共通言語2:用語・指標の定義と相場観
2つ目の共通言語は用語・指標の定義と相場観だ。社内で「新規顧客」「継続顧客」「ロイヤル顧客」と言っても、定義が曖昧なことが意外と多い。
たとえば、機能的には気に入って継続購入しているけれど、パッケージやブランドに愛着はないという顧客を「ロイヤル顧客」とするかどうかなどは、定義しておかないと課題認識が揃わず、意思決定にブレが出る。
CAC(新規顧客獲得単価)、CPA(獲得単価)、CPO(注文単価)、LTV(顧客生涯価値)などの指標もブレが出やすく、個人では理解していても組織で共通の定義と理解がないことが多い。
「たとえばLTVを売上で計算する人もいれば、粗利や限界利益で計算する人もいます。計算方法についても、1人ひとり計算した結果を見る人もいれば、全体平均で出す人もいる。LTVの定義がブレると、現状と課題の理解がずれ、投資判断を間違える結果になってしまうので注意が必要です」(山口氏)
共通言語3:事業フェーズ別の判断基準
3つ目の共通言語「事業フェーズ別の判断基準」は、大きく4つのフェーズで考えていく。

フェーズ1は事業立ち上げ期。0→1時期となるこのフェーズでは、企業視点で見たゴールは、製品の市場適合(PMF)となる。フェーズ2は事業成長前期(1→10)。ユニットエコノミクスと新規顧客獲得数の両立を目指す時期だ。フェーズ3は事業成長後期(10→100)。顧客数増加と顧客単価向上の相乗効果を高めていくことを目指す。フェーズ4は事業の成熟期/再生期。市場競争力と収益性の回復に取り組む必要がある。
事業と顧客層はフェーズ1ではシンプルだが、フェーズ4になる頃には商品ラインナップも増え、顧客層も広がって複雑化している。また、マーケティングチームに必要な能力は、フェーズ1は試行錯誤の量とスピードが重要なのに対し、フェーズ4には意思決定の計画性と精度が重視される。マーケティングの意思決定のガバナンスは、フェーズ1は中央集権で創業者が決めていくのがベストとなるが、フェーズが進むと、戦略は中央集権で決定する一方で、施策については権限委譲しないと回らない規模になっていく。
さらに、顧客理解の対象も変わる。市場シェアを拡大するフェーズ1~3では自社顧客を中心に、選ばれた理由を理解して再現性を高めることが重要だ。しかし、シェア縮小局面であるフェーズ4では離反顧客が選ばなかった理由を理解し対応する必要が出てくる。このような「フェーズによる原則」を認識していないと、変化に対応できないと山口氏は警鐘を鳴らした。
マーケティング思考は誰が学ぶべき?
ここまで3つの共通言語を紹介したが、誰がどの共通言語を学べばよいだろうか?
共通言語1は経営層から現場担当、DX推進チーム、バックオフィスなど全員が向き合うべきだと山口氏は言う。共通言語2は経営層とDXやマーケティングに携わるメンバーは必須だ。さらに、ファイナンス担当も加わると指標をもとに素早く合理的な判断が下せる。共通言語3について、経営層は必須だ。可能ならばマーケティング担当も知っておくと、フェーズの変化に合わせて自分のやり方も変えられる。
最後に山口氏は、「マーケティング思考人材」と「マーケティング知識コレクター」の違いを解説する。マーケティング思考人材は、目的から最適な施策を選び、マーケティング知識コレクターは最新の施策・ツールを試すことが目的化する。また、知識コレクターは事業の成果や顧客が喜ぶ姿よりも、知識の量や正しさを追求しがちだ。ゆえに、正論だけで成果が出ないと評価されることも多く、経営側からは「マーケティングを強化しても頭でっかちになるばかり」といった不信感にもつながりかねない。
一方、マーケティング思考人材が揃う組織は学びと実践をセットで考え、顧客に向けた施策を生産・実行する時間を最大化するために、社内会議と調整の時間をミニマイズしている。この「社内会議や調整を短時間化する」ためのカギが、ここまで解説された「共通言語」だ。その一歩目として「まずは誰に? 何を?を明確にすることをクリアしていただきたい」と山口氏は語り、講演を締めくくった。
