「目の時代から耳の時代へ」現役で半世紀のベテランが見る、メディアの現在地
杉山氏は1974年に立教大学経済学部を卒業後、電通へ入社し、クリエイティブディレクターとしてテレビCMなどの第一線に立った。半世紀を経た今も、毎日コピーを書く現役のクリエイターである。講演は、その来歴を振り返るところから始まった。
1999年よりデジタル領域のリーダーとしてインタラクティブ広告の確立に貢献し、2012年にライトパブリシティへと移籍した杉山氏。2018年には第7回ACCクリエイターズ殿堂入りを果たし、2022年には全広連の日本宣伝賞「山名賞」を受賞するなど、数々の栄誉に輝いている。さらに、カンヌ国際広告賞で国際審査員を務めた経験や、大学で特任教授として後進を育成した実績も持つなど、その活躍は多岐にわたる。
今日では日本の広告費の大部分を占めるまでになったインターネット広告市場だが、杉山氏がデジタル領域に関わり始めたのは、「まだ何もない荒野」の頃だ。当時の社内では“左遷”とも言われたという。
「電通の副社長に『お前がやるしかない』と言われて、インターネットの黎明期を経験しました。まだ何も開墾されていない、シベリアの凍土を耕してこいと言われたように感じたのを覚えています。それから20年以上が経って、今世の中が変わっていますね。日本のマスメディアではいち早く舵を切った日本経済新聞では電子版の購読数が紙に迫る勢いで、先んじて取り組んでいたニューヨーク・タイムズのような状況まで成長している。改めて驚きます」(杉山氏)
メディアの主役が移り変わる様子を現場で見続けてきた杉山氏。その関心は今、「目の時代から、耳の時代への原点回帰」とも言える、「音」に向かっている。「オーラルコミュニュケーションの時代始まる」と題し、なぜ今メディアとして音声が重要なのかを紐解いていく。
ラジオの未来はポッドキャストにある
現在クリエイティブディレクターとして知られる杉山氏は元々ラジオCM出身のコピーライターで、現在はクリエイティブディレクターだ。耳に届く言葉、いわゆるオーラルコミュニケーションを出発点にしてきた。文字としてではなく、音として言葉を考える。その姿勢は今も変わらず、TOKYO FMの社外取締役としても音声メディアの将来を考え続けているという。なぜ今「オーラルメディア」が求められているのか。杉山氏はラジオ時代の経験を交えて語る。
「言葉が音になったらどうなるか、誰に喋らせたら伝わるか。いつもそう考えてコピーを書いてきました。僕にとって言葉は、いつも音とセット。紙媒体のコピーライターとは、そこが違うのかもしれません。文字情報という『視覚』に頼るマーケティングとは異なり、音声によるコミュニケーションは、受け手の感情や深層心理にダイレクトに届く強みを持っています。今はテレビもラジオも新聞も雑誌も、オールドメディアはどれも厳しい。それでもラジオの未来をずっと考えていて、たどり着いたのは『ラジオの未来はラジオではない』ということでした。ラジオの未来はポッドキャストです。そのプラットフォームであるSpotifyは、未来のラジオかもしれません」(杉山氏)

音声は形を変えてこれから伸びていくと見立てる杉山氏。これは20周年を迎えたSpotifyが音声プラットフォームというインフラで示してきた成長性にそのまま重なるものだ。事実、日本のSpotifyにおけるポッドキャストの月間聴取時間は2024年から2025年にかけて+31%伸長している(*1)。また若年層(10〜30代)においては、ポッドキャストの認知や利用度など主要なブランド指標でSpotifyがトップに立っており(*2)、音楽だけでなく音声コンテンツにおいても高い存在感を示している。
*1 出典:Spotify ファーストパーティーデータ、2025年7月
*2 出典:マクロミル「 Podcast利用者に関する調査結果」、2024年12月13日(金)~12月16日(月)、2,496サンプル、15~39歳の男女
講演では耳の時代のマーケティングにつながるヒントとして杉山氏のクリエイティブを支えてきた普遍的な考え方である「意味のデザイン」と、「音」がコピーやその先の人々にもたらす効果が語られた。
サウンドオンの時代。ミュートされないマーケティング戦略を、Spotifyと考えませんか。
AI・ストリーミング・コネクテッドデバイスの普及により、音声は補助的なチャネルから中核メディアへと進化しています。広告主の80%が「デジタル音声は他メディアより信頼を得やすい」と回答。Spotifyが発行する最新インサイトレポートで、音声マーケティングの今と未来を読み解きましょう。
