ユーザーの滞在時間の“約半分”がリールになっている⁈
MarkeZine編集部:この記事ではInstagramの縦型動画広告に焦点を当てて、その重要性や攻略のポイントを伺っていきます。まずは、Instagram全体でリールがどのくらい拡大しているか教えてください。
伊東:Instagramのユーザー数は年々増加傾向にある中、特にリールについては伸長が大きく、現在ユーザーの滞在時間の約50%をリールが占める状況にまで拡大しています。
また、Metaのアルゴリズムにより、利用者によって表示されやすいクリエイティブフォーマットは異なります。たとえば、リールを見るユーザーには自然と縦型動画が表示されやすい仕組みになっているのです。
「ユーザーが長時間滞在する面を押さえることで機会損失を防ぐ」「活用するクリエイティブフォーマットを多様化することで、リーチするユーザーの幅を広げる」という2点から、マーケティングにおいてもリールは早々に攻略すべきであると言えます。
MarkeZine編集部:もはやリールは“必須”で押さえるべき面なのですね。企業による配信も増大していますか?
伊東:多くの広告主様や代理店様がリールの重要性を認識し、活用に向けて取り組んで下さっています。しかしながら、縦型動画の知識理解が浅いこと、制作のリソース不足などがスタート時の障壁となり、最大限活用いただけていない企業様もいらっしゃいます。
そのような中で、リール広告について先進的な取り組みをされており、実績も多数残されているのがSide Kicks様です。
獲得件数が大幅に拡大した施策も
MarkeZine編集部:では、さっそくSide Kicksにリール広告のインパクトを理解できる事例を共有してもらおうと思います。その前に、Side Kicksについて簡単に紹介をお願いできますか。
山田:Side Kicksは今期で7期目を迎えたベンチャー企業です。Web領域、中でもSNSにおける獲得型広告に特化した広告代理事業を展開しています。メンバーは現在50名弱。詳しくは後ほど触れますが、運用を担当している者も営業担当者も含め、全員クリエイティブを制作できるのが特徴です。
上原:直近の事例は私からご紹介します。たとえば、ある女性向けウェルネスアイテムを展開している企業様との取り組みでは、Instagramの縦型動画を実施しCPAを維持したまま6倍の獲得件数を実現できている状況となっています。
縦型動画ならではの特長として、広告クリエイティブにストーリー性を持たせられるという点があります。そのため、まだ商品を認知していない層やニーズが顕在化していない層に対しても、リールなら効果的にアプローチできるのです。この事例の場合も、潜在ユーザーにもしっかりアプローチできていることが成果の要因であると考えています。
Instagram広告の成否は、クリエイティブの質と運用スピードで分かれる
MarkeZine編集部:リール広告で高い成果を出すためには、どのようなポイントがあるでしょうか?
伊東:大前提として、Meta広告ではクリエイティブが重要な要素になっているということを理解する必要があります。
MetaではAIによる広告配信の自動最適化が進んでいます。そのため、成果を上げる上で、クリエイティブの質の重要性が高まってきているのです。今後は、縦型動画のクリエイティブノウハウがMeta広告の大きなカギを握ることになるでしょう。
MarkeZine編集部:Meta広告の運用では、性別やエリアなどでターゲットを定めていた部分があったと思われますが、現在はクリエイティブが重要になりつつあると。クリエイティブこそがターゲティングという世界観になっているのは、Meta広告における大きなシフトです。Side Kicksでは、どのように質の高いクリエイティブを企画・運用しているのでしょうか?
