40年で激変した広告業界 紙からデジタル、そしてAIへ
横山:最近よく思うのですが、広告代理店のAI活用ってまだ、「部分最適」にとどまっていますよね。
菅原:ええ。もうAIのほうが詳しいはずなのに、まだまだ「人間が上司、AIが部下」のような立場で考えている人、多いと思います。
横山:まだまだ自分の名前や肩書きを残そうとしている感じがします。そりゃ「自分が要らなくなるための開発」って、なかなか踏ん切れないものですよね。しかし、クリエイティブもストラテジックプランニングもAIのほうが優秀になっていきますので、いずれ取って代わられてしまうでしょう。

菅原:そう考えると、広告業界の仕事はここ数十年で激変していますよね。
横山:まさに。約40年前にこの業界に入ったころ、僕は鉛の板で新聞広告の原稿を運んでいたんですよ。新聞の時代から始まって、自分でインターネット広告の会社を起案することになり、デジタル広告の売上がテレビを抜いて、いまやAIに任せる時代に入ってきている……。振り返って見ると、自分は広告業界の激変期にはめ込まれた人間だなと、しみじみ感じてしまいます。
菅原:横山さんをはじめとした、日本のデジタル広告を信じて土台を作ってきた方々のおかげで、僕たち消費者には「デジタルの作法」が浸透しているのだと思います。昨今、デジタル広告はサイネージも、リテールメディアも、テレビも飲み込んで巨大産業になりつつあるじゃないですか。TVerは最たる例です。様々な広告がデジタル化すればするほど、AIがデータをマーケティングに使いやすくなるはず。「AIに仕事を奪われる」と悲観的になりすぎず、企業はこういったチャンスを積極的に掴んでいくべきだと思っています。

2000年代に取り残した「インタラクティブ広告」の可能性
横山:実は、広告に長年携わってきたなかで、ずっと心に引っかかっている宿題が一つあるんです。それは「インタラクティブ広告をもっと突き詰められたのではないか」ということ。ただ見せるだけではなく、触れたりカーソルを合わせたりすることで変化が起こる「双作用性」の広告は、2000年代に実験的な取り組みがされてきた分野です。
菅原:確かに、2000年代には遊び心のあるブランドサイトや広告が多かった印象があります。
横山:そうそう。たとえば、車のエンブレムにカーソルを合わせると、エンジンの音が鳴ったり、たばこのライターのサイトを開くと、一度暗転してライターの炎が灯るモーションが入ったり……。動きとしてはそれ以上でもそれ以下でもないのだけれど、ブランドの価値を強烈に伝える印象的なクリエイティブが、確かにそこにあったのではないでしょうか。
菅原:技術的には単純かもしれませんが、工夫されたわくわくする仕掛けですよね。
横山:でも、今のデジタル広告は「動画」中心になってしまいました。テレビCMの発想をそのまま持ってきて、見せて終わりのものが多い印象です。作った動画をただ流すのと比べれば、一つひとつの仕掛けに工夫を凝らすのが面倒なのは理解できます。しかし、非効率の中にこそ「遊び」の余地があるのではないかと、僕は思うんです。