D2Cブランドの課題とレコメンドの功罪
緊急事態宣言発出による外出自粛で、実店舗での販売を主としていた小売店が大打撃を被った一方、ECサイトでの販売を主としてきたD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドの中には逆に売り上げを伸ばしたところもありました。
実店舗を持たないことをメリットとしてきたD2Cブランドですが、その多くは今、「顧客との接点をどう作るか」が課題と考えています。まず、ユーザーによる“検索”から始まるネットショッピングでは、なかなか商品を認知してもらえない。認知してもらえたとしても、Webサイト上で提供する情報だけでは、他社の類似商品との差異化が難しいというのです。
商品についての評価はショッピングサイトの星の数(レーティング)やレビューを参考にする方法もありますが、それは自分の評価ではありません。たとえば服や靴のように、実際に試着してみないと着心地・履き心地を判断できないものもあります。ネット上の一般的な声からでは、その商品が自分に合っているかまではわからないわけです。家電や家具類のような高額な商品となれば、なおさら「購入前に、実際に自分の目で確かめたい」というニーズも出てきます。そうしたニーズに応えるためにも実店舗は必要なのです。
また、ネットショッピングの普及には弊害もあると個人的には思っています。ユーザーの購買行動などを参考におすすめの商品を提示してくれる「レコメンド」はありがたい機能ですが、そのせいで“新しい発見をする機会”が失われつつあるようにも思えるのです。音楽にたとえるなら、それまで興味のなかったジャンル、アーティストの楽曲をたまたま耳にしたことがきっかけとなって、そのジャンル、アーティストに興味が湧いたといった体験は誰にでもあるのではないでしょうか。

実店舗が必要なもう1つの理由がここにあります。実店舗に足を運ぶことで、想定していなかった商品・サービスとの出会いが生まれる可能性があるということです。コスメ、アパレル、食品、キッチン用品、音響機器、パソコンやスマートフォンの周辺機器、アウトドアグッズなど、様々なジャンルの商品がb8taの店舗に出品されているのは、b8taが「リテール(小売り)を通じて新たな発見をもたらす」をミッションに掲げているからです。アフターコロナの実店舗には「様々なジャンルの商品を展示する」という機能が求められるようになるかもしれません。
ネットでも実店舗でも見えないデータの重要性
ECサイトでの販売を主としつつ実店舗も展開するのは、OMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインの融合)の観点からも理にかなっています。
実店舗の場合、年齢層や性別といった来店者の属性や店内での行動は把握できても、商品についてのフィードバックは店舗には送られません。逆にECサイトしか販売の窓口がない場合は、購入した商品についてのフィードバックは得られるものの、どういった経緯で購入に至ったかといった行動データまでは取得できません。OMOの実現には実店舗とECサイト、それぞれから取得できるデータをシームレスに活用することが必須なのです。
b8taの店舗では商品を展示するだけでなく、来店者の年齢層と性別を識別する「デモグラフィックカメラ」、動線や立ち止まり率といった動きを分析するAIカメラなど、店内に設置した複数のカメラで来店者の購買行動をデータとして取得しています。来店客の購買行動という定量的なデータだけでなく、b8taのスタッフが来店客へのヒアリングを通して見えた定性的なデータを通して、商品を購入した理由、購入しなかった理由などを見ることができます。
また取得したデータは出品企業にフィードバックし、ダッシュボードで一覧できるようにしています。「何が購入の決め手になったのか」「なぜ、その商品を購入するときに迷ったのか」といったデータは、ネットの注文から見えてくるものではありませんし、購入した理由をレジで尋ねる店舗もb8ta以外ないでしょう。スキンケアブランドのAGILE COSMETICS PROJECT(アジャイルコスメティクスプロジェクト)をはじめとする出品企業は、b8taからフィードバックされた来店者の行動データを商品開発やマーケティングに活かしています。