店頭からコーポレート全体の広報 兼 SNSの中の人へ
徳力:本日は花摘さんにプレゼンをしていただいたあと、質問を交えながらトークセッションという形にしたいと思います。まずは自己紹介からお願いします。
花摘:花摘百江と申します。私は現在、スマイルズというスープストックトーキョーの親会社の広報と、新たに立ち上げ中の「スマイルズ生活価値拡充研究所」の所長 兼 研究員として働いています。この研究所は、ひとことでいえば、企業やアカデミアと一緒に「生活の価値」について学術研究を行っていく場所です。
2020年10月までは、スープストックトーキョーの広報でした。元々は、新卒でスマイルズに就職し、スープストックトーキョーの店頭に立ち1年働きました。その後、採用担当となり、スープストックトーキョーの分社化を経て、人材開発部に移ります。それと同時にスープストックトーキョーの広報も徐々に兼任するようになって、スープストックトーキョー史上では最年少で広報担当となり、企画編集ライティング、SNSの中の人などをやってきました。
徳力:SNS担当は、初代の方から引き継がれたそうですね。
花摘:はい、そうです。採用担当をしていた時に自分たちの会社を知ってほしくてFacebookで会社のことを頻繁に更新したり、採用サイトにも広報視点を取り入れたりしていたのですが、その働きをみて「広報や外へ伝えていく仕事が向いているんじゃないか」と声をかけてもらったのがきっかけでした。
それでSNS一代目の方からバトンタッチし、そこからは創業当初より大切にしてきた「らしさ」がある広報活動やブランディングを目指して運用を進めてきました。広報兼SNS中の人という立場を活かして、企画から実行までを営業部などと共に推進していくこともでき、「アートスープ」や、カレーしか売らない「カレーストックトーキョー」など、様々な企画の立案からSNS運用までを一貫して行ってきました。
ブランドコミュニケーションにおける3つのスタンス
徳力:広報やSNS担当として外部に向けたコミュニケーションを行う際、どのようなことを意識されていますか?
花摘:これは、スマイルズとスープストックトーキョー両方に共通しているのですが、「世の中のなんでこうなっちゃうの?」に着目し、「私たちも生活者。N=1を大切にする」という2つを常に意識しています。
N=1というのは、一般的にマーケティングでは母数となるNは大きなほうがいいと考えるところをあえて特定の一人の意思を深堀していくことをいいます。N=1の対象は、ペルソナというよりは、生活者であり、スープストックトーキョーの利用者である「自分自身」というイメージのほうが近いです。
花摘:これを踏まえた上で、わたし達が企業やブランドとしてコミュニケーションする際のスタンスについてお伝えしたいと思います。
ブランドは人である
花摘:1つ目は、「ブランドは人である」ということです。よく、ブランドマネジメントは、コンセプトや禁止事項、枠組み、施策といったもので成り立っているケースがあると思いますが、スマイルズでは「ブランドが人だったらどうする?」というスタンスで考え、行動します。
SNSを例にすれば、「スープストックさんが人だったらどういうふうに、どんなことを、何時くらいに話すかしら?」というふうに考えてつぶやきの内容が決まっていきます。一人の人格として考え、それを判断基準にしていて、トキメキに繋がっているか、ということを重要視します。
過ぎないコミュニケーション
花摘:2つ目は「過ぎないコミュニケーション」。これは、たとえば可愛すぎない、熱すぎない、クールすぎない等々何かにつけ、過ぎないようにするということです。これは下手したら「ふつうにしているってこと?」となりますが、そうではないんです。過ぎないことによって、相手とほどよい距離感と、一緒に過ごす心地よさを作り出すために重要なんです。
一発百中でなく、百発一中でいい
花摘:3つ目は「一発百中でなく、百発一中でいい」ということ。SNSでのコミュニケーションやコピーライティングを行うときに気をつけていることですが、一発で言おうとすると過剰になったり、無理が出たり、大げさになってしまう。私たちは食品を扱っていますので、絶対食べて欲しいからといって誇張表現をしてしまうと、お客様に対して不誠実になってしまうこともあります。
マジックワードだけを並べた、さもありなんといったコトバより、ピンポイントで“誰か”だけには確実に届く具体的な一言を連ねていくことのほうが可能性があると思うのです」
これは、上司・野崎の書いた書籍「自分が欲しいものだけ創る! スープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング」のなかの一節で、私は本当にそうだな、と思って引用させてもらいました。
SNSの中の人には、「バズらせる」ということが要請としてもあると思います。たとえばまわりから「バズらせてほしい」といったオーダーがあったり、自身でそういった義務感があったり。「当てなくちゃいけない」という気持ちがあると、それがトラブルのもとになったり、表現が不誠実になりやすい危険があると実感しています。あるいはN=1でなく、みんなのためのコトバになることも、それは本来目指すところと違ってしまい、やはりトラブルの原因になると考えています。
だから「一人に向け、一回でなく百回かかってもいいから伝わるようにしていく」ということを弊社は独自に考えてきました。