ブランドらしさを構造化し、AIに継続的に学習させる
AIと共に働く組織をどう構築するか。その問いに答えるためにAdobeが発表したのが「Adobe Brand Intelligence」である。
AIと人間が共通のコンテキストを持ち、ワークフローの中で分業・判断・学習する組織への移行を実現するには、ツールの導入だけでは不十分だ。既存のメール配信ツールを入れ替えたり、画像生成ツールを部分的に使ったりするような「人間がツールを使って仕事をする組織」のままでは、スケールは生まれない。必要なのは、人間とAIエージェントが共通のコンテキストのもとでワークフロー全体を分業・判断・学習する組織モデルへの転換である。
「Adobe Brand Intelligence」はその基盤となる仕組みだ。ブランドの明文化されたルールと、言語化されていない判断履歴・暗黙知を統合し、AIエージェントが生成・検証・予測に活用できる形へ変換する、モデル非依存の常時稼働インテリジェンスレイヤーとして設計されている。
阿部氏が強調したのは、言語化されたブランドルールは氷山の一角に過ぎない点だ。レビュー時の修正指示やコメント、アセットへの注釈、却下された理由、例外的な承認とその根拠といった「判断の軌跡(Decision Traces)」の中にこそ、ブランドらしさの本質は宿っている。「Adobe Brand Intelligence」が差別化要素として着目するのは、最終的な制作物ではなく、そこに至るまでの人間の判断プロセスそのものを学習データ化する点にある。
この仕組みは「Adobe CX Enterprise」のインテリジェンスレイヤーとして位置づけられ、Brand Visibility・Customer Engagement・Content Supply Chainという3領域を横断しながら、検知・生成・到達・学習という「Experience Flywheel」のサイクル全体を支える構造となっている。
ブランドらしさを構造化してAIに継続的に学習させること。その仕組みをいかに組織の中に根付かせるかが、これからのブランド競争において企業が向き合うべき本質的なチャレンジだ。
「AIは忘れない」。その判断を、組織の仕組みが作る
締めくくりとして、阿部氏は本セッションの内容を改めて整理した。まず、今回取り上げたブランドビジビリティには、人間向けとAI向けの2つの面があり、同時に対応していく必要がある。
紹介されたゼネラルモーターズとコカ・コーラの事例は、実は同一の構造を持ち、一つのオペレーティングモデルで回せることが示された。その核心は「外部シグナルを起点とすること」であり、従来のデータドリブンの概念をさらに拡張し、GEO・SEOを横断する豊富なシグナルをリアルタイムかつ並列で処理することが求められる。2026年5月に発表されたSEOツールを提供するSemrush(セムラッシュ)の買収は、まさにこの包括的なシグナル処理能力を強化するための戦略的な一手だと阿部氏は説明した。
そしてこのオペレーションを支えるのが、AIと共に働く前提に立った自己強化ループ「Experience Flywheel」である。消費者の傍らに存在する「外部のAI」と、組織の中で共に働く「内部のAI」。その両方に対して、ブランドが存在する理由と提供価値を正しく理解させなければ、価値あるアウトプットは生まれない。
そして、その判断を形作るのは、組織が今日積み上げているものに他ならない。文脈(Context)・体験(Experience)・資産(Asset)の3つを日々蓄積する仕組みを持てているか──セッションの最後に阿部氏は問いかけた。
「AIは忘れない。AIは、あなたのブランドを判断し続けています。その判断を形作るのは、あなたの組織が今日積み上げているものです」(阿部氏)

