支援会社を経験、事業会社の広告運用担当へ
野崎:次に、アパレル業界で5年間働いた後、なぜデジタルマーケターに転身されたのかお聞きします。未経験領域に飛び込む際、大企業ではなく立ち上げ期の環境を選んだ理由には、どのような戦略的意図があったのでしょうか?

木下:Webで商品を販売することに挑戦したかったからです。店舗での商品販売に携わってきた経験を活かし、次のステップとしてデジタルマーケティングの分野に進みたいと思いました。ただ、未経験で事業会社のマーケティングを務めるのは難しいと判断し、支援会社で経験を積むことにしました。
アパレル時代と同様に裁量を持って仕事を進めたかったので、大手ではなく新しく立ち上げる広告代理店を選択しました。苦労もありましたが、マーケティングの基本的なスキルが身につけられた期間だったと思います。
野崎:次を見据えてのベンチャー環境の選択だったということですね。その後、1年で不動産投資会社に転職されましたが、なぜ経験のあるアパレル業界ではなく異業種を選んだのですか?
木下:広告代理店でのクライアントワークを通じ、商材によるCPA(顧客獲得単価)の違いを実感しました。アパレルの利益率では広告予算をかけられないことは自明でしたし、不動産なら高単価で利益率も高いため、広告予算を十分に確保できます。広告予算を多く使える環境のほうが様々な施策を試せることから、今後のキャリア構築に有利だと判断し、不動産業界に転職しました。
野崎:良い着眼点でして、事業会社におけるCPAが高い環境は予算が多く使えるという傾向があります。ダイナミックなマーケティング施策に携わりたい場合、そこで判断するのも賢い選択です。さて、不動産業界に転職し、事業会社のマーケターとしてのキャリアがスタートしました。しかし、ジレンマがあったようですね。
木下:不動産投資会社に広告運用担当者として入社しましたが、事前に設定されたCPAや予算内で運用することに限界を感じていました。「もっと予算があれば大きな成果が出せるのに」と、PL管理の視点からジレンマを感じていましたね。
キャリア的にもインパクトを出すためには、広告運用担当者にとどまらず事業責任者として事業全体に関わる必要があると考え、マッチングアプリを運営するベンチャー企業への転職を決意しました。
担当者から事業責任者へ、短期で成果を出す秘訣
野崎:ご自身のキャリアを「運用者に留まらず、事業に責任を持つ」方向へとシフトされていった時期だったのでしょう。そして、いよいよ「担当者から事業責任者へ」のフェーズに入ります。その経緯を教えていただけますか?
木下:目標の事業責任者へ昇格するには、最初の四半期で成果を出す必要があると考えていました。そのため入社後すぐに広告運用の改善に取り組み、2ヵ月目には会員登録者数を数倍に伸ばしました。この実績が評価いただけたのだと思います。
野崎:中途入社の初動がキャリアの分岐点になるというのは、私自身、数多くのマーケターのキャリア支援を経て実感している点です。成果を最速で出すための準備や観点は、多くの読者にとって参考になるはずです。最短で成果を出した具体的なアクションを教えてください。
木下:ロジックツリーを一から作成し、ファネル全体を分析してアプリの売上につながる指標を細かく設定した上で、デイリー管理をしました。本当に細かく見る。以上、という感じではあります。
野崎:その細かな管理方法は、1社目のアパレル時代に身につけたのですか?
木下:そうですね。アパレル時代は、時間帯別の日次管理を朝から晩まで行い、数字を詳細に把握する必要がありました。当時の上司は、来店したお客様の名前まで確認するほど細かな管理を徹底していたので、細かく見る作業は苦ではないですね。
野崎:アパレル時代の経験があったからこそ、事業責任者としてPL管理が問題なくできたのですね。参考までに指標を細かく見ていく中で、どのように優先順位をつけていますか?
木下:主要な指標を整理した後、より詳細にセグメント分けします。新規・既存、年齢別、媒体別など網羅的に整理し、改善によるインパクトが大きい領域を特定します。そこに自分の時間を集中させることが、成果を出す上で重要だと思っています。