日本でも年々拡大!CTV広告市場の可能性と特徴
米国では既に広告市場で大きな存在感を示すCTV広告。モバイルアプリの計測ツールを提供するAdjustの佐々直紀氏は、「米国におけるCTV広告の勢いを、日本のマーケットにも促進していきたい」と、日本市場の展望を語る。
サイバーエージェントとデジタルインファクトの調査によると、CTV広告市場は、2023年から2027年の期間、動画広告市場全体の164%という成長予測を上回り、190%の拡大が見込まれている。また、CTV広告活用では日本の先を行く米国に目を向けると、2027年には市場規模が7兆円に達する見込みだ(出典:STATISTA)。この規模は、日本市場の約50倍にあたる。
ではCTV広告の何が魅力なのか? 佐々氏は、特徴と強みを6つ挙げる。
1.膨大なオーディエンス
ネットに接続されたテレビを持つ世帯は、2024年に3,219万世帯、2027年には3,842万世帯に拡大すると予測されている(出典:STATISTA)。
2.高い共視聴率
一緒に視聴している複数人への同時リーチが可能。TVerをCTVで視聴する場合の平均視聴人数は、約1.7人。また2人以上で視聴する割合は、35.4%(TVer調べ)。
3.大画面
テレビの大画面で広告を配信することにより、視聴者の記憶に残りやすい。
4.視聴完了率
他デバイスと比較して、最後までコンテンツを楽しむ視聴完了率が高い。
5.セカンドスクリーンの活用
CTV広告の視聴中、気になった商品の検索やQRコードの読み取りなど、手元のスマートフォンでの行動を期待できるため、アクションを促しやすい。
6.デジタル広告としての優位性
リアルタイムでのデータ取得と効果計測、高度なターゲティング、柔軟なキャンペーン制御が可能。
【エアトリ】“一見イケていない”を覆した「ユーザーの質」の観点
CTV広告を活用して、実際に成果を出しているのがOTA(Online Travel Agency:オンライン旅行会社)であるエアトリだ。ユーザーが国内外の航空券や宿泊施設などの比較・予約を行えるサービスで、アプリも提供している。
これまでエアトリでは、リスティング広告を中心とした刈り取り施策に注力してきた。テレビ広告を筆頭とした認知施策は、効果の可視化が難しいため推進しづらかったという。しかし、CTV広告であれば「認知と購入(マネタイズ)、双方の結果を確認できる」と知り、施策実施に至った。
実際に配信したところ、泉氏は頭を抱えることとなる。新規獲得CPI、休眠復帰CPA、認知広告CPMのすべてにおいて、他媒体より高コストという結果になったからだ。泉氏は「あれ、CTV広告ってイケていないのかも? というのが最初の所感でした」と振り返る。
しかし、その後の詳細な分析により、CTV広告の価値が明らかになっていったという。業界でAdjustが唯一提供する、CTV広告向けリアトリビューション計測の活用が最大のポイントだ。顕著な成果が現れたのは、休眠復帰ユーザーの動向で、コホート分析によるユーザー品質の検証では、CTV広告経由の休眠復帰ユーザーの継続率は全媒体中で最も高いことがわかった。
エアトリでは今回、ブランディングを目的としたクリエイティブを展開したが、今後は機能面を訴求することで、新規獲得ユーザーの継続率向上も期待しているという。
また、Adjustを用いた離反期間別のリアトリビューション計測では、CTV広告が30日以上の長期離脱ユーザーの復帰に特に効果的であることが判明。通常のスマホ広告では長期離脱ユーザーの復帰が1割強にとどまるのに対し、CTV広告では約8割に達した。
「離脱期間が長くなるほど復帰してもらうことは難しいものだと考えていたので、CTV広告の可能性を感じました。今後、長期ユーザーが戻ってくることで、アクティブユーザー数がしっかり増えていくのか注視していきたいです」(泉氏)
「日頃のターゲティング広告では取り切れなかった層に対して、アプローチできていると考えられます。CTV広告のマスに向けた力が発揮できている事例です」(佐々氏)
CTVガイド:アプリマーケターのためのインサイト
このガイドでは、CTVの重要ポイントをすべて網羅しています。ガイドのダウンロードはAdjust公式サイトから!
