200人→7万人、インディーゲームのイベントが急成長した理由
━━本日はよろしくお願いします。まずは「BitSummit」の立ち上げの経緯や、現在の規模に至るまでの変遷について教えてください。
小清水:BitSummitは、2013年に京都で誕生したイベントです。第1回目は200人程度の規模で、主にBtoB向けのイベントとしてスタートしました。当時はまだ「インディーゲーム」という言葉自体が現在ほど浸透していなかったタイミングです。
国内の面白いインディーゲームを海外に向けて発信することを目的に、日本の著名なクリエイターや海外メディアなどに限定してお声がけし、ご参加いただくクローズドイベントとしてスタートしました。
当時は家庭用ゲーム市場の転換期でもあり、クリエイターたちが今後の活動のあり方や新たな方向性を模索していた時期でもあります。開催初期から、UnityやEpic Gamesといったゲームエンジンを提供する企業もこの取り組みに注目し、参加してくれていました。
━━最初はニッチな集まりだったのですね。そこから現在では約7万人もの来場者を集める規模にまで成長しています。これほどまでにインディーゲームへの注目が高まっている背景には何があるのでしょうか。
小清水:大きな要因の一つは、SNSとの結びつきです。当初は、ゲーム業界関係者や個性的なゲームに興味を持つ一部のゲームファンが、口コミや人的なネットワークを通じて集まる場でした。しかし現在では、クリエイター個人のX(旧Twitter)アカウントやゲームタイトルの公式アカウントが非常に強い影響力を持っています。なかには数万人から数百万人のフォロワーを抱え、インフルエンサーに匹敵する影響力を持つアカウントも存在します。
現在では、約120チームの一般出展者に加え、企業やパブリッシャーなどを含めると、約500チームが集結しています。各出展者がSNSを通じて一斉に情報を発信し、それが広く拡散されることで、非常に大きな集客力が生まれていると分析しています。
また、コロナ禍では一般のお客様を会場に迎えることができず、会場を情報発信の拠点と位置づけ、オンライン配信を中心とした開催を余儀なくされました。しかし、それが結果としてインフルエンサーやYouTuberを巻き込むきっかけとなり、従来のコアなゲームファンだけでなく、より幅広い層へリーチを広げる大きなターニングポイントになったともいえます。

AAAゲームと異なる、コミュニティ起点の発信力と熱量
━━莫大な予算を投じて開発されるAAA(トリプルエー)タイトルと、インディーゲームとでは、ビジネス構造やプロモーション手法にどのような違いがあるのでしょうか。
小清水:AAAタイトルは、数百人規模の開発体制と莫大な予算を必要とするため、大きな失敗が許されにくい状況にあります。そのため、投資を回収するには、できるだけ幅広い層をターゲットに据え、マス市場に向けた大規模なマーケティング戦略を展開する必要があります。
一方、インディーゲームは、クリエイターとファンがSNSなどを通じて直接つながっていることが特徴です。近年では、開発チームが自らDiscordなどのプラットフォーム上にコミュニティを立ち上げ、制作過程そのものを継続的に発信し、PRにつなげているケースもあります。
完成した作品の情報を企業側から一方向に発信する従来型の手法から、開発段階からファンを巻き込み、制作過程も価値として共有する「プロセスエコノミー型」の手法へ。さらには、コミュニティとともに作品を育てていく「共創型」へと、マーケティングの構造自体が大きく変化してきています。
最近話題になった『めっちゃカメレオン』は、レモリオン氏とはがねいろ氏という2人の開発者によって制作されたゲームで、発売から約2ヵ月で2,000万本という驚異的な販売本数を記録しました。
SNS上では関連する動画が大量に拡散されたため、大規模な広告プロモーションが行われているようにも見えます。しかし実際には広告費をかけておらず、ゲームそのものに「一目で魅力が伝わるコンセプト」と、ユーザーが思わずSNSでシェアしたくなるUGC(ユーザー生成コンテンツ)やクチコミを誘発する仕掛けが施されていました。広告に頼らない、いわば「ノンプロモーション」で、異次元ともいえる大ヒットを生み出したのです。
ベースとなるのは、プロップハントと呼ばれる「何かに化けて隠れるかくれんぼゲーム」で、海外では長年親しまれてきた定番ジャンルです。そこに「自分の体を背景に合わせて手動でペイントする」という独創的なシステムを組み合わせることで、少ない開発リソースながら世界的な大ヒットを生み出しました。インディーゲームならではの発想と設計が成功につながった、非常に興味深い事例だといえます。
