SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

プログラマティックTVが現実に テレビ広告の進化と未来

Q4.プログラマティックTV、日本ではいつ機能する?

有園:ここまでの議論に出てきていない点でもう一つ、プログラマティックTVの実現に欠かせないことがありました。各家庭のテレビのネット接続です。ターゲティングして出し分けができるといっても、出し先はネットにつながったスマートテレビが前提なので、この普及率が上がらないと実質的にワークしません。

 総務省が2016年に行った『通信利用動向調査※1』(2017年6月発表)によると、過去1年にネット対応型テレビを使ってネットを利用した世帯は13.2%でした。これは所有率ではなく利用率で、番組情報の取得やVOD利用、ネット回線での番組録画や視聴、オンラインゲームなどが含まれます。

小出:なるほど。私が去年、博報堂のメディア環境研究所で聞いた話だと、東京だと三十数%の世帯のテレビがネット対応型ということでした。この点は、2011年の地デジ化で起きたテレビ買い替え需要が、2020年の東京オリンピックに向けてまた高まることで、一気にネット接続テレビが普及するのではといわれていますね。すぐに6〜7割にはなるのではないか、と。

有園:今生産されているテレビは、基本的にネット対応型ですからね。

小出:ちなみに、ターゲティングにはさらに「誰が見ているか」を特定する必要もありますよね。それは今、ネット対応型テレビに顔認識カメラなどの仕組みが搭載されているのですか?

有園:その点もありましたね。大きくは、カメラで認識する方法と、ユーザーに登録してもらう方法があると思います。両方を併用できるテレビも出ていて、たとえば最初にお父さん、お母さん、子供と設定し、それ以降はテレビの前に座った人が“お父さん”だとカメラが判断して、お父さん用のホーム画面を表示するといったことができる。そのほうが利便性が高いとか、インセンティブをつけるなりすれば、登録の促進は可能でしょう。

A4.東京五輪2020年へのテレビ買い替え需要に期待

小出:なるほど。するとユーザーの判別より、まず機器の普及が課題ですね。

 繰り返しになりますが、10を投じた広告費のうち1しかターゲットに届いていない状況が惜しいので、趣味嗜好はさておいても年代・性別での出し分けは熱望しているんです。同時に、今までは9を無駄にしていたのだから、本当にターゲットに届くのなら1ではなく2をお支払いするという考えもあります。同じ枠にたとえば男性向け商材の会社が「2を払う」と言い出したら、積み上げればテレビ局にとって10の広告料収入が20になる可能性があると思います。

有園:なるほど、メディアにとっては収益拡大のチャンスでもあるわけですね。加えて、今たとえば東芝のレグザはCCCマーケティングと連携し、購買履歴なども利用した広告配信ができそうですし、いずれかのDMPとつながることでもデータを活かしたターゲティングが可能になる。となると、それを主導するのはメディアなのか、広告主はデータを吸い上げられたままにならずハンドリングできるのか……前半で長山さんが指摘されたデータの覇権争いが、日本でも繰り広げられそうです。

長山:本当に、データの主導権をいかに握るかは、広告主の方々は意識されるべきだと思います。ECでは、大手企業がAmazonで商品を販売するのも、見方を変えれば購買やカートに入れたなどのデータをすべてAmazonに預けているということですから。それでAmazonは一番人気の商品を研究してPBを開発し売り始めており、今アメリカのナショナルクライアントたちの間で大きなテーマになっています。

 広告領域も同様で、Amazonは「トランスペアレント・アド・マーケットプレイス」という、Amazon以外の媒体の広告在庫を最新テクノロジーで透明性を高く販売するサービスを提供し始めており、媒体の収益向上を支援しながら、データの蓄積を着々と進めています。明らかに、EC領域から今度は広告マーケティングにもデータを使おうという動きになってきています。

 自社のデータ活用を代理店に主導権も含めて任せ、彼らがAmazonやGoogleなどのプラットフォーマーにまた預けてしまうと、気づいたらデータをいいように使われてしまう事態にもなりかねません。データの保持と分析の先に、プログラマティックTVを含むデータの活用があるので、データが何よりも重要な時代だということを強調したいです。

有園:本当ですね。これに関連すると、資生堂でも自社でデータを集めていく方向ですよね?

小出:そうですね、直販ECを通じてその方向を目指していますが、直販以外のネット販売と比べるとデータ量のケタが圧倒的に違うので、自社で集めた一次情報をどのくらい有効に使えるかはまだ模索中です。

有園:そうなんですね。最後に、こうして仕組みが変わる中で、広告主としてテレビ局への要望や期待をうかがえますか?

小出:やはり、今のテレビCMの売り方や番組の在り方は、デジタルを含めた他のメディアと比較しても決して優位にある状況ではないと思っています。それを打破する方法論の一つが、今日の主題のプログラマティックTVの実現。もう一つは、電波の公共性の観点からの異論はあると思いますが、世帯視聴率中心の番組制作からの転換だろうと思います。

 我々も、失敗の経験があるんです。たとえば、若い女性だけが見る番組を作ればいいじゃないかとBSでトライしてみたのですが、なかなかうまくいかなかった。なので、コンテンツ作りの難しさもわかりますし、今後もテレビ局の制作機能と組む形で模索を続けます。ターゲットごとの視聴率があまり重視されていない現状も、広告主サイドに多様な動きが生まれれば、少しずつ変わっていくのでは。テレビ局も新しい仕組みを導入すると同時に、制作機能にもフォーカスしてもらえたら広告主との組み方の可能性の広がりにつながっていくと思います。

 ※1 『平成28年通信利用動向調査の結果』(総務省、平成29年6月8日発表)

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
関連リンク
定期誌『MarkeZine』特集連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2021/02/25 18:00 https://markezine.jp/article/detail/27765

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング