AIで激変する買い物体験。デジタル広告の「戦略」はどう変わるのか
SNS、検索、動画サイト、実店舗。ユーザーとの接点はあらゆる場所に広がり、消費者は複数の接点を行き来しながら商品を比較・検討するようになった。そこに新たに加わった接点が、生成AIだ。
「以前は複数サイトを開いて比較・検討していました。今はAIとの対話のなかで、条件整理から比較まで一気に進む。買い物のプロセスそのものが変わっています」と、Criteoの池田氏は語る。
実際に、AIが曖昧なニーズを言語化し、複数チャネルの情報を要約・比較し、割引情報や価格まで含めて、ショッピングジャーニーの初期から中盤の意思決定を支援する場面が増えている。
(出典:Criteo「コマースとAIに関するトレンドレポート」2026年5月)
ただし、AIが購買行動のすべてを置き換えているわけではない。AIを買い物に利用する人の96%がAI以外のチャネルも併用している。では、接点がこれほど複雑に重なり合うなかで、チャネルごとに広告を最適化する従来のやり方は通用し続けるのだろうか。
複雑化する「マーケターの意思決定」
「複雑になるのは、配信そのものではありません。マーケターの意思決定です」と池田氏は言い切る。
かつては、検索エンジン・SNS・ディスプレイとチャネルごとの最適化が中心だった。ところが今は、AIアシスタント、リテールメディア、マーケットプレイス、レビューサイト、動画サービス、ブランドサイトまでが接点に加わる。チャネルごとの個別最適化を積み上げるだけでは、全体としての成果に結びつきにくくなっている。
そういったなかで池田氏が必要だと考えるのは、全体を俯瞰するインテリジェンスへの転換だ。個別最適ではなく、複数の接点をどうつなぎ、全体でどう判断するか。その視点に立ったとき、問われるのはデジタル広告の「本質」だ。
消費者行動が変わっても、広告で判断すべき4つのポイントは変わらない、と池田氏は言う。
(1)誰に配信すべきか(オーディエンス・ターゲティング)、(2)どのような商品を提案すべきか(商品レコメンド)(3)どの広告枠にいくらで配信すべきか(入札戦略)、(4)どう見せるべきか(クリエイティブ)。チャネルがいくら増え、複雑化しても、これらの精度が広告成果を左右する構造は変わらない。

そして、「いつ誰に何をどう見せるか」というこの4つのポイントに加え、「ユーザーが今どこのファネルにいるのか(カスタマージャーニーのどの段階にいるのか)」を正しく見極めないと、広告の効果が出ない。ファネルのどこにいるのかを見極めるという判断も、各チャネルを俯瞰したAIインテリジェンスを持つCriteoならではの強みだ。
では、4つの判断を正しく行うために何が必要か。池田氏によれば、AI時代に差が出るのは媒体を運用するテクニックではない。何をAIに学習させるか、そのデータの質が出力の精度を決めるという。
1兆ドル規模の購買シグナルがもたらす圧倒的精度
この学習データこそが、Criteoの強みが最も発揮される領域だ。同社のAIが学習しているのは、約7.4億のDAUが生み出す年間約1兆ドル規模の取引、約45億SKUの商品データからなる膨大なコマースデータだ。規模もさることながら、ECサイトだけでなく、オープンインターネット上の一般的なメディアでの閲覧やクリック、そして最終的な「購買」に至るまでのシグナルを学習している点が最大の強みになる。さらに、刻々と変わる在庫や価格をリアルタイムでアルゴリズムに反映させている。
技術面でも、Criteoには20年の蓄積がある。映画のレコメンドエンジンとして創業し、その技術を広告に応用してリターゲティングを開拓。モバイル、プログラマティック、GDPRと業界の変化を乗り越えるたびに最適化エンジンを磨き続け、いまやフルファネルのAIオーケストレーションへと進化してきた。

「以前のCriteoは、リターゲティングというイメージで認識いただいていた部分もあります。ですが現在は、購買意欲の高い新規顧客の獲得から既存顧客の育成、売上の最大化まで、フルファネルで支援領域を広げています」と池田氏は語る。実際、コマースデータとAIの掛け合わせによって、次のような成果が確認されている。
- 新規顧客獲得:+37%(プロスペクティングオーディエンス)
- 売上:+22%(商品レコメンドエンジン)
- CV:+7%(予測入札エンジン)
- CTR:+20%(ダイナミック・クリエイティブ最適化エンジン)
このコマースデータを土台に、Criteoはオープンウェブ、リテールメディア、AIオプティマイゼーションを組み合わせ、発見から検討、購入までコマース全体を横断して最適化する「コマース・インテリジェンス・プラットフォーム」を目指す。エージェンティックAIを単独の機能としてではなく、膨大なコマースデータと掛け合わせる——それが次世代の戦略だという位置づけだ。

