一人の強い要望に応える、便益と独自性を確立する
MZ:価値を感じてもらえるかもしれない「アイデア」がつかめていなかったわけですね。
西口:はい。私自身はボディシャンプーにこだわりがなかったので、銭湯などで人がどんなものを使っているのか見てみました。すると、なぜか石けんとナイロンタオルか、石けんなしでタオルだけでゴシゴシ洗っている人が一定数いたのです。
それに気づき、周囲の人に話を聞いてみると、ある友人が「自分もそうだ」といいました。理由を尋ねると、自分のにおいとにおいの原因となる汚れを落としたいのに、既存のボディシャンプーは香料や洗い上がりの良さを売りにしているので、それらは合わないと。今のところ石けんしかないが、毎回触るのは不衛生だと感じていることもわかりました。
つまり「においとその原因を落とすことに特化した、便利で衛生的なポンプ式のボディシャンプー」のポジションは空いていたのです。その後、私も他の開発メンバーも「いい香りをつけたいのではなく、ただ自分のにおいを落としたいだけ」との気持ちに共感し、技術的にも医薬部外品としての開発が可能と確認できたので、新発売に漕ぎ着けました。
MZ:この場合、便益は「不要な香りが付かず、自分のにおいを落とせる」「便利で衛生的に使える」ことですね。独自性は何になりますか?
西口:今まとめていただいた便益自体、市場になかったので、「便益=独自性」という観点が一つ。加えて医薬部外品であることも、簡単には真似されない独自性になりました。実際、発売後は強く支持され、長く売れるブランドになっています。
競合製品から自社製品に移ってもらうには?
西口:先の例はボディシャンプーの開発ですが、石けんのユーザーがN1分析の発端になりました。ボディシャンプーと石けんは異なるカテゴリーではありますが、互いの代替品なので、考え方によっては競合です。
MZ:すると、N1分析は競合のユーザーに対して行っても有効ということですね。
西口:その通りです。N1分析では、自社製品は買っていない、あるいは知りもしないけれど他社製品は使っている「未購買顧客」にもインタビューします。シャンプーの例なら、中には石けんで髪を洗う人もいますが、多くの人が何らかのシャンプーを使っていますよね。
もし吉永さんがシャンプーのマーケターで、新規顧客を増やしたいと思ったら、どんな人に意見を聞けばいいと思いますか?
MZ:新規になり得る方……つまり先ほどおっしゃった、自社製品を買っていないか知りもしない、他社製品を使っている人ですね。
西口:そうです。その人に、「どうしてその製品を買っているのか」「どんな点を支持しているのか」などを聞き、たとえばどんな提案があれば「こっちの別の製品も試してみようかな」と思っていただけるかを探ります。何をしたら、他社製品から自社製品に移ってもらえるかという目的意識を持って、インタビューするのです。