企業がみずから情報収集を始めた
――確かに、それがクラウド化を大きく後押ししたのは想像がつきますね。
そうなんです。これからは、いつどこからでも仕事ができ、事業がストップしない環境を構築することが必ず求められる。同時に、それを可能にするセキュリティサービスも絶対に必要なので、準備していたクラウドサービスの情報サイトを急いで立ち上げて、各ソフトウェアのクラウド化をさらに力を入れて進めることになりました。もちろん、当社の業務環境も速やかに100%クラウドへ移行しました。
すると、こうした新しいサービスの情報は企業がパートナーとしていた代理店も持っていなかったので、企業のシステム担当者が直接ベンダーのイベントに参加したり、Webで検索したりと、みずから情報収集をし始めました。そこで、入社当時はまったく機能していなかった私のリードジェネレーション/ナーチャリングという役割が、ようやく果たせるようになってきました。
情報サイトのSEOによる集客も奏功し、それ以降は現在までクラウド化にはずっと追い風です。特にセキュリティサービス分野では早く舵を切ったこともあって、当社が大きなシェアを占めている状態です。
――では、メインの製品の「HDE One」を例に、受注までの流れと組織体制を教えていただけますか?
製品の特徴として、グループウェアにMicrosoft Office 365またはGoogle G Suiteを入れている、比較的大企業向けのサービスだという点があります。メールアドレスごとの課金になるので、数でいうと従業員250人以上、250アカウント以上の企業を主なターゲットとしています。
そうなると、実は受注先となりうる企業の母数自体が多くはないんですね。なので、マーケティングがまず広くリードを獲得して育てて営業に渡すのではなく、営業のテレアポからスタートする、営業主体の組織になっています。

インサイドセールスのチームを発足
――まずは営業が動く、と。
もちろんマーケティングもリードを集めるので、両輪ですね。ただ、営業20人に対してマーケティングはデジタルの責任者の私と、リアル施策の責任者、それに加えて2年前に立ち上げたインサイドセールスチームが6人という少人数なので、営業が主体ではあります。
テレアポ後の流れとしては、まず訪問し、可能性がありそうな話を案件化して追っていきます。その間、可能性が薄そうなものはいわゆる“捨てリード”になってしまっていました。現時点で可能性が低いものを営業に追わせると、受注率や売上に影響するのでできませんが、マーケティングのほうではイベントなどにコストをかけているので、1回でも接触できたリードなら、捨てずに育てたい。
その点が、数年の課題になっていました。そこで2年前にマーケティングオートメーションツール(以下、MAツール)としてマルケトを導入し、専門チームを設けてインサイドセールスを開始しました。MAツールは以前から営業管理に使っていたSalesforceとデータ連携して、営業支援に取り組み始めました。
――マーケティングが大量にリードを集め、育てて営業に渡すというのが一般的なMAツールの活用法だと思いますが、“捨てリード”を回収して育てるというのはめずらしいです。
そうですね、マルケトさんに聞いてもあまり例がないようです。そもそも大量にリードを獲得できないので、そうせざるを得なかったというのが実情です。
当社は元々ベンチャーですし、営業とマーケティングの仲は良いほうだと思いますが、やはり組織が大きくなるにつれて縦割り体制の難しさは出てきていました。今、うまく回っているのは、チーム間、そしてシステム間のデータ連携がしっかりできているのが一番大きな要因だと思います。
営業の入力フォームを整備してデータベース化
――インサイドセールスチームができて2年とのことですが、今おっしゃった体制と連携が整うまでにはいろいろと試行錯誤があったのでは?
もちろん、そうですね。クラウド化への流れが起こってからMAツールを入れるまで3年ほどありましたが、その間に営業の捨てリードやマーケティングがイベントなどで発掘したリードなど、リード自体はけっこう集まったと考えていました。だから、MAツールを入れればすぐにナーチャリングに着手し、成果が上がると思っていたんです。
でも、フタを開けてみたら、なかなかうまくいかない現状がありました。我々が営業主体の組織だったので、起点となっている営業現場で何が起きているのかを把握しないままマーケティング活動をしても、顧客にまったく響かないのです。それに気づいてから、まず現場で営業が顧客とどういう会話をし、その顧客がどんなコンディションにあるのかを可視化しなければだめだという発想になりました。
――それがわかっていないと、次の一手を打てないわけですね。
そうですね。それもありますし、もっと効率よく進められるはずだとも思いました。たとえばその顧客がMicrosoft Office 365とGoogle G Suiteのどちらを使っているのか把握するだけでも、インサイドセールスが抽出してグループウェアがわかっている段階からアプローチできます。
――当時から営業ではSalesforceを使っていたのですか?
はい。営業の日報として記録はしていましたが、有効活用はできておらず、書いていない人もいました。でも改めてそのテキストデータを見てみると、情報の宝庫だったんです。これは絶対にデータベースにすべきだと思い、まずは営業がヒアリングする内容を簡単に入力できるフォームを作りました。テキストではなくボタンなどの選択式などでアンケート感覚にし、それこそ次のアポまでの移動中にさくっとスマホで入力可能にしました。