歴史の転換点で、マーケターは明日から何ができるか
では、広告主やマーケターは、明日から何をすべきなのか。セミナーでは、情報収集、試行錯誤、ユーザーとの乖離を防ぐことが論点として示された。
まず必要なのは、「実際のChatGPT広告を見てみること」である。どのような質問に対して、どのような広告が、どの位置に、どのような表記で表示されるのか。広告主として考える前に、ユーザーとして体験することが重要である。
次に、自社の商品やサービスが、どのような会話文脈で役に立つのかを整理する必要がある。検索広告のキーワードリストを作るのとは違い、ユーザーがどのような悩みや目的を持ってAIに相談するのかを想像し、それを言語化する作業が必要になる。
さらに、出したい文脈だけでなく、出したくない文脈を定義することも重要である。ChatGPTでは、ユーザーが深刻な相談をしている場合もある。健康、家族、借金、仕事、メンタルヘルスなど、広告表示がユーザー体験やブランドに悪影響を与える文脈については、慎重に考える必要がある。
最後に、KPIと検証方法を見直す必要がある。クリックやコンバージョンだけではなく、会話型AI上の広告が、認知、比較検討、意思決定支援にどのように影響するのかを考える必要がある。ただし、会話文脈の詳細を取得しすぎることは、プライバシー上の問題にもつながる。そのため、透明性とプライバシーのバランスを取りながら、検証方法を設計していくことが求められる。
結び:広告枠ではなく、会話文脈の時代へ
今回のDMIセミナーは、ChatGPT広告の現状を理解する上で、非常にタイムリーな機会だった。OpenAIによる広告パイロットの拡大、StackAdaptとの協業、日本での配信開始、広告表示におけるSponsored表記、安全性やプライバシーに関する原則、Shirofuneによる運用支援、そして信頼性・透明性・ブランドセーフティの論点が一通り整理された。
これらを総合すると、ChatGPT広告は、単なる広告枠の追加ではない。従来のインターネット広告が、媒体面、検索語、人や興味関心へと接点を広げてきたのに対し、ChatGPT広告は、会話文脈、すなわちユーザーがAIに相談し、意思決定を進める場に近づいている。
この変化は、広告主にとって機会であると同時に、慎重な設計が求められる領域でもある。ユーザーは、ChatGPTに単なる検索ではなく相談をしている。その場に広告が表示される以上、広告主は、目立つ広告を作るだけでは不十分である。繰り返しとなるが、どの文脈で表示されるべきか、どの文脈では表示されるべきではないかを考える必要がある。プラットフォームには、回答の独立性、会話のプライバシー、広告表示の透明性、ユーザーの選択とコントロールを守る責任がある。広告主には、自社ブランドがユーザーの会話文脈の中で自然に役立つ接点を設計する責任がある。
インターネット広告には、既に長い歴史がある。バナー広告、検索広告、SNS広告、アドネットワーク、リターゲティング広告、動画広告。新しい広告技術が登場するたびに、広告主にとっての機会は広がってきた。一方で、その過程では、広告の倫理、PR表記、ブランドセーフティ、アドフラウド、過剰なターゲティング、プライバシー保護など、多くの課題も生まれてきた。いまなお議論が続いている論点も少なくない。いよいよはじまった生成AI広告は、これまでのインターネット広告の歴史を繰り返すのだろうか。それとも、会話型AIという新しい環境の中で、まったく別の広告の歴史を作っていくのだろうか。
広告には、その時代の空気、企業の意図、生活者の関心が映し出される。広告好きの筆者として、生成AI広告がどのように発展し、どのような課題を生み、どのような新しいコミュニケーションを可能にするのか、今後も注目していきたい。