デザインとは「意匠」ではなく設計・企画である
杉山氏がこの10年テーマにしてきたのが「経営にデザインは必要なのか」という問いである。ただし、デザインという言葉は誤解されやすいと指摘する。

「デザインは日本語で最初に『意匠』と訳されました。そのため『見栄えを良くするものだ』と、今でも狭く捉えられがちです。最近は『デザイン経営』という言葉もよく耳にしますが、経営者からは『美大を出ていなくて大丈夫ですか?』と聞かれます。でもデザインの本来の意味は、設計すること、企画することです。決して色をつけたり線を引いたりすることだけではないのです」(杉山氏)
杉山氏が率いるライトパブリシティは、銀座で76年目を迎える老舗であり、日本の「デザインの聖地」とも言われる最先端のデザインファームだ。コピーもテレビCMもすべてデザインから生まれるという確固たる理念を持ち、社会や企業の問題をデザインの力で解決し続けてきた。同社にはコピーライターの草分けである秋山晶氏が今も在籍しており、杉山氏もまた現役として最前線でクリエイティブを支えている。
杉山氏自身のルーツとして、1964年の東京オリンピックのポスターがある。当時16歳だった杉山氏は、オリンピック史上初めて写真を使ったこのポスターを見て衝撃を受け、クリエイティブの道を志したという。視覚のメディアが持っていた最先端の力に触れたことが、現在の「意味の設計」へとつながる原体験となったのだ。
「意味のデザイン」が導く新たなブランド価値
杉山氏は自身の仕事を「価値の再定義」と「意味のデザイン」と呼ぶ。対象にどんな意味を持たせるかを設計・企画するという、デザイン本来の役割を一歩進めた考え方だ。
その具体例として、直近の仕事が紹介された。一つは、ぴあの企業ステートメント「Life is Pure」だ。情報誌からチケッティングサービスへと変化した同社において改めて原点回帰を図るため、「ぴあがないと、笑えない」「ぴあがないと、泣けない」といった、人間の純粋な感情や行動とブランドの結びつきを言葉でデザインした。
また、2025年12月に行われた「ポーラ ギンザ」の新サロンリニューアルオープンでは空間デザインに携わった。設計デザインは建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した妹島和世氏に依頼。不安定で動いているように見える様が特徴的な「七角形」を有機的な植物を連想させるシンボルとして用い、「新しい自分に出会うフローラの森」というコンセプトをあえて有機的な植物を一切使わずに「森」を作る試みで、銀座の新しいシグネチャーとなる空間をディレクションした。
さらに地方創生の事例として、北海道東川町のふるさと納税の新聞広告がある。2025年12月に掲載されたこの広告では、「写真の町」として独自の文化を育む東川町を、特産品ではなくエゾフクロウの視点から描いた。
「普通、ふるさと納税というと、自慢のお米や野菜を見せるものです。でもこの広告では、アイヌの神様であるフクロウがこの街を見ている。『どうして、この町は、ニンゲンがニンゲンらしいんだろう。』と、フクロウの視点から語りました。これが、私の言葉でいう『意味のデザイン』です」(杉山氏)
何を売るかではなく、どんな意味を持たせるか。杉山氏のデザイン観が成果に表れた例である。
サウンドオンの時代。ミュートされないマーケティング戦略を、Spotifyと考えませんか。
AI・ストリーミング・コネクテッドデバイスの普及により、音声は補助的なチャネルから中核メディアへと進化しています。広告主の80%が「デジタル音声は他メディアより信頼を得やすい」と回答。Spotifyが発行する最新インサイトレポートで、音声マーケティングの今と未来を読み解きましょう。
ライバルは作詞家?名作に通底する「音」の力

杉山氏の過去の代表作にも、当然「意味のデザイン」があった。27歳で手がけた小学館「ピッカピカの一年生」は、日本初のデジタルビデオ活用広告だったというが、テレビが他のメディアと違う唯一の強みとして「生中継」であることに着目。「各地から入学を迎える子どもたちの様子が生で飛んでくる」といったイメージを想起させるため、当時の主流であったフィルムではなく、生中継らしいデジタルビデオを使った。カルト的人気CMとしてSNS登場以降も度々話題化されてきたサントリーローヤル「ランボー」も、当時クライアントが掲げた「酒を売るな、文化的なものを売れ」という言葉を反映したデザインだ。
