テレビ、オーディオ、カメラのすべてで軸足を移す
――具体的に、いつごろから高付加価値商品に注力されていったのですか?
2011年にアナログ放送が停波し地デジに切り替わった頃からですね。たとえばBRAVIAなら高画質・高音質はもちろん、新しい放送フォーマットである4Kにもいち早く取り組みはじめました。オーディオも、ポータブルを含めてハイレゾ対応に力を入れてきました。同時に、認知を広げてきた結果が、昨今の市場からの支持に表れているのだと思います。
ソニーは現在、今お話ししたテレビ領域、オーディオ領域に加えて、デジタル一眼カメラの「α(アルファ)」に代表されるデジタルイメージング領域の3つが主力事業です。特にデジタルイメージング商品はキーデバイスのイメージセンサーを自社で開発していますし、レンズも自社製品なので、付加価値として当社の競争力を高める要素になっています。デジタルカメラはいっとき、コンパクトカメラが全盛になりましたが、今また少しこだわった製品を求める方が増えてきている流れがあります。それを捉えて、イメージセンサーで差異化し、より高画質に、またレンズも高付加価値領域に注力しています。
――モノ軸からコト軸になると、マーケティングのやり方も変わりますよね。
そうですね。従来はモノを所有することに重きを置いていましたが、商品を体験してその機能の価値を知る、あるいは使っていくことでより価値が増すことを訴求するマーケティングに切り替えてきました。
購入直後の“熱い”時期を逃さずにアプローチ
――最近、ファンマーケティングやコミュニティマーケティングにシフトする企業が目立つ背景には、マス広告が効きづらくなったことが挙げられます。御社はマス広告のイメージも強いですが、その点はどう捉えていますか?
当社にとって、テレビCMをはじめマス広告は認知獲得のために今でも非常に重要な媒体です。一方、生活者が接する媒体が変化し、オンラインでの情報収集やSNSで商品を知ることも当然になっているので、これにどのように対応するかも重要視しています。よりパーソナルなアプローチが必要になるので、どう使いこなすかといったコト軸にコミュニケーションを振りながら、マスと並行して個々へメッセージするマーケティングも大事にしています。予算も、単純に割合では表せませんが、以前よりデジタルに重きを置いているのは事実です。
――では、コト軸でファンを捉えて育てるために、どんな活動をされているのでしょうか。
大きく、オンラインとオフラインの場があります。まずオンラインは、前述のような変化の中で、デジタル領域にコミュニケーションの場をシフトしています。自社の商品Webサイトの活用はもちろん、My SonyというIDをベースに、商品をご購入いただいた方の製品登録を促しています。製品登録をベースに、お客様にとって必要なおすすめ情報やサポート情報を送っています。このような情報を効果的、効率的にアプローチするため、マーケティングオートメーションツールを使っています。特にお客様の関心が高まったときに適切な情報を提供するようにオペレーション設計をしています。関心のない情報を送って破棄されないよう、興味関心に応じてタイムリーに情報を届けるということですね。
たとえば商品への注目が高いのは、購入して最初の3ヵ月間だと言われています。メールの開封率なども圧倒的に高い。ここでしっかりコミュニケーションできると、その後もお客様と継続して深いつながりができるので、プッシュする内容を試行錯誤してアプローチしています。
一度ID登録をしていただければ、持っている商品に合わせた情報提供ができますし、やり取りを重ねるほど必要な内容をお届けできます。タッチポイントのどこからか、ソニーに接触してもらえれば、そこから適切な頻度でコミュニケーションを繰り返して、よりソニー商品を楽しんでお使いいただくサポートを継続していく。そんな、カスタマーマーケティングに注目しソニーファンを創造していきたいと思っています。