▼ガイドの内容
●CTV業界に関する最新の調査結果
●マーケターがCTV広告の計測で直面する課題
●アプリのグローバル展開に必要なステップ
●インフルエンサーマーケティングのROIを計測する方法
CTV広告のアシスト力、詳細分析で効果が明らかに
CTV広告の価値は、アシスト力の高さにも現れている。アシスト力について、Adjustの佐々氏は次のように説明する。
「基本的にはCVに最も近いラスト接触で『CVへの貢献』と見なされますが、実はその前にも多くのユーザーがCTV広告に触れています。そのため、CTV広告のキャンペーンパフォーマンス全体に与える影響を可視化し、『CVをいかにアシストしているか』を見る必要があるのです」(佐々氏)
エアトリでAdjustのアシスト分析機能を用いて分析したところ、他媒体を経由してエアトリのアプリインストールをアシストする力が、CTV広告は全媒体の中で4番目に高かった。それも、上位媒体のわずか1~2割程度の予算で実現しているというから驚きだ。
効率の面でも、優れた結果が見えた。CTV広告の場合、1回のインストールアシストに必要な広告接触回数はわずか1~1.5回程度だったのだ。他媒体の平均1~3回という接触回数に比べて少ない接触回数で効果を発揮しており、1回の広告接触あたりの効果の高さが際立った。
これらの結果から、CTV広告にかける予算を増やし接触回数を増やすことができれば、他媒体からのインストール数の向上を見込めるだろう。
「Adjustのアシスト管理画面レポート(オプション機能)では、アシスト力が管理画面レポートで可視化でき、CTV広告に限らず、各マーケティングチャネル間の相互影響が数値化されます。アシストの有無別のインストール数推移やチャネルごとのインストール割合など、包括的な分析が可能です。これにより、CTV広告の真価を適切に評価できます」(佐々氏)
CTV広告の活用について、エアトリ泉氏は次のように振り返る。
「CTV広告は、他媒体へのアシスト効果や、獲得ユーザーの質の面で非常に高い価値があるとわかりました。さらに、他の認知施策よりも明確に計測できるため分析がしやすく、インサイトに気づきやすいのも大きな利点です」(泉氏)
【フジテレビ】壮大な2つの実証実験から見えたCTVの価値
続いて、フジテレビジョンの野村氏が、同社の出資している古地図アプリ『大江戸今昔めぐり』における広告運用の実験結果を紹介した。
野村氏は、「CTV VS スマホ」と「ミッドロール(番組途中に流れるCM) VS ポストロール(番組が終わってから流れるCM)」の2パターンで、インストール数の獲得効率を比較。さらに、クリエイティブの比較もすべく5パターンの検証素材を用意した。
a/A:【CTV広告】動画に、L字型でQRコードを表示
b/B:【CTV広告】動画に、全編でQRコードを表示
c/C:【CTV広告】冒頭15秒を動画、後半15秒を概要紹介とQRを表示
d/D:【CTV広告】動画
e/E:【スマホ】動画にクリッカブルの誘導、L字なし・あり
それぞれの素材を10万インプレッションずつ運用して、インストール数の獲得効率を比較。その結果、スマホよりCTVのほうが、すべてのCM素材でインストール数が多いと判明したという。またコンバージョンレートは「スマホ×ミッドロール」を1とすると、「CTV×ポストロール」は3.5、「CTV×ミッドロール」は5.5となった。
さらに野村氏はサイカ社とともに、TVer、YouTube、テレビCMの3媒体の広告価値を比較した結果を紹介した。具体的には、2021年から2023年に3媒体すべてに出稿した9業界、23法人、36ブランドを対象に、各施策のインパクトを測定したものだ。
3媒体の獲得CV効率(獲得CV数/コスト)は、テレビCMが0.76、YouTubeが1.20で、TVerが1.23と横並びの結果だった。その中でもTVerの獲得効率は年々上昇しており、その要因を確認したところ、CTVで視聴する人の割合の増加と比例していることがわかった。
