※本記事は、2022年7月25日刊行の定期誌『MarkeZine』79号に掲載したものです。
特集:TikTok×マーケティングの最前線
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TikTokの成長を牽引する3つの要素
──はじめに、TikTokが急成長を続ける理由を教えてください。
天野:TikTokは2017年にリリースされ、日本では2019年頃から注目され始めました。当初は、10代から20代のユーザーが中心でしたが、現在はユーザーの平均年齢が34歳と、利用年齢層が広がっています。また外部の調査機関によると、TikTokの日本のMAUは約2,000万と言われ、Facebook(約2,700万MAU)やInstagram(約3,300万MAU)、Twitter(約4,500万MAU)などの代表的なプラットフォームに並ぶ位置まで成長しました。
この成長著しい背景には、TikTokが持つ3つの要素が影響しています。まず1つ目は、精度の高いアルゴリズムを持つレコメンド機能です。次から次にユーザーの見たい動画や関心の高い動画が流れてきて、ユーザーは“沼る”ように見てしまう。1つ1つの動画は数十秒ですが、TikTokの1人当たりの平均視聴時間は60分にもなっています。
2つ目は、UGCが生まれやすい設計です。TikTokの編集ツールを使えば、簡単に動画が作成でき、人気の音楽も乗せられます。エフェクトやハッシュタグチャレンジなどの企画も豊富で、「やってみたい」のハードルが低く、UGCが生まれやすいのです。
そして3つ目は、ストレスのないUXです。スムーズに動画が表示され、フルスクリーンで臨場感がある仕様は、スマホネイティブで生まれてきたサービスの強みだと感じますね。スマホに最適化されたUXで、心地よい視聴体験を提供しています。
──ここ数年で、動画視聴の環境も大きく変わりました。
天野:そうですね。スマホの通信環境が良くなり、屋外でもどこでも動画を気兼ねなく見たり、ワイヤレスイヤホンが馴染んだりといった環境の変化も、利用を後押ししています。さらに、TikTokを運営するByteDance社のマーケティングも効果的でした。TikTokが魅力的なサービスであることは間違いありませんが、自然に広がったわけではありません。2019年くらいから積極的にテレビCMや動画広告を実施し、認知を高めていったことも、成長に大きく貢献していると思います。
ユーザーは「タイパ」を求めている
──YouTubeのショートやInstagramのリールなど、各SNSも60秒前後のショートムービーに注力しています。これらの機能とTikTokには、どのような違いがありますか。
天野:TikTokは、従来のSNSとサービス設計が異なります。SNSは「誰と誰がつながっているか?」を表すソーシャルグラフが軸で、友だちやインフルエンサーをフォローして、近況や発信を見るという使い方です。一方のTikTokは、フォロー機能もありますが、「誰が発信した動画か?」よりも、面白い動画が目立つという“コンテンツ至上主義”なんです。
TikTokでは、たとえフォロワー数が少なくても、面白い動画だったらバズるし、たくさんの人に見てもらえます。もちろん、YouTubeショートがバズることもありますが、やはりチャンネル登録数やフォロワー数が影響します。ショートムービーという形は同じですが、元々のサービスの設計(アーキテクチャ)からの影響は免れないのです。
──「TikTokはSNSと設計が違う」という視点が意外でした。ユーザーは、従来のSNSとは異なる価値や体験をTikTokから得ているとも考えられますね。
天野:TikTokは、レコメンド機能の精度が圧倒的に優れていて、情報を得るための「タイムパフォーマンス(タイパ)が良い」と高く評価されています。インターネット上には消費しきれないほどの情報が毎日のようにあふれ、自分に必要な情報を探すには限界がある。そのような状態で「自分は何を見るべきか?」を教えてくれるレコメンド機能は、ユーザーの利便性を高めるだけでなく、今やサービスの競争資源でもあるのです。
さらに TikTokは、1動画に1アイデアくらいの単位で、役に立つ知識や情報が得られます。1動画1笑い、1エモのような感覚です。好きな動画は見る、つまらない動画はスキップするというユーザー1人ひとりの行動を機械が学習していくと、自分に必要な情報だけが集まり、充実感が増していく。短い時間でいろんな情報を得たい、タイパを高めたいニーズが、TikTokにばっちり合っていたと考えます。