※本記事は、2020年8月25日刊行の定期誌『MarkeZine』56号に掲載したものです。
Tren Demon(クレディセゾン)Marketing Director 栗田宏美氏
地域密着型メディアの広告企画営業、Web広告代理店を経て、2014年クレディセゾン入社。オウンドメディアを立ち上げ、編集長としてブランディングと働き方改革の2軸を牽引。2018年よりカード購買データの利活用と新規事業を担当。さらにCVCを兼務し、イスラエルのマーケティングテクノロジースタートアップであるTren Demonへの投資を推進。2020年3月からTren Demon本社にジョイン、同時にイスラエルのスタートアップやテクノロジーについて、現地調査とレポーティングを行っている。
Q1.最近、いちばん感銘を受けた書籍とその理由は?
ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』です。
イギリスに住む著者の息子は、ある種守られた中流階級集団だった小学校から、「元・底辺中学校」と揶揄されるヤンキー(?)中学校に飛び込みます。そこには人種差別やいじめがありますが、息子はどんどんぶつかりながら成長。著者とその息子をめぐる、日常生活を描いた作品です。私は今イスラエルで、現地人と一緒に働きながら4歳の息子を育てています。学校が終わった時、「学校、楽しかった?」と聞くと、「うん!」と笑顔の日もあれば、「ううん」と答える日もあります。著者の息子のように私の息子も、肌や髪の色だけじゃなく言葉も違うお友達に囲まれて、日々、学校で色んな思いを抱えながら成長しているのかなと、グローバル教育を実践している母親の目線で読める本です。
子育て(だけではなく、マネジメントもですが)は、自分が主人公ではない物語を尊重し、積極的に関わり合い、お互いに変化してそれを楽しむことなのだと教えてくれます。一方で、異国で奮闘する自分を著者の息子に投影すると、私が「変化」しているさまを、なんとなく著者に肯定してもらえている気がしてホッとします。旅行者ではなく生活者なので、文化や価値観の違いから、ちょっとブルーになるようなこととも向き合うけど、そうだよそれでいいんだよ、と言ってくれるような著者の軽快な語り口調に癒やされます。複眼的なものの見方を教えてくれる本なので、子どもの有無に拘らず、部下や後輩や、時にはご両親を思い浮かべながら読んでいただきたいです。
Q2.「マーケターならこれを読むべし!」という書籍とその理由は?
音部大輔さんの『なぜ「戦略」で差がつくのか。』です。
おそらく何人ものマーケターが推す、いわずもがなの音部さんの著書ですが、もはや私の教科書と言っても過言ではないので紹介させてください。「資源」と「目的」を明確にし、方向性を見失わずに戦略を立てて実行するための多くのフレームワーク、思考法がギュッと詰まっています。
少しネタバレですが、中でも「ある場合とない場合」や、「資源の再解釈(ティーバッグとホチキスの針)」の話は非常にわかりやすく、今でもよく思い出します。「株式会社〇〇の商品××ではこの施策によって売上が△%伸びた!」等の特定の事例をあまり出さず、汎用性があるように平易な言葉で解説してくれているのは、著者が手掛けられてきた数多の事例の共通項をピックアップして、読者が応用するための余白を残してくれているからでしょう。また、「その成功事例は、恵まれた環境だからできたんじゃないの?(だから参考にならない)」という甘えを一切許さない、実に厳しい本でもあります。
マーケティングの基礎知識がなくても十分理解できるわかりやすさがあり、マーケターだけではなく、他業種の人にマーケティング思考を学んでほしい場合にも教材として機能します。私は、他部署への社内研修などで「マーケティング視点を身に着け、顧客理解を深めるための参考図書はこれ!」と、推薦させていただいています。自分が直面している問題意識によって響く箇所が違うので、手元に置いて繰り返し読むことをお勧めします。