さらに、残存効果を検証。残存効果とは、広告出稿時のコンバージョン獲得数を100%とした場合、10%まで減衰するまでの長さを示すもの。分析の結果、テレビCMは9.2週と圧倒的に効率がいい結果に。次に高かったTVerの残存効果は2.1週で、1.7週のYouTubeより120%長いことがわかった。
「テレビCMの圧倒的なアシスト力が示された結果でした。この結果にはテレビメディアのもつ信頼感が影響していると考えられます。また今後、TVerのCTV視聴の割合が増えるほど、TVerはテレビCMに近しくなると想定できます」と野村氏は語る。
CTV広告についてさらに詳しい情報を得たい方、またCTV広告計測に関するお問い合わせは、Adjust公式サイトからご連絡ください。
CTV広告の効果を正確に測る4つのポイント
エアトリとフジテレビの取り組みから、CTV広告の高い効果が明らかになった。しかし、CTVの広告効果を測定する際、その特性ゆえの注意点があるという。
Adjustの佐々氏は「計測のシステム上、正確に紐づけできるものを優先する傾向があります。こういった計測上の仕様を認識した上で、結果を見ていただきたいです」と指摘する。その上で、CTV広告の効果を正確に測定するためのポイントとして、次の4つを挙げた。
【1】インストール数だけではなく、流入元ごとの継続率やLTVに着目せよ
Adjustのソリューション上ではオンライン/オフラインを問わず、様々な広告のデータをまとめて比較し、流入元ごとに効果の良し悪しを判断可能。単純なインストール数の比較では見えない、ユーザーの質をはじめとする真の広告効果を明らかにできる。
【2】地上波テレビCMとCTV広告の並行分析を行うべし
Adjustはビデオリサーチと連携しているため、オーガニックやCTV広告、その他のキャンペーンとの比較分析の実施が可能だ。メディアミックスで比較分析を行うことで、各媒体の特性や価値を見定められる。また、CTV広告の結果から地上波テレビCMの効果シミュレーションも行えるため、大規模な地上波テレビCMに出稿する際の検討材料にできる。
【3】QRコードを活用せよ
QRコードにより、広告の接触とインストールがデータとして確実に結びつく。そのため、より確定的なデータに基づいた流入数とユーザーの質の分析が可能になる。特にテレビ画面での視聴時は、手元のスマートフォンでQRコードを読み取る行動が自然に発生しやすい。
【4】アシスト力の評価を含む総合的な分析を行うべし
アシスト分析はCTV広告だけでなく、他のデジタル広告、オウンドメディア、QRコードなど、すべての施策において有効。「コホート分析による“ユーザーの質”」「アシスト分析による間接インストール」など、量と質を組み合わせた観点から総合的に分析することが大切。
進化するCTV広告、マス広告との連携にも期待
最後に、CTV広告の今後に関して三者は次のように語った。
「適切な分析を行うためには、やはりデータに基づいた分析が必要不可欠だと感じています。おもしろい結果が様々出ているので、今後も勉強しながら新たなチャレンジをしたいです」(泉氏)
「CTV広告で得られた知見を、マス広告と連動させることに可能性を感じています。たとえば、地上波テレビCMでは困難なA/Bテストも、CTV広告であれば比較的簡単に取り組めます。CTVでの検証結果を基に素材を決めて、そこにガツンと予算を充てるやり方も流行っていくのではないでしょうか」(野村氏)
「日本市場におけるCTVは、欧米と比較すると発展途上の段階にあります。米国では、QRコードの活用が進んでいる一方で、アドフラウド(広告詐欺)などの問題も発生しています。しかし、日本の場合は質の高い民放系OTTサービスが充実しており、信頼性の高い環境が整備されています。CTV広告の活用は広がりつつありますが、今後、施策の成功・失敗事例が活発に共有されることで、可能性がより明らかになるでしょう。私たちは計測・分析ツールの提供を通じて、効果的な活用を支援していきたいです」(佐々氏)