データとテクノロジーで勝てるマーケティングを実現
「メーカーをはじめとした製造業は、以前からの価値に他の手段も組み合わせた新しい価値、つまり顧客の体験価値であるカスタマーエクスペリエンスを提供しなければならない」と主張する天本氏。新しい価値作りに取り組む企業の事例として、ネスレとキリンを紹介した。
ネスレのネスカフェアンバサダーは、コーヒーのサブスクリプションだ。オフィスや自宅に置くコーヒーマシンとカフェメニューの掛け合わせにより、新しい価値を提供する。また、キリンが展開するビール定期便「KIRIN HOME TAP(キリンホームタップ)」は、専用ビールサーバーのレンタルサービスで、「自宅で生ビールを楽しむ」という、これまでにない価値を生み出した。
顧客やライフスタイルによって、求められる価値が異なる時代。この状態に対応するために、天本氏は「マーケティングのルールが変わったことを認識して欲しい」と訴えた。
「マーケティングは、データとテクノロジーという道具を使わないと勝てなくなっています。しかし、この道具の使い方にとまどう企業が多いのです。そこでDNPは、Marketing as a Service(MaaS)として、デジタルマーケティングの支援に取り組んでいます」(天本氏)
DNPにとってデジタルマーケティングとは、顧客を理解し、多くの人たちへ新しい価値を提供することである。顧客を理解することは、デジタル化以前から変わらない考えだろう。また優れたセールスマンは、顧客を理解し、顧客に最適な商品を提案している。こういった普遍的なマーケティングの実現を、データとテクノロジーを用いて再現性と汎用性を持たせたいという考えだ。
企業がぶつかる、デジタルマーケティングの共通課題
このような方針のもと、DNPはデジタルマーケティング支援を進めている。支援先企業も多岐にわたるが、天本氏は「いくつかの共通した課題がある」と明かした。
まず、ターゲティングの精緻化による施策の縮小化だ。ターゲティングを行うと、購入意欲が低いユーザーには、広告の配信を避けることができる。するとROIは良くなるが、施策は限定的になってしまう。たとえ、90%の確率で週末に自動車を購入する顧客を5人見つけたところで、自動車メーカーにとってみればビジネスインパクトは弱い。
しかし天本氏は、「デジタルのメリットは、PDCAをすばやく回すこと」とし、「ターゲットに合わせて、オファーをパーソナライズすることで、ROIと規模は両立できる」と語った。
続いて、企業のデジタルマーケティング実行における、3つの共通課題が挙げられた。
1つ目は、データの準備に多大な工数がかかり、正確でないデータのまま運用されていることだ。データからプロフィットはすぐに生まれない。それなのに、データは時間がかかると使われない傾向になってしまうという。
2つ目は、ツールを導入したが運用者がいない、担当者のスキルが足りないといった、人材不足に関する課題だ。デジタルマーケターの人材不足は業界の課題でもあり、多くの企業で見受けられている。
そして3つ目は、パーソナライズコミュニケーションが実現できていないことだ。アウトプットにメールしか施策がなかったり、コンテンツ制作が追いつかないなどの課題がある。