針崎:私は2022年から運営事務局として参画していますが、インディーゲームのイベントは現場の熱量が圧倒的です。AAAゲームを主体として扱うイベントと比較し、イベント単体の規模感は見劣りするものがありますが、その分BitSummitはユーザーとクリエイターの距離が近く、直接ゲームをプレイして感想や意見を伝えられる環境があるからこそ、ファン層の厚さと熱狂が生まれているのだと感じます。
特に顕著に表れるのがビジネスデーの熱量です。作り手と売り手、そしてスポンサーやパートナーが活発にコミュニケーションを交わし、お互いによりよい方向に業界を導いていこうとする姿勢や、新たなシナジーを生み出す可能性を大きく感じます。ビジネスデーとパブリックデー(一般来場日)の両方で、ここまで作り手と売り手、そしてユーザーの熱量が高いイベントは他に類を見ません。
非ゲーム企業が続々と参入する「産学官連携」のシナジー
━━近年、食品メーカーや飲料メーカー、出版社、不動産など、ゲーム以外の異業種企業の協賛も増えていると伺いました。非ゲーム企業は、どのような目的でインディーゲームのイベントに参加しているのでしょうか。
小清水:協賛の目的は企業ごとに異なるため、一概には言えませんが、多くの協賛企業に共通する傾向については、ある程度お話しできると思います。
著名なゲームIPへの協賛は、そのIPが持つ高い認知度を活用した広告宣伝として受け取られる側面があります。一方、インディーゲームイベントへの協賛は、「カルチャーやコミュニティそのものを支援し、ともに育てていく企業である」という姿勢を示すことができ、パーパスの発信とブランディングの両面で大きな効果を生み出します。熱量の高いコミュニティと深くつながり、継続的な関係を築くことで、コミュニティとのエンゲージメントを高めることも、多くの企業にとって重要な目的の一つだと感じています。
また、ゲームIPの創出を目指す戦略的な狙いに加え、ゲームファンを自社の商業施設に呼び込んだり、インキュベーション施策の一環としてクリエイターを誘致・支援したりするなど、「ゲーム×コミュニティ」という文脈から、多様なビジネスシナジーを生み出そうとしているのではないかと考えています。

━━イベント自体が「産学官連携」の場として機能しているともうかがいました。なぜ行政や自治体、教育機関も注目するのでしょうか。
小清水:「学」の面では、数百人の学生がボランティアとして運営に参加しています。学生たちは、憧れのゲームクリエイターと同じイベントに携わり、直接交流できることに大きな価値を感じているのだと思います。また、憧れのゲーム会社の出展をサポートした経験を就職活動につなげたという学生の話も耳にします。
クリエイター育成の面では、展示枠の中に学生部門として10枠を設けています。そこに選出されたり、ゲームジャムアワードを受賞したりすることで、ゲームクリエイターになるという夢が一気に現実味を帯びる可能性があります。こうした機会を通じて、学校や学生が主体的かつ継続的にイベントへ参加できる仕組みをつくってきました。
「官」の面では、開催地である京都からも、「この地から世界へ」というビジョンのもと、さまざまな支援をいただいています。また、世界各国の行政機関による参加も増えており、イベントを通じて、それぞれの国や地域のクリエイターを多様な形で支援しています。
「産」であるゲーム業界や異業種の企業、「学」である教育機関、そして「官」である自治体や行政機関が、それぞれ異なる目的を持ちながらも、絶妙なバランスで連動しています。その結果、産・学・官をつなぐネットワークが自然に広がり、イベント全体が成長していく構造が生まれました。
クリエイターを主役に据え続ける設計が熱狂を生む
━━多様なステークホルダーが関わる巨大なイベントを成功させるために、運営事務局としてどのようなことを大切にされていますか。
針崎:BitSummitの規模が年々拡大する一方ですが、来場者の満足度が高まる導線やゾーニングの設計を最も大切にしています。参加クリエイターを一堂に集めたエリアはもちろんのこと、学生主体でゲーム開発を行う「GameJam」エリア、VR・XRなど先進的なデバイスを活かしたゲームエリア、さらには飲食・物販など来場者の皆様に楽しんでいただくためのエリアなど、来場者が心行くまでインディーゲームの世界を楽しめる空間を、実行委員会の皆様と折衝しながら丁寧に組み立てています。
また、今のインディーゲームのトレンドを多くの皆様に発信し、インディーゲームの面白さをスポンサーの皆様とともに伝えていくステージコンテンツの発信にも、力を入れています。
