「面白いものを作ろうとしない。」コンテンツ作りの理念
──YouTubeの本格運用を開始されてから5年ほど経ちました。その間、市場にも変化があったと思いますが、変えてきたこと、変えなかったことを教えてください。
武藤:まず、開始当初から変えていないのは、「面白いものを作ろうとしない」ことです。「たとえ面白さをすべて除いたとしても、お客様にとって価値のある情報提供をすることができているか?」を常に問いかけ、コンテンツの制作を行っています。答えが「NO」である企画は絶対に進めません。コンテンツが長く愛され続けているのは、この軸をぶらしていないことが大きな要因であると考えています。
また、営業部門の一員として、商品・サービスの訴求を必ず含めるという点も譲れません。これは社内に対して「営業スタッフとしての責務を果たしている」ということを知ってもらうことにも繋がります。

──PVや登録者数を増やしたいと考えるとついつい面白さに振ってしまいそうですが、視聴者への本質的な価値提供とビジネス貢献を重視されているのですね。変えたことはありますか?
武藤:変えた部分としては、視聴者の知識レベルに合わせた「温度調整」をより細かく行うようになりました。5年前と比較して、現在は一般の方々の投資に対する関心や認知度が大幅に高まりました。このような状況を踏まえ、初心者の方であればこのくらいの情報が必要だろう、ある程度知識がある方であればこのレベルの内容が求められているだろうというように調整しています。
たとえばNISAという言葉を聞いたことがある方と、言葉は知っていて少し取り組んでいるものの思うような成果が出ていない方では、同じ「初心者」という括りでもまったく異なります。前者の方には基礎的なコンテンツが適していますが、後者の方にはやや発展的なコンテンツが効果的です。
また、昨年制作した新NISA関連のコンテンツでは、「新NISA制度は始まったものの、今から始めても遅いのではないか」という疑問を多くの方が抱いているだろうと想定しました。そこで、そのような方々の背中を押すために「今から始めても遅くない」というコンセプトで情報を発信しました。切り口を工夫して発信すると、反響がよく、視聴者の心に響きやすいと感じています。
YouTubeも5年間運営していると、長く見てくださっている方々のリテラシーも当然成長していきます。そういった方々に合わせたコンテンツを提供する一方で、新規の視聴者向けのコンテンツも作成する必要があります。両軸でコンテンツ展開をしていく形になりますね。
「獲得チャネル」としても機能するように
──「動画視聴」のみで終わらせず、御社の顧客になってもらうために、あるいはよりロイヤルな顧客になってもらうために、取り組んでいることはありますか?
武藤:約2年前から、松井証券の口座を持っている方だけが観られる「会員限定コンテンツ」を新たに制作し始めました。会員限定コンテンツは同じ舞台設定ではあっても、別のテーマで展開するようにしています。またたとえば「著名人が注目している銘柄の紹介」など、より投資に関する深掘りした内容や、視聴者が本当に知りたい情報を提供するようにしています。
大切にしているのは、会員限定コンテンツと通常のコンテンツを完全に切り分けること。たとえば、通常コンテンツで視聴者を惹きつけ「続きは会員限定コンテンツで観られます」というようなことは行いません。あくまで「会員向けのコンテンツもありますので、ぜひご覧ください」というようなアプローチを取っています。強く進めるとファン層からの反感を買う恐れがあるため、嫌われないような温度感で実施することを心がけています。
これらの取り組みは実際の成果にも繋がっており、社内でも一定の評価を受けているところです。会員数が実際に増加しており、新たな獲得チャネルとして機能しています。