エージェンティック・コマース実装の最前線
このエコシステムを、Criteoはどう形にしているのか。講演で池田氏が繰り返し強調したのは、AIレコメンデーションの「精度」だ。
「AIと自然な会話ができたとしても、在庫がない、返品率が高い、販売終了している商品を推薦してしまえば、購買体験としては成立しません。重要なのは、その会話が在庫と購買シグナルに接続されていることです」(池田氏)。
Criteoはこれを、生成AIと自社レコメンドシステムの「ハイブリッド・エンジン」で実現する。流れはシンプルだ。
- 生成AIがユーザーとの対話からニーズや利用シーンを理解・言語化する
- レコメンドシステムが実際の購買履歴・在庫・コンバージョン確率を基に最適な商品を判断する
- 生成AIが推奨理由を説明し、ユーザーごとに再順位付けして提示する
「会話力」は生成AIが担い、「何を薦めるか」の精度はコマースデータとCriteoのレコメンドシステムが担う。この役割分担がハイブリッド・エンジンの核心だ。そしてこの仕組みは、既に具体的な実装として動き始めている。
【実装例】ChatGPT広告・対話型バナー・AI運用支援
購買シグナルとAIを直接つなぐ「MCP」
その1つが、Criteoが独自開発したMCP(Model Context Protocol)だ。MCPは、AIショッピングアシスタントをリアルタイムの在庫・購買シグナルへ接続する仕組みで、共通のルールを用いることで、複数のAIエージェントと接続する際の個別開発を最小限に抑えることができる。
たとえばユーザーが「週末のキャンプに最適なテントを探して」と入力すると、在庫・価格・購買シグナルがMCP経由で瞬時にAIへ返り、単なる情報検索が「購入可能なレコメンド」に変わる。自社でAIショッピングアシスタントをゼロから構築しなくても、既存のレコメンドエンジンをAIとの対話に接続できる点が、実装上の大きなメリットだ。
この取り組みの一環として、CriteoはOpenAIの広告パイロットに統合される最初の広告テクノロジーパートナーに選ばれた。「OpenAIのChatGPTにおける広告パイロットへの参画には、私自身も驚きました。早く皆様に進展をお伝えしたいと思っています」と池田氏。
同氏がイベントで語った「進展」は早くも現実のものとなり、2026年6月には日本国内でも「ChatGPT広告」の本格的な配信がスタートした。
その場で提案が変化し続ける「対話型バナー広告」
2つ目が、対話型バナー広告だ。広告は「見るもの」から「対話し、リアルタイムで提案を受けるもの」へ進化する。ユーザーはバナーをクリックして遷移する前に、その場でAIエージェントと対話できる。「もう少し暗い色で、予算1万円以下のものはある?」といった、その瞬間の希望に応じて、新しい提案が繰り返される。
「UI上ではわかりませんが、この会話自体が在庫と購買シグナルに連携しています。単なるチャットではなく、広告がリアルタイムに最適化され続けるインターフェースです」(池田氏)。広告主にとっては、バナーが「ランディングページの前室」として機能し、遷移前にニーズを絞り込み、購買意欲を高めた状態でサイトに送客できる仕組みだ。
AIとの対話でオーディエンスを設計する「意思決定支援」
3つ目が、運用者の意思決定支援だ。これまで人が複数の条件を組み合わせ、試行錯誤してきたオーディエンス設計を、AIとの対話で行えるようにする。
たとえば「過去30日でカート落ちしたユーザーのなかで、LTVが最も高くなりそうなセグメントを作って」と指示すれば、AIがセグメントを生成する。さらに、「『週末に動画を視聴する層』を掛け合わせると、CPAが20%改善する見込みがあります。追加しますか?」とまで提案してくる。
これまで「勘と経験」に頼る部分が大きかったオーディエンス設計が、データに基づく提案ベースの対話作業に変わる。「媒体運用の効率化だけではなく、意思決定そのものを支援する方向へ進めています」と池田氏は語る。
エージェンティック時代を勝ち抜く4つのアクション
講演の最後に池田氏は、これから重要になるポイントを整理した。鍵は、AI向けの特別な施策を作ることだけではなく、土台を整えることにある。
【1】商品情報を、AIによる検索・発見に対応できるよう最適化する
特別な施策の前に、まずフィードやタグの整備から。商品情報(SKU、価格、在庫状況)のデータ品質を高め、AIが理解し、レコメンドしやすい状態を作る。何をAIに学習させるかによって、結果は大きく変わる。
【2】顧客ロイヤルティ維持のために、オンサイト体験を強化する
オンサイト体験やCRMも含めて、顧客との関係を深める。1st Partyデータを蓄え、サイト内のUXを磨くことが、AI時代の差別化につながる。
【3】コマースデータを活用し、関連性の高いレコメンドを実現する
保有するコマースデータを起点に、顧客一人ひとりに最適な商品を提案する。興味関心ベースではなく、実際の購買行動のシグナルを生かす発想が、購買に結びつく精度を生む。
【4】信頼できるパートナーと、試行を重ねて前に進む
「市場自体はまだ発展途上です。だからこそ、ここにいる皆様、そして信頼できるパートナーと試行錯誤しながら前に進めていくことが重要になります」。池田氏はそう締めくくった。
「正解」はまだ誰も持っていない。信頼できるパートナーと小さく試し、学びながら前に進む姿勢が、この時期は最も重要だ。