こうした「意味のデザイン」と並び、杉山氏が大切にしてきたのが、「音としての言葉」の力を引き出すデザインだ。「セブンイレブンいい気分」のサウンドロゴもその一つ。東京都世田谷区に10店舗を展開した頃のラジオCMで生まれた。
そんな杉山氏が自身の一番のライバルと語るのはコピーライターではなく「作詞家」だった。
「作詞というのは、文字だけを見ると大したことがない。どんなメロディの上に乗るのか、誰が歌うかで悲しい歌にもワクワクする歌にもなる。コピーライティングにも音が重要。だから現在のポッドキャストも、この私の考え方と相性が良いのです」(杉山氏)
企業が生活者と結ぶコミュニケーションにおいて、単なるテキストとしての言葉ではなく、「音としての言葉」がいかにブランドの認知や好意度を決定づけるか。杉山氏は自身の経験から、その絶大な効果を強調した。
実際にSpotifyがパートナーと実施した調査では、サウンドロゴを使用したクリエイティブでは、認知度は平均と比較して+17ポイント、好意度は+21ポイント高まることが確認されている(*3)。
*3 出典:Mercury Analytics(2024〜2025年、日本、n=1126)
Spotifyがもたらした最も価値ある変化
講演終盤、杉山氏は目から耳の時代への変化について改めて語った。
「声は人格の伝達そのものです。視覚的なコミュニケーションでは外見で取り繕えても、声(オーラルコミュニケーション)は嘘をつけません。だからこそ、音声で発信するメッセージには本質的な『人格』が現れます。(メディア論の第一人者である)マーシャル・マクルーハンは、ラジオを『部族の太鼓』と呼びました。音声には、人を結びつける力があるのです」(杉山氏)
さらに、音声が持つビジネスやマーケティングの新たな可能性として、シンガポール発のテック企業で「人の音声」の世界的アーカイブを構築している「VoiStock」を紹介。すでにJR東海などの大手企業がこの音声資産を活用したビジネスを展開し始めている事例を挙げる。
この例が示すのは、音声が単なるメディアの枠を超え、企業の重要なコミュニケーションインフラへと進化している現状だ。杉山氏によれば、VoiStockのCEOである福井陽孝氏は「Spotifyがもたらした最も価値ある変化は、お金を払えない人でも世界中の音楽データを検索しアクセスできるインフラを作ったことだ」と評価する。
AIをはじめとしたテクノロジーの浸透が進む現在。一方で、杉山氏が取り組んできた「意味のデザイン」の必要性がようやく日本でも理解され始めた。
「2027年9月、東京大学に約70年ぶりとなる新学部『カレッジ・オブ・デザイン』が設立されます。スタンフォード大学では2005年に『d.school』ができました。世界中で『経営にはデザインが必要だ』と言われ、日本もようやく動き出したところです」(杉山氏)
また、スタンフォードのオンラインハイスクールでは、中高生に必要な「唯一の必修科目」として哲学を教えていると指摘。「AIが出すのは一つの答えで、問いを作るのは人間です。良い問いがなければ、良い答えは出ません」と述べ、デザインの源泉を人間自身の問いに求めるべきというスタンスを強調した。
今もFM COCOLOの番組『RADIO SHANGRI-LA』で立川直樹氏とともにDJを務め、発信を続ける杉山氏。半世紀にわたり言葉と音に向き合ってきた同氏が、耳の時代に人間が果たす役割を語り尽くした。
杉山氏が語った「目の時代から耳の時代へ」という潮流。その変化の中心に立つSpotifyは、音声広告をはじめ、こうした音声の力をマーケティングに活かすためのソリューションを幅広く提供している。音声がコミュニケーションの主役へと進化しつつある今、次の10年のプラットフォームとしてのさらなる可能性を、広告主たちとともに切り開いていく。
サウンドオンの時代。ミュートされないマーケティング戦略を、Spotifyと考えませんか。
AI・ストリーミング・コネクテッドデバイスの普及により、音声は補助的なチャネルから中核メディアへと進化しています。広告主の80%が「デジタル音声は他メディアより信頼を得やすい」と回答。Spotifyが発行する最新インサイトレポートで、音声マーケティングの今と未来を読み解きましょう。

