「正解の価値が暴落するAI時代」に、勝ち残る人のスキルとマインド
能村:では、最後のテーマ「AI前提時代に求められるスキル・経験・マインド」に移りたいと思います。BtoBビジネスにおけるAI活用が急速に進む中で、これからのキャリアにおいてどんな能力や姿勢が必要になってくるのか、お二人のお考えをお聞かせいただけますでしょうか。
飯髙: まず前提として、「AIを我々はどう捉えるべきか」という話からさせてください。2023年にChatGPTなどの生成AIが登場して便利になりましたが、皆がネット上の情報を集めてAIにそれっぽいアウトプットを作らせたり、社内で不揃いなデータを作成したりした結果、世の中に質の低いコンテンツが大量に溢れてしまいました。そしてAIエージェントが登場したものの、自社でエージェントまで構築して使いこなせている企業なんて1割もいません。
「AIで世の中が劇的に変わる」という世間のニュースと、まだチャットレベルの利用で止まっている現場。この間にある大きなギャップを認識することがスタートラインになると思います。
それから、世間では「AI vs 人間」みたいな対立で語られがちですが、それって少し極端ですよね。大切なのは「AIとどう共闘するか」です。単純作業はAIにやらせつつ、人間は最終的な「判断」と「どう成果を積み上げるかという設計」に集中するべきです。
向井:いま飯髙さんが言った「人間がどう判断して共闘するか」という話に少し別の角度から補足すると、2010年代にGoogleが出てきて起きたのは「情報の民主化」でした。そして今、生成AIによって起きているのはなんだと思いますか? それは「正解の民主化」なんです。つまり、正解や合理性といったものの価値が一気に暴落しているんですね。
ですが、ビジネスや人間の意思決定って「合理性」だけで動くものじゃないですよね。もし人間が完全に合理的な生き物なら、世の中から喫煙者はゼロになるし、走ってる車はすべてエコカーになるし、夜更かしも浪費もしないはずです。でも、そんなことないじゃないですか。人は不安とかワクワク感といった「感情」や「非合理な要素」で最終的な意思決定をします。
私も大学院で教える講義資料はAIをベースに作ります。過去の論文を集めるのはAIが得意ですから。でも、それをそのまま読み上げても意味がない。「ここは絶対に間違えないでほしい」というポイントを熱量込めて語り、具体例を出しながら感情に働きかけて意識変容を起こす。これこそが人間の役割です。合理的な正解はAIに任せて、人間はいかに「人の感情や意識変容」に踏み込めるかが勝負になります。

飯髙:「非合理」ってめちゃくちゃ重要ですよね。AIがどんなに優れた回答を出しても、最終的に判断して購入の意思決定をするのは人間なんですよ。非合理な意思決定が行われる世界で、私がこれから重要になると思っているのは「好かれる力」です。
皆さんも、大きな買い物をする時って、商品スペックよりも「この営業なら安心できる」「何かあったらすぐ飛んできますと言ってくれた」みたいな非合理な安心感で選んでいたりしますよね。正解や言語化をAIがやってくれる時代だからこそ、「好かれること・安心感」といったものが、選ばれるための決定打になるのではないでしょうか。
「わからない」に耐え、泥臭い経験で中身を作れ
能村:最後に、これからの時代にキャリアを切り拓いていく皆さまへメッセージをお願いできますか?
向井:一つ、ぜひ持ち帰ってほしい言葉があります。それが「ネガティブ・ケイパビリティ」です。どういうことかと言うと、「わからないことに耐える、わからないことを受け入れる能力」のことを指します。
AIやネットを使えば、1秒で「それっぽい正解」が手に入る時代になった反面、私たちは思考を深める時間を失っています。安易にAIやネットの正解に頼らず、自分自身に対して「私、これわかってないんだ」とメタ認知し、顧客と一緒に「わからない状態」を受け止めて議論していく。
これは「無知の知」にも通じる話で、「わからない状態を宙づりにして考え続けることが、創造力や新しいアイデアの源泉になる」という思想の営みは、2500年前に哲学が誕生した時代からずっと言われ続けていることでもあります。
飯髙:私は、AI時代だからこそ「自分自身の経験を泥臭く作っていくこと」がキャリアの真髄だと思っています。
どれだけAIが進化しても、最後にジャッジして責任を持ち、自らのキャリアを築いていくのは人間自身です。AIがどこまで強力になっても「人間」ではありません。だからこそ、一次情報に自ら触れ、失敗や成功を自分の足で実体験として積み重ねていくこと。そうやって、職種の境界線を越えて商売全体を動かせる人を目指してほしいですね。

能村:お二人とも、本当にありがとうございました。私個人としても、マーケティングと営業について改めて深く振り返る非常に濃密な時間になりました。
向井さんからいただいた「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉。まさに「わからない」を受け止めて内省し、自ら越境して現場に出ていくからこそ、お客様の解像度を爆上げしに行くことができるのだと感じます。
AIが正解を出してくれる時代だからこそ、すぐに安易な答えに飛びつかず、人間だからこそできる「モヤモヤ」や「悩み」にこれからも泥臭く向き合っていきたいと思います。
