CPAの改善がリピート率悪化につながる場合も
田岡:もうひとつ、CPAだけを軸にした意思決定には落とし穴があります。
初期の赤字を減らして広告の投資回収期間を短くするために、みなさん努力をして、様々な施策を打たれます。少しでもCPAやCPOを改善するために、お試し価格として価格を下げたり、無料でサンプルを配布したりと強いオファーをかけるパターンが多いですね。
しかしこの場合、ユーザーの購入動機は「お得ならちょっと試してみようかな」となるので、購入の動機が非常に弱くなり、結果リピート率は下がってしまいます。CPAが改善しても、リピート売上は悪化し、結局LTVは改善されないという状況に陥ってしまうのです。
つまり、CPAとリピート率はトレードオフの関係なので、両方を包含するLTVで計測しなければ本当の成果はわかりません。こうした理由から、私はCPAではなくLTVで投資判断をする必要があると考えています。
MZ:では、田岡さんはどのようにLTV評価を取り入れていたのでしょうか?
田岡:広告の投資回収という観点からLTVを実測しようとすると、1~3年かかります。実際に新しい広告施策を走らせてから、LTVがわかるまで1年も待っていては、広告投資判断が遅すぎます。そこで、私はLTVを予測することで、スピーディーな広告投資判断を実現してきました。
MZ:LTVを予測することができるのですか?
田岡:はい。F2転換率は広告施策によって大きく変わってくるので実測の必要がありますが、F3以降は広告施策の違いによる転換率の差が小さくなってきますので、過去の傾向から類推することができます。F1、F2の実測値とF3以降の類推値を計算式に組み込むことで、LTVを予測していました。
CPAベースの部分最適ではなく全体最適化を
MZ:紹介いただいたLTV評価を簡単に取り入れられるのが、イルグルムと田岡さんが共同開発されたアドエビスの新機能「LTVForecast」ということですが、まずは共同開発に至った経緯をお聞かせいただけますか?
吉本:田岡さんにはエトヴォスに在籍されていた時からアドエビスを使っていただいていました。2019年に開催したアドエビスのイベントの基調講演で、LTV評価に基づいて広告の投資判断をすることの重要性をお話しいただき、我々自身この考え方の重要性を強く実感しました。
アドエビスはCPAをベースとした広告運用最適化の部分は支援できるのですが、全体の最適化まではなかなかカバーできないことに我々としても悩みを抱えていたのです。もっと本質的に課題解決をサポートできたら、という思いが以前からありました。
田岡:LTV評価による広告運用という概念は、実は、以前から講演やメディアで紹介してきました。概念として特段難しいものではないと思うのですが、この考え方が実践されているかというとそうではない。LTV評価を実施できる環境の構築が難しく、なかなか運用にのせられないというところに課題があったようです。
ECにおけるレコメンドも、概念として有用性がわかっていても、もし自社で作るとなると実践する会社はなかなか少なかったのではないでしょうか。そこで、私が実践してきたLTV評価ノウハウをイルグルムさんと一緒にシステム化することになりました。