さらに、出展企業やスポンサーの皆様の要望にどれだけ寄り添えるかが重要です。通常のイベント運営では締め切りなどをドライに期限通りに切ってしまうような場面でも、私たちはできる限り融通を利かせ、出展者の皆様が満足できる形を模索しています。オリコムの企業理念である『世の中に一つでも多くの「良い関係」を創造する』を、このイベントで体現できていると感じます。
小清水:このイベントで最も大切にしているのは、「クリエイターが主役になっているか」ということです。この軸がぶれ、スポンサーやパブリッシャーが中心のイベントになってしまえば、本来の目的を見失うことになります。だからこそ、クリエイターを支援するすべての企業とこの理念をしっかり共有したうえで、ともにイベントをつくっています。何よりも、開発者自身が「参加して良かった」と思え、多くの収穫を得られる場であり続けることが大切なのです。
当協会は、常にインディーゲームクリエイターの視点に立ち、その指針に基づいてイベントを設計し、さまざまな要望や細部の調整を重ねています。そうした要望の中には、時として無理難題とも思えるお願いもあるかもしれません。しかし、オリコムさんは私たちの指針を深く理解し、会場設計からステージ運営に至るまで、見事に具体的な形にしてくれます。
毎週のように綿密なコミュニケーションを重ね、実現可能性や安全面まで考慮しながら支えてくれる、本当に心強く、信頼できるパートナーです。
今こそインディーゲームにベットせよ。マーケターへの提言
━━最後に、企業のマーケターや意思決定者に向けて、今後の展望と、インディーゲームをビジネスに活かすためのメッセージをお願いします。
小清水:BitSummitは、みやこめっせの全館利用を実現し、会場規模という点では限界に近づきつつあります。今後は会場内だけでなく、周辺施設や街全体を巻き込んだイベントづくりも視野に入れています。
また、出展したクリエイターが生み出したゲームIPの成長を後押しし、さまざまなメディアミックスの実現を支援することも目標の一つです。そうした展開を通じて作品を中心としたファンダムが形成され、やがて世界規模のムーブメント、さらには社会現象へと発展していく。そのための機会を創出し、継続的に支援できるイベントであると同時に、私たち自身もクリエイターを支える団体でありたいと考えています。
近年ではメディアミックス展開も相次ぎ、「インディーゲーム」という言葉自体が大きな訴求力を持つようになってきました。例えば、『天穂のサクナヒメ』や『グノーシア』はアニメ化され、『8番出口』は実写映画化されています。こうしたインディーゲームから新たなIPを生み出す可能性を見据え、多くのパブリッシャーがBitSummitに参加し、次なる成功事例を生み出そうとしています。
BitSummitの会場では、ほとんどの出展ブースに、そのゲームを実際に制作したクリエイターがいます。その場で開発者本人と直接コミュニケーションを取れるため、交渉や意思決定も非常にスピーディーです。国内外の企業との新たな出会いや、ビジネスシナジーが生まれやすい環境が、そこにはあります。
インディーゲーム市場は、SNSとの相乗効果によって、今後さらに大きく成長していくと確信しています。だからこそ、多くの方に今のうちからこの市場に関わり、新たなコミュニティの一員になっていただきたい。ぜひ、この熱量と可能性にベットしてください!

針崎:私自身、普段はIPコンテンツなどを幅広く扱う業務もしていますが、イベントの現場でクリエイターや国内外の関連企業と直接濃密なコミュニケーションができることは、他業界にはない強烈なメリットです。
玉石混交の中から光り輝く原石を自らの目利きで見つけ出し、一緒に手を取り合って育てていく。そんな共創のプロセスを体験できるのがインディーゲームの世界です。実際に、BitSummitをきっかけに、企業のブランディングにゲームを取り入れる、という事例もあります。そういった形でダイレクトに企業とゲームをつなぐ施策の設計はもちろんのこと、来場者に向けたプロモーションやブランディングなど、様々なかかわり方でこのイベントに参画いただくことができます。
一見すると自社の商材とは無関係に思える企業であっても、ゲームをプレイするユーザーのインサイトを深掘りすれば、意外なつながりやシナジーが見つかるはずです。まずはイベントに足を運んでいただき、コミュニティの熱狂を肌で感じてみてください。そして、インディーゲームというホットで可能性ある業界で、一緒にその熱量のもと、盛り上げに寄与いただければと思います。
私たちオリコムも、企業とインディーゲーム業界をつなぎ、全体を盛り上げるためのサポートを全力で行わせていただきます。ぜひ、BitSummitで「インディーゲームを応援し、一緒に盛り上げる」企業をお待ちしております!

