休眠顧客活性化率145%UPの裏にある戦略
――続いて、メディアやCXの戦略についてうかがいます。クリエイティブをどのように人々に届けていったのでしょうか。
中西:交通広告やデジタル広告を連動させながらキャンペーンを展開しました。特に注力したのが、東京メトロの銀座線と丸ノ内線のトレインジャックです。車両全体をCRAFTMAN,SHIPS仕様にし、吊り革部分にはシップスを知ってもらうクイズを掲載しました。
中西:実は銀座線は、当社の前身である三浦商店があった「上野」、シップスの原点であるミウラ&サンズができた「渋谷」、そしてSHIPS1号店ができた「銀座」を通る、当社の歴史を語る上で欠かせない路線です。この電車に乗った休眠客の方々に、昔を思い返して来店していただくきっかけになればと願いを込めました。
山口:店舗においても、「この1年間はキャンペーンのクリエイティブの方向性でしか装飾しない」と決め、お客様との会話のきっかけを作ることに注力しました。接客を通して喜んでいただき、従業員みんながお客様との絆を感じられる体験を目指しました。
三瀬:会員向けのクリエイティブもキャンペーンのクリエイティブに寄せて、全体の世界観を醸成しています。
――カンヌライオンズのデザイン部門の中でも定量的な成果に紐付いた作品に与えられる「Design-Driven Effectiveness カテゴリー」でも受賞されていますね。具体的な成果について教えてください。
三瀬:効果測定にあたって、本来はコロナ禍からの推移や指標で比較したかったのですが、当時と現在ではお客様のライフステージやステータスが大きく変化しており、単純比較が難しい状態でした。そこでデータ分析を重ね、現実的な定義として「最終購買から1年以上が経過している方」を「休眠顧客」と改めて位置づけし、ID単位でトラッキングを行いました。その結果、休眠顧客の活性化率145%アップ、新規顧客獲得率も117.2%アップという成果を達成しました。
また、お客様からSHIPSとの思い出エピソードを募集したところ、100件以上の熱いコメントが寄せられました。一方的にメッセージを伝えるのではなく、お客様との双方向のコミュニケーションが生まれたことが、数値を押し上げた最大の要因だと評価しています。
山口:加えて、インナーブランディングとしても非常に意義が大きいものになりました。社内に向けて50周年のSNS投稿を依頼したところ、思い思いの表現で投稿をしてくれました。「青いまま進む。」という言葉が社員の心にも深く浸透しているんだと実感しました。
SHIPSらしさの物差しと、次の100年へ
――情緒的なアプローチでありながら、ビジネス的な成果につなげられた秘訣はどこにあったのでしょうか。
宝蔵寺:プロジェクトの中で「こっちのほうがSHIPSっぽいよね」という決定をされることが多く、シップス様の中に、売れ行きやトレンドだけに左右されない明確な「ブランドらしさの物差し」があると感じました。
また、50周年を単にモノを売るための場ではなく、自分たちの思想や信じること、好きなことを伝える場にすると決断されたことも大きいと思います。
周年キャンペーンの目標として、アテンションや新規顧客の獲得を設定するケースが多いです。それも決して悪いことではありませんが、シップス様の場合は顧客の状況を分析し、ビジネス課題からメインターゲットをあえて休眠顧客に定め、シップスの想いを伝えることを狙いました。ここがビジネス成果につながった理由だと考えています。
――「ブランドらしさ」はどのように社内で共有されているのですか?
山口:共通の物差しを持つことは、私たちにとって長く課題でした。そこで、2023年に新しい企業理念「SHIPSの羅針盤―SPIRIT OF SHIPS」を策定しています。シップスとはどのような会社か、SHIPSはどのようなブランドかを社内で共有できる状態で周年キャンペーンに取り組めたのです。この点も良かったと思います。
――最後に、次の100年に向けての展望をお聞かせください。
山口:実はプロモーションを開始する前に、社長から「51年目以降を考えなさい」と言われました。今がちょうど、その51年目です。50周年で自分たちの姿勢を見せ、軸となる地固めができたからこそ、他社様との協業やIPコラボなど、新しい海へ向かって積極的に船を進ませています。これからも、新たな取り組みをご紹介できるようにしていきたいですね。
中西:PR部門としては、戻ってきてくださったお客様との関係性をさらに深めるための方法を模索しています。直近では、コロナ以降デジタル化していたカタログを、あえて「紙」で復活させました。スタッフとお客様の会話のきっかけにもなりますし、お客様とご家族の話題にもつながっているかと思います。このように、お客様との間に温かい会話が生まれるコミュニケーションを大切にしていきたいです。
三瀬:今回得られた財産を活かし、商品の価値を適正な価格でお届けしながらクオリティを高めていくこと。そして中長期的には、次のコアターゲットとなる20~30代の方々に対してデジタルの接点も活用しながら、いかにブランドの魅力を伝えていくかに挑戦していきたいと考えています。
――これからどのような進化をしていくのか、いち生活者としてもとても楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。