上原:弊社の組織体制が与えている影響が大きいと思います。先ほど山田が言及したとおり、弊社ではクリエイティブ部門のメンバーだけでなく、営業や運用担当も含めた全員がクリエイティブディレクションを担当できる体制を整えています。市場リサーチや戦略策定から企画立案、クリエイティブの構成案作成まで、全社員が一貫して携わることが可能です。
よって、たとえば営業担当であっても制作経験に基づく具体的な施策提案ができますし、データ分析においても「このクリエイティブはCTRが高い」ではなく「このクリエイティブは、この部分がこういうユーザーに刺さっているからCTRが高くなっている」というように深い考察ができるのです。
山田:良いクリエイティブを作るためには、その前段階の「ペルソナ理解」「市場理解」などが重要です。ですので、全員が成果につながるクリエイティブを制作できる状態とは、すなわち全員がペルソナを理解している状態だと考えています。
クリエイティブは、言うなればリトマス試験紙のようなものです。全員がペルソナをしっかり理解し同じ方向を向けているか否かが、クリエイティブの質に表れてくると思います。
上原:クリエイティブを共通言語として活用することで、部門間の円滑なコミュニケーションも実現しています。共通認識を持った上で、各担当者がクリエイティブ運用のPDCAを自律的に回せるからこそ、施策の迅速な改善ができるのです。
他にも、縦型動画においては素材が重要だと考えていることから、社内にインフルエンサー事業部を設置し、インフルエンサーやモデルのアサインから、撮影、素材収集まで一貫して行える体制も構築しています。
クリエイティブが高速で摩耗される中、常に一歩抜きん出るために
山田:冒頭で伊東さんが、クリエイティブの質についてお話しされていましたが、リールは特に日進月歩の色が強いと思っています。今日時点では斬新とされるアイデアも、すぐにコモディティ化してしまいます。そのスピードがリールの場合非常に速く、クリエイティブの質も日に日に高くなっていると感じます。
MarkeZine編集部:たしかに、流行するミームや構文も数週間単位で変わっている印象があります。
山田:そうですよね。リール広告で成果を上げるためには、そうしたスピード感についていき、さらには一歩抜きんでて“誰もやっていない新しいもの”を出し続けられるか否かが問われるようになってきています。
ただ、日々のルーティンワークがある中、斬新なアイデアを出したり、実験的な取り組みに時間を充てたりするのはやはり容易ではありません。そこで、弊社では「クリエイティブイノベーション室」という組織を置いています。
ここでは、既存クリエイティブの分析から、新規アイデアの創出、制作サポートまでを担当することで、従来の効果実績を維持しながら、新たな手法の開発を実現する体制を構築しています。
リソースが少なくても、クリエイティブを効率的に多様化できるフレームワーク
MarkeZine編集部:リール広告で成果を出すためにはクリエイティブが最重要であることは理解できました。とはいえ、リソースの問題でクリエイティブ制作にハードルを感じる企業は多そうです。
伊東:そうですよね。そこでMetaでは、リールのクリエイティブを効率的に多様化できる「23 to 300」フレームを提案しています。これは、動画の構成を【冒頭】【中盤】【終盤】の3つのパートに分け、冒頭10本、中盤10本、終盤3本のクリエイティブを制作。それら23個のパーツを組み合わせると、合計300本のクリエイティブが制作できるという考え方です。また、パーツを分けることでそれぞれのパートでの効果分析も容易になります。
Metaの検証では、多様なクリエイティブを配信することで、広告効果は32%向上するという結果があります。いきなりバラエティ豊かなクリエイティブをたくさん作ろうと思うと「大変そう」と身構えてしまいますが、「23 to 300」フレームを活用すると、ハードルが下がる気がしませんか?
山田:加えて、リールはパートごとに明確な役割が設定されています。たとえば、冒頭パートではアテンションを最大限に高めることを目指しますし、続く中盤パートはユーザーの商品理解の深化を試みて、最後は実際に行動を起こしてもらうようアクションを促しますよね。「23 to 300」フレームを用いると、こうした各パートの役割設定が自ずとクリアになるので、クリエイティブに対する解像度が高まるのです。
これは、制作時だけでなく、効果検証や競合分析の際も有用です。競合のクリエイティブを【冒頭】【中盤】【終盤】に分解して分析し、各パートでどのような表現手法が採用されているかを体系的に把握するとよいですよ。
一番大切なのは、すぐに諦めず検証期間を乗り越えること。
MarkeZine編集部:「静止画広告に加えて、縦型動画広告もスタートしてみよう」と考えた読者にアドバイスをいただけますか。
伊東:縦型動画で成果を出すためにもう1つ重要なポイントは、手応えが感じられないからと言ってすぐに諦めないことです。実は、縦型動画を数本のみ配信してみて数週間程度で効果判断を行い、施策を中止してしまう広告主様も少なくありません。ですが、これは非常にもったいないことだと思います。
上原:それは重要なポイントですね。縦型動画では潜在層にもリーチするため、成果が出始めるまでに時間がかかりますが、検証期間を越えると、大きく成果が伸びていく傾向があります。2~3ヵ月は腰を据えて取り組む姿勢が大切だと思います。
伊東:最後に、「静止画・動画 vs 縦型動画という視点で一概に成果を見ない」というアドバイスもしたいと思います。冒頭でご説明したとおり、多様なフォーマットを活用することでアプローチできるユーザーを広げられると捉えていただくとよいでしょう。既に静止画広告に取り組まれている場合、別で縦型動画の深掘りを行い、検証に取り組むことで、プラスアルファのリーチ・獲得効果を生み出すことができるというわけです。
新規施策にともなう不確実性への懸念はあると思いますが、確実にブレイクスルーポイントが存在することを認識した上で、まずは効果検証に必要な期間を確保し、挑戦していただきたいです。