に体験を良くすることではありません。その関係性を育てるための組織能力をどう作り、実践していくかをお伝えしたくて本書を執筆しました。
「顧客との関係性を育てること」は、ブランドの本質でもあります。顧客は、ブランド部門が作った広告キャンペーンも、商品部門が開発した商品も、営業部門のセールスも体験します。体験を通じて、顧客の中でブランドが作られます。CXの結果がブランドです。つまり、CXは一部の専門家だけの仕事ではなく、経営層から現場まで、全員で取り組むテーマです。CXが重要だと感じつつも組織が動かずに悩む経営者、リーダー、現場の方々に読んでいただきたい書籍です。
近年、欧米のCXマネジメントの専門家の間でも、CXは施策ではなく、組織能力であるという考え方が主流になっています。本書では、その組織能力を「組織行動」「デザイン」「オペレーション」「デジタル」「脱学習」という5つの力で整理しています。
顧客価値を起点とする「CX経営」
――書籍のタイトルにもある「CX経営」とは、具体的にどのような概念ですか。
白根:私が考えるCX経営とは、「顧客が価値を得た結果として企業価値が生まれる」という因果関係を経営の前提に置く考え方です。顧客価値を原因、企業価値を結果として捉え、組織能力を高め続けることで持続的な成長を目指します。
――「CX経営」を取り入れると、マーケターの業務はどう変化するのでしょうか?
白根:広告運用やコンテンツ制作、CRMなどを個別最適するのではなく、共通の「CXビジョン」に向かって一貫した顧客体験を設計できるようになります。特に生成AIの登場によって施策実行の能力がコモディティ化しています。単に施策の量を増やすのではなく、顧客の中にどのような意味や体験の一貫性を残せるかが重要です。マーケターにも、その設計が求められています。
――「一貫性を生み出す」重要さに触れていただきましたが、実現のために何が必要ですか。
白根:各部門やマーケターが持っている「顧客とはこういうものだ」という確証バイアスや思い込みを一旦外すことです。本当の顧客の姿を定性的なリサーチなどでしっかり捉え、意思決定につなげていく。想像上の顧客ではなく、実際の顧客のレンズを通して自分たちの施策を考えることが大切です。
