※本記事は、2023年8月刊行の『MarkeZine』(雑誌)92号に掲載したものです。
【特集】社会価値創造と事業成長を考える
─ 目指すのは社会的価値創造と経済的価値向上の橋渡し、サイバーエージェントが取り組むGX事業
─ 事業成長と社会的価値の創出は、両輪。パナソニック コネクトが取り組むカルチャー改革の現在地(本記事)
─ DE&I推進はビジネスにどう貢献するか 「P&Gアライ育成研修」が拓く可能性
─ 事業だけでは測れない統合的な企業価値が問われる時代に。電通の「統合諸表」が導くのは企業の未来設計図
─ 生理用品も会社の備品に。花王が社会巻き込み型で展開する「職場のロリエ」とは
─ 環境と生活者双方の利益を追求する「い・ろ・は・す」のブランド戦略
─ チューリッヒが挑み続ける「地球環境への取り組みと社会への働きかけ」
─ デジタル広告の価値向上と社会貢献活動を実現するドネーションアドとは?
─ 誰も取り残さないブランド体験がイノベーションを生む。博報堂が掲げる「ブランド・アクセシビリティ」とは
存在する意味があり、競争力のある企業へ
――パナソニックグループは、2022年にパナソニック コネクトが発足する以前から、BtoB領域の事業における組織改革を進められています。まず、改革の根底にあるお考えをうかがえますか?
根底にあるのは、当社が世の中に存在する意味がある企業体になり、同時に競争力のある企業体になっていくという意思です。
当社はまだ発足して1年ですが、組織改革に着手したのは約6年前になります。現CEOの樋口(泰行氏)が前身のカンパニー制のトップに就任したとき、「3段階の企業トランスフォーメーション」を打ち出しました。土台として風土改革があり、次にビジネス改革、そして事業立地改革があるという構造です。これは今も引き継ぎ、実践しています。
その上で、当社が発足した際に新たにピラミッド型の「経営のフレームワーク」を策定し、最上位にパーパスを位置付けています。
―― パーパスには、御社発足時にアップデートされた「現場から社会を動かし 未来へつなぐ」と掲げています。これを最上位として、コアバリュー、事業戦略、機能戦略、オペレーションの順で置かれているのですね。
はい。このパーパスの実現には、やはり「社会的企業である」ことがとても大事です。冒頭でお話しした、世の中にとって意味があるかということですね。具体的には、外を向いてしっかりと顧客を見ていること。カスタマーエクスペリエンスをよく踏まえ、顧客を知り尽くして、一貫したユーザー体験を提供していくことが大事になると思います。
――さらに2023年4月には、デザイン部門とマーケティング部門が統合されました。この動きには、どのような意図があるのですか?
目的は、前述のパーパスの実現を大きく前進させることです。当社が経営の指針として推進している3段階のトランスフォーメーションや経営のフレームワークの実践においても、マーケティングがプロジェクトマネージャーとして社内の様々な部分をつなぐ役割を担っていますが、そのいずれにも“デザイン” が関与してきます。
デザインというと、特に当社は昔からものづくりをしてきたので、プロダクトデザインを想起されるかもしれません。ですが今、デザインの領域はコミュニケーションやブランドのデザイン、サービス自体のデザインにまで広がり、もはやUI / UX構築を担うものへと発展しています。
一方、マーケティングも近年どんどん領域が広がっています。単なるプロモーション担当ではなく、より経営に近くありながら、お客様の課題やどうすれば価値を感じていただけるのかを検討する。その過程で、これまでもデザイン部門と連携してきました。
今回の統合は、その延長です。まだ途上ですが、デザインとの統合はパーパス実現を目指す組織づくりへのバリューアップになる、付加価値を増す一因になっていると思います。
“大企業病”を脱し、視線を顧客へ
――では、3段階の土台となるカルチャー&マインド改革についてうかがいます。どのようなカルチャーを目指し、そのためにどんな取り組みをしているのですか?
前提として、どれだけ戦略や組織の能力が優れていても、健全な文化がなければ企業はうまく機能しないという考えがあります。では、健全な文化とは何かというと、端的に言えば“大企業病” の逆です。組織が拡大し、スピードが遅くて保守的で社内にばかり意識が向くような状態を“大企業病” と言いますが、そうではなく「意思決定が速くチャレンジ精神があり、アクション思考である」状態を目指しています。
特に、内向きではなく外向きの意識が重要です。お客様のほうを向かなければ、求められ喜ばれる価値提供ができない、言い換えると成果の上がるビジネスを正しく推進できない時代になっていると思います。
具体的な施策は、いくつかの観点に基づいて、本当に数多く実行しています。たとえば役員個室の撤廃や朝礼の改善、週報のような内向き業務の削減などですね。格式張っているとコミュニケーションのスピードが落ちるので、SNS活用や役員の服装のカジュアル化も実践しています。この服装のトーンや、社内外へ発信するコンテンツの統一などは、マーケティングが各部門と連携して推進しています。
次の観点でカルチャー&マインド改革の施策を連打
- お客様接点最大化
- 内向き業務削減
- 働き方改革
- コンプライアンス
- コミュニケーション強化
- Diversity, Equity&Inclusion
――相当たくさん実施されているのですね。現時点での手応えはいかがですか?
過去5年にわたって社内アンケートを継続していますが、最新の結果では76%が「会社のカルチャーが変わった」と答えています。個別施策でも、たとえば部下主体で対話を重視した1on1ミーティングには、約80%が「成長につながっている」と回答しています。
ただ、カルチャー改革は一部の推進チームだけが行うのではなく全社で取り組むことが重要で、しかもそれでも一筋縄では変わらない、とも実感していますね。