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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

プログラマティックTVが現実に テレビ広告の進化と未来

Q2.米国広告業界で今起きていることとは?

有園:ターゲットが明確な資生堂ならではの、大変明快なお話ですね。では、これから日本が目指す“理想像”が既に実現されつつあるアメリカの現状を、米Yahoo!から独立したエンジニアと一緒に共同創業者となり、プログラマティックなシステムを提供するC1Xの長山さんにうかがいます。今、どのような状況でしょうか?

長山:CM全体における割合で見ると、オンライン入稿とターゲティングができている、本当にプログラマティックTVと呼べる運用は、まだ3〜4%です。とはいえ広告業界、広告テクノロジー業界におけるテレビCMの議論は以前に増して白熱していますし、アメリカは人種や言語のバラエティ、また貧富の格差の点でも日本よりずっとターゲティングの意味合いが大きいので、プログラマティックTVに向けた動きがとても激しいことは確かです。

有園:ここからぐっと伸びそうというところですね。

長山:そうですね。アメリカではそもそも、ひとたび業界内で「これが合理的だ」というコンセンサスができると、浸透は速いんです。元々私が携わっているディスプレイ広告の世界でも、純広告や予約型広告はこの数年でほぼなくなりました。テレビCMも、同じような経緯をたどると思います。

 ただ、強調したいのは、プログラマティックTVの実現と浸透は業界に表出している一つの事象に過ぎないことです。一歩引いて、今起きているのは、業態の垣根を超えた激しいデータ覇権の争いです。これまでは各社が、広告主や広告代理店、DSP、エクスチェンジやSSPのようなプラットフォーマー、テレビ局を含むメディア、そしてキャリアなど、きれいに業態を棲み分けて縦のバリューチェーンを構成していました。

 それが、たとえば昨今議論になっているAT&Tによるタイムワーナーの買収やVerizonによるYahoo!やAOLの買収のようにメディアがキャリアに買われたり、広告主企業がメディアやプラットフォーマーを買ったり、広告代理店がプラットフォーマーを傘下に入れたり、デロイトやアクセンチュアやIBMのようなコンサルティング会社が伝統的な広告代理店を脅かしたりと、垣根が崩れて混沌としているのが現状です。

A2.データの覇権争いとプロセス整備の2軸が展開

有園:確かに、最近の買収劇を総合すると、相当入り組んできていますね。

長山:ええ。その背景にある皆の思惑が、データの覇者になることなんです。広告主はもちろんデータを奪われたくないし、メディアもしかりです。一方でキャリアは当然ながら個人データを大量に保有していますし、GoogleやAmazonのようなグローバルで何十億単位のデータを保有するプレーヤーももちろん名乗りを上げています。この争いを誰が押さえるかのせめぎあいが水面下で行われながら、仕組みの点では先ほど小出さんがおっしゃった入稿のオンライン化、向こうではストリームライン化といっていますが、ツール上でどんどん自動化して効率化するよう改善している。この2軸で動いています。

有園:仕組みの整備も、現在進行形なんですね。

長山:そうですね。ディスプレイ広告もプログラマティック化して、50くらいのステップが20ほどになりました。日本だと、商習慣上で80くらいあるかもしれないですね。テレビでもこれを10〜20に簡略化し、3週間ほどかかるのを長くても1〜2日でできないと、データが活きないという見解です。仮にデータ分析と活用がより深くできるようになっても、結局プロセスがスムーズにいかないとアクションにつなげられないので、プロセスの整備も大きく推進しています。

 有園:ステップがぐっと自動化し、完璧にストリームライン化すると、いずれ“広告主によるスポットCMのダイレクト入札”みたいなシステムも可能そうですね。

 あるテレビ局で、ぎりぎりで売れ残る広告枠に困っている、これをクライアントに解放して自動で売れれば、という話があって。たとえば、広告主がテレビの番組表に沿った“空き広告枠表”をオンラインで見られて、購入したら素材を入稿してオンエアされるような仕組みがあったらいいと思ったのです。決まった100社などでは考査済みの素材を用意しておけば、オンエアまで速いですよね。そういうニーズは、他のテレビ局にもあるようです。

長山:技術的には、まったく問題なく実現できますね。

有園:ですよね? 現実的には代理店がどういうかとか、他局は、と業界の商習慣や横並び意識がやはりネックになるようでしたが、私が知る限りだとアメリカでも売れ残りの問題はあるそうです。この対処を考えたときに、今進んでいるストリームライン化は、こうした“オンライン買い付け”の大きな推進力になりそうです。

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Q3.オンライン広告買い付けのハードルは越えられる?

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

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安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/25 18:00 https://markezine.jp/article/detail/27765

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