ラジオ業界の盛り上がりに学ぶ、現代のコンテンツ戦略
藤平:本日はよろしくお願いします。この連載では、色々な立場の方との対談から直接的・間接的に学びを得て、広告産業の存在意義、さらにその先にある広告会社の生存戦略を探しています。冨山さんが書かれた『今、ラジオ全盛期。』を拝読しまして、オールナイトニッポン、もっと言うとラジオ・オーディオコンテンツ領域の復権に、広告産業も学べるところがあるのではと思い、対談をリクエストさせていただきました。
余談ですが、学生の頃、窓辺にラジオを置いて岡野昭仁さんのオールナイトニッポンを聴いていたので、本を読んでめちゃくちゃ懐かしい気持ちになりました。いまもオールナイトニッポンはradikoのタイムフリーでしばしば聴いてまして、昨年秋に横浜アリーナであった佐久間宣行さんの番組イベント「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)リスナー超感謝祭2024~新時代~」も行かせていただきました。

冨山:そうなんですか、ありがとうございます! 藤平さんが高校生の頃だと、ちょうど僕が『ポルノグラフィティ岡野昭仁のオールナイトニッポン』を担当していた頃かもしれないです、なんかエモいですね。
藤平:そうなんです、当時はなかなか電波が届かず(笑)。今日は本に書かれていない内容も含め、色んなお話を聞かせてください。
斜陽と言われていたラジオ、V字回復にあった3つの要因
藤平:さて、いきなり失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、本にも書かれていた通り、ラジオはV字の谷の部分があった認識です。振り返ると、その谷から転じ始めたタイミングはどのあたりでしたか?
冨山:これはここ最近の話ではなく、テレビが出てきた時から、ラジオは斜陽産業だと言われてきました。実際、ラジオの広告費は1991年がピークで、なだらかに下がり続けています。
では何をもって「今、ラジオ全盛期」なのかとよく聞かれるのですが、僕は「ハード(聴取環境)」「ソフト(コンテンツ)」「広告」の3つの側面で説明するようにしています。オールナイトニッポンはありがたいことに3つともV字回復を遂げていますが、ラジオ業界全体で見ると「広告」がV字回復に転じているわけではないので、ここの認識はまず統一しておく必要があります。

藤平:なるほど。では、「オールナイトニッポンのV字回復」という括りで話を聞いていきたいと思います。
冨山:まず、ハード面に関しては、2010年にradikoが誕生し、2016年にタイムフリーでのサービスが始まりました。ラジオ受信機がなかなか家にない状態から、スマホでいつでもラジオを聴けるようになった。この差は非常に大きく、DXによりラジオはハード面が一気に整いました。
ソフト面もこの20年でずいぶん変わっており、そもそも生放送を維持するのが厳しい……という時期がオールナイトニッポンにもあったんですよ。雰囲気が変わったのは、2016年に星野源さん、2017年に菅田将暉さんのオールナイトニッポンが始まったタイミングです。この頃から、ラジオ番組をコンテンツの1つとして捉えるように意識が変わったと思います。
そうしてハード面が整い、コンテンツもリッチになると、リスナーがTwitter(現X)に番組の感想を書き込んでくれるようになりました。SNSにより、ラジオの居場所・存在感がネット上にも表れ始めたわけです。中には、番組スポンサーへの感謝をつぶやいてくれるリスナーも出てきて、ラジオ特有の「応援する文化」が見えるようになってくると、雪だるま式にスポンサーの数が増えていきました。
月~土曜で10社くらいまで落ち込んでいたスポンサーが、2024年度では100社以上の企業の皆さんにご協賛いただいていますので、広告面も大きく回復できたと言えます。
僕は「21世紀に入って、今、若者がいちばんラジオを聴いています」とキャッチコピーのように話しています。
衰退していた2000年代、ラジオという文化は若者のなかでは廃れてしまっていて、リスナーは絶滅危惧種ぐらいに減っていました。それが今や、初めて会う仕事関係者やプライベートであった人、とりわけ若い人から「ラジオ聴いています」「××のオールナイトニッポン好きです」と言われる機会が増え、肌感覚ではありますが10倍どころか100倍ぐらい言われるようになった印象です。
『今、ラジオ全盛期』より引用