リードは永遠に増え続けるものではない
MZ:コロナ禍になり、デジタルマーケティングを本格化し始めたBtoB企業も多い印象ですが、ファーストパーティデータの活用については、まだまだこれからという状況なんですね。
虻川:そうですね。たとえば、コロナ禍でオフラインの展示会ができなくなり、ウェビナーが増えています。デジタル広告でウェビナーの集客をしている企業を多く目にするようになり、オンラインへの投資が総じて増えている状況だと思います。しかし、オンラインへ投資したからと言って、リードはそう簡単に増えるものではありません。特にBtoBでは潜在顧客数も限られています。そこで大切なのは、自社にとって正しいお客様に適切な情報を届けることです。
BtoBでは担当者が購買に至るまで売り手の情報に平均7.9回の接触を経ている、というデータがあります。7.9回という数を考慮すると、検討のあらゆる段階で情報に接していると言えます。お客様のカスタマージャーニーを考え、どこでお名前やメールアドレスなどのファーストパーティデータを取得して、1対1のコミュニケーションをスタートするかなど、全体の設計が重要です。
松井:BtoBでよく聞かれるお悩みは、やはり「新規リードを取り続けなければならない」ということです。我々もこれに苦労していますが、リードは昨対比で永遠に増え続けるものではありません。
獲得した新規リードのうち具体的に購入を検討しているのは5%であったとして、残りの95%に対して継続的にパーソナライズされたコミュニケーションを行うことが重要です。Adobe Marketo Engageの思想として、「リードのリサイクル」という考え方があります。商談化したが失注になった案件は、担当を営業からマーケティングに戻し、ファーストパーティデータである行動状況を見ながら継続的なコミュニケーションを続けていく。このプロセスを回すことを大切にしています。
ファーストパーティデータがあるからこそ、コミュニケーションを継続することができます。昨対比で新規リードを何%増やすといった試算上必要な数値だけを追求するサイクルよりも、未受注や失注でマーケティングに戻ってきたリードにも時間をかけて検討を促進するマーケティング活動が有効ではないかと思います。
リードの獲得数だけに走ると息詰まる
MZ:このところ、ウェビナーで獲得したリードは検討度が低いことが多いという問題もよく聞きます。
虻川:広告やイベントへのスポンサーシップなどの活動をオンラインで実施すると、たくさんのリードを獲得できますが、商談化率は下がってしまいます。我々も、獲得したリードが適切なターゲットなのかを検証しなければならないと考え、ユーザーではない方も含めた定性調査を行いました。
すると、デジタル広告を打っているにもかかわらず、過去にMAをご検討されたり、導入のご経験があったりする方でも、Adobe Marketo Engageのことを知らないという人が多くて驚きました。この結果から、露出する面が違っていたのではないかという仮説を立てています。お客様を理解した上で投資しなければ、期待しているような反応は得られないことを身をもって体感しました。
MZ:そのようなコミュニケーション面での課題は、多くのBtoB企業でも共通していると言えそうです。
虻川:定性調査ではもう1つ、検討を進めていく上で欲しい情報が見つからなかったという意見もいただきました。自分で情報を探してみたけど、わからなかったので検討をやめたという顧客行動が起きていたのです。Adobe Marketo EngageのWebサイトではマーケティングや営業に携わる方に向けたコンテンツを比較的多く用意しているので、コンテンツが足りていないのではなく、内容が求めているものと違った、あるいは正しく届けられていなかったという点が問題であると考えています。
こうしてお客様の定性的な情報が得られれば、サードパーティCookieに頼り切ったリターゲティング広告などを実施せずとも、この面に広告を出すとこのくらいの反応があるといった仮説を立てることができ、骨太の施策が実現するという気づきがありました。この課題を少しでも解消できるように、これまであまり訴求できていなかった種類のお客様の課題に沿った新しいコンテンツの作成、新しい媒体を使ったオウンドコンテンツなども進めていこうと